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指名手配犯、少女に絡まれる

 井上は、少女から目線を外し、ゆっくりと手元のカレー皿へと身体を戻した。


「他を当たってくれ」


 この辺の人間なら見たら直ぐに分かる。新しく自分達のコミュニティ入って来た人間なら、新入りが入って来たという話がある筈だ。その話も無く、相当な整形をしたので無ければ、今自分達の前に構えている少女は完全な部外者という事になる。


「そういう事だ」


 汐見も同意見の様だ。厄介事は御免なのだ。

 極めて稀であるが、何かの縁で此処まで辿り着く人間は居る。そういう人間は、意図して此処まで来たか、又は偶然此処まで来たかの2択なのだが。前者ならば此処に住み着き俺達の仲間に入る。しかし後者ならば、記憶を消されて森に放り帰されるか、はたまた殺されるかのいずれかに至る。

 この少女は、依頼をしに来た様だ。顔を隠している所を鑑みても、此処がどういう場所かを理解している様だ。意図して此処まで辿り着いた人間。こんな子供が。どう考えても普通では無い。面倒事を抱えていますと、顔に書いてある。


「ねえ、仕事の依頼をしたいの」


 再度、仕事の依頼をしてくる。一体何を考えているのか。


「おいおい聞こえなかったか? 他を当たってくれ」


 さっきよりも語気を強くして言ってみる。


「うん、聞こえなかった。仕事の依頼をしたい」


 おいおいおいおい、なんなんだこの嬢ちゃんは。井上は顔をしかめた。向かいの席に座る汐見は、呆れた様子で溜息をついた。


「他を当たれと言っている」


「言ってる意味が分からない。私は仕事の依頼をしたい」


 どうやら引き下がる気は無いらしい。軽くあしらうのは無理と判断した井上は、手に持っていたスプーンを置き、身体を少女へ向けた。


「聞こえてるだろ。さっき『うん』て言ったの聞いてたからな? お嬢ちゃんには悪いけど、仕事の依頼は受けない主義なんだ。薬草採って、野菜売ってりゃあ十分生活出来るんでね」


 少女の表情は未だに無のまま変わらない。何を考えているのか全く読み取れない。


「声が小さい、もっと声を張って欲しいね。という・・・かつべこべ言わずに依頼を受けろ。キレるぞ」


「勝手にしろ」


「ほら・・・私の内なる暴君が、今にも顔を出そうとしてる! 私は“それ“を必死に押さえ込んでるの・・・! だから早くして・・・!?」


「『ほら』ってなんだよ。受けないって言ってるだろうが、さっさと帰れ・・・。あーこれ以上しつこいと、俺の内なる名君も、キレて暴れ出しちゃうよー」


「僕の内なる細君も、今にも夕食の時間だと僕を呼びに来そうだ」


「お、出たなイマジナリーガールフレンド。調子はどうだ? ・・・晩メシ早くね? 今昼食ってる最中よ?」


バンッ


 突然、少女が机に何かを押し付けたのだ。それもとてつもない勢いで。カレーを殆ど完食しておいて良かった。あわやカレーが四散するところだった。自分も汐見も服をおじゃんにするところだった。


「なんだよ・・・」


 押し付けた物に目を向ける。すると机の中央に、四角いA4サイズくらいの紙があった。勢い良く押し付けたせいで、中央に向かって四方からシワが寄っている。


「これ、依頼の契約書。此処見て此処!」


「「契約書?」」


 思わずハモってしまった。何かと思えば契約書らしい。


「貴方の印鑑が押してある。これで契約成立。つまり貴方達は、私の依頼を受けなければならない」


「んんん!? どういう事だ?」


 見ると、何やら名前を書く場所に「シオミ」と書かれており、その隣に印鑑が押されていた。印鑑は、確かに汐見の物であった。自分達がまだ高校生をしていた頃に、いつ必要になるか分からないからと言って作った物だ。


「なるほど。今丁度、印鑑が見当たらなくて焦っていたところだ。まさか、お前だったとは」


「汐見お前焦ってたのか。もっと態度に示せよ。・・・てか何で印鑑なんか持ち歩いてんだ!?」


「昨日、“明日重要書類の提出に印鑑が要る“と言われた。確定申告だとかなんとか」


「なんでこっちの世界にも確定申告あんだよ。しかもまだ印鑑要るタイプ・・・早くペーパーレスになって欲しいもんだね」


「ふん」


 少女が鼻で笑う声が聞こえた。見ると、誇らしい気に腕を組んでいる。


「さっきすれ違った時にチョロっとやった。気い、緩め過ぎなんじゃない?」


 汐見を見ると、何やら心当たりがあるらしかった。「さっきぶつかって来たのはお前か」と言っている。いや「うんうん」じゃ無いだろ。なに納得してるんだよ失態かましといて。


「おいおいおい・・・やってくれたなお嬢ちゃん? こりゃあれだ・・・わかるよな? 印鑑くすねて勝手に使って、立派な犯罪行為だぜ。今すぐにでも警察に突き出してやってもいい。そしたらこんな契約白紙も白紙・・・何の意味も、成さなくなるんだぜ?」

 

「・・・こんな無法地帯で、警察なんて機能してると本気で思ってる? 見渡す限り、“貼り紙“で見たことある顔ばっかだけど?」


 この少女はやはり此処がどういう場所かを理解している様だ。少女の言う通り、此処に法律なんてものは無い。有れば全員牢獄に入る事になってしまう。此処は、何らかの理由で世界中から追われる身となった者達が集まって出来た場所だ。どいつもこいつも、捕まえれば一生遊んで暮らせる金が手に入る輩ばかり。世界から狙われ、逃げる事に疲れて果てた人間達の、唯一無二の安寧の地なのだ。


「なら尚更わかるよな? 契約書だか何だか知らないが、無法地帯でこんな紙切れ1枚、口約束と変わんない。俺達を懐柔しようなんて100年早いわ。さっさと帰れよ見るからに厄介そうなお嬢さん。面倒事は御免なんだ」


「受けよう」 


「ああ、お前も言ってやれ汐見。ここはガツンと『早く印鑑返してください』・・・て、え!?」


「その依頼、受けよう」

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