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約束  作者: 榎 実
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7月31日⑥

「え、何で?ついてきた?いつから?」

(まさか、あの餌付けで懐かれちゃった?)

「…あのバーガーはもうないんだぞ?」

“それは残念”

「そう、だから…」

(…)

「ん?」

(今、なんか)

辺りを見回す。

誰もいない。

念のため庭も見る。

やっぱり誰もいない。香織は母屋にいるはずだ。

ここにいるのは

(俺と、この猫だけ)

急に部屋の気温が下がった気がする。鳥肌が立つのがわかった。

(いやまさか…)

「…クロ?」

それは耳をピクリとさせこちらの方をむいた。

“はい”

「ひぇ…」今日一番の情けない声が出た。


少しの間、己の聴覚を疑った。クロの口は動いていないし、幻聴の方が現実的だ。

クロに向き合いじっと観察すると、別のことに気づいた。

(もしかして)

「…目、見えてない?」

かろうじて開いている瞼の隙間から見えるクロの瞳はグレーに濁っており、普通の猫のそれとは明らかに異なっていた。

昼間の違和感の正体はこれらしい。

体のどこかに不具合があると、カバーするために他の器官が発達するという話を聞いたことがある気もするが、それとこれとは別の話ではと一人脳内で議論していると

“見えてましたよ”

と、また声が聞こえたので、結局この現実を受け入れるしかなかった。

「君が喋っているんだな」

クロはこちらを向いたまましっぽをパタつかせ

“まさか伝わるとは思いませんでしたけどね”

「人と話したのは初めてってこと?」

“というより今まで伝わったことがありませんでした。昼間におかわりくださいって、聞こえなかったでしょ?”

(えーと、つまり…)

「今夜急に話せるようになったってこと?」

“そういうことになりますね”

クロの口調は一貫して落ち着いている。

(なんかちょっと)

「冷静過ぎじゃない?」

クロはしっぽをゆらゆらさせながら、

“私はもともとちょっと特殊なんです。そう、そう、それであなたに付いてきたんですよ”

「というと?」

“ちょっと知りたいことがあったので”

「知りたいこと」

“昼間あなたが会った人たちの中の”

(あの5人のことか)

“誰が死んでいたのかを”

「………」

とうとう声も出なくなった。

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