表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
約束  作者: 榎 実
9/46

8月1日③

11時に差し掛かる頃、香織が素麺を食べないかと声をかけてきた。もう小腹は空いていたので、早めの昼食にすることにした。

4人前の素麺を茹で、付け合わせや薬味を色々用意していたら、11時半を回っていた。

冷蔵庫で昨夜のマグロ刺を発見したので、クロには手作りツナを用意した。


「庭にいる猫、夜中も鳴いてたよ。」

自分たちとともに食事を始めたクロを見て香織が話題にした。

「あー、なんか、港で懐かれちゃったみたいんだよね。俺がいる間だけ、出入りさせてもいい…?」

「全然いいけど、その一週間だけで大丈夫なの?」

「もともと地域猫らしいから、多分大丈夫」

というよりもはや化け猫の類いだからあまり心配はしていない。

「イノリやヨシマサが知ってる猫みたいだから、念のため言っておくよ」

「ふぅん。また会うの?」

「いや、約束はしてないけど…お寺に行けばヨシマサには会えるよね?」

(そうだ、ついでに…)

少し探りを入れてみることにした。

「でも昨日会ったら皆めちゃめちゃ変わっててほんとに驚いたよ。香織ちゃんもそう思わなかった?」

「うーん…あたしが戻ってからはあんな感じだったと思うけど。まぁ成長期だし、そんなもんじゃない。」

「そっか…」

「というか、子供の頃ってさ、学年1つ違うだけで別世界だったじゃない?なのにあたしらの歳の差じゃさ、ヒロたちなんてもう、こまいのがわちゃわちゃしてるって位の印象しかないのよ」

「確かに。香織ちゃんだって家の外じゃ他所の人みたいに見えたもんな…」

子供の頃の自分の世界がなんて狭かったことか、今なら少しは分っているつもりだった。きっと、今ですらも。

「あ、でも」

「ん?」

「大前先生んとこの娘さんは、あれから結構雰囲気変わったかも」

「ミユキのこと?あれって?」

「ほら、10年位前にさ、事故があって、騒ぎになって…」

「え、全然覚えてないんだけど。俺いた?」

「あ~…確かにヒロが引っ越してからか…丁度災害の頃で」

突然その言葉を聞いて思わず強ばる。もうほとんど慣れたが、日常に急にその言葉が出てくると未だに過剰反応してしまう。

(自分は被災者じゃないのにな…)

「ヒロ?」

香織が怪訝な表情でこちらを見る。我に返り、

「で、ミユキがどんな事故に遭ったの?」

「いや、弟の方だよ」

「え!」

「まぁ怪我はしたけど今は特に問題なかったんじゃないかな…でもお母さんが大分過保護になっちゃって。お姉ちゃんの方も籠りがちというか、あんまり外で見かけなくなったかなぁ…」

「へー…」

事故のことは全く知らなかったが、昨日のミユキの変わりぶりと少し繋がった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ