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約束  作者: 榎 実
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7月31日⑤

振り返ると、制服らしきものを着た男女が、イノリの声に応えて駐車場からこちらへ向かって来た。

(ユキ、コウってもしかして)

思わず立ち上がり、はっと慌てて足元を確認する。最後の一口を堪能しているクロを蹴らずに済みホッとしたところで、目の前に来た二人を見て確信した。この面子では一番昔の面影がある。

「ミユキ、コウキ…」

男の方が

「本当にヒロ?久しぶり」

と笑顔で話しかけてきた。当時一番仲の良かったコウキを見て、一気に懐かしさがこみあげた。

「うん、久しぶり。眼鏡かけたんだ」

「あ、これ。うん、ヒロが引っ越してすぐからだから、そういう反応はだいぶ久しぶりだけど」

と笑う。はにかんだ様な笑顔や物腰の柔らかい雰囲気は相変わらずだが、成長した今は凛々しさや知的な感じも加わっており、思わず(モテそう)と内心で呟やく。


一方ミユキは、長い髪を1つに纏め、制服は優等生の様に着こなし、顔つきは更に美しくなっている。

だが、昔の人懐こそうな雰囲気は失われ、近寄りがたい印象になっていた。俯くと目の下までかかりそうな前髪と、臥せた長い睫毛が瞳を隠し、表情がわからない。


「二人とも学校?」

と尋ねるリエの口調はさっきよりずいぶん大人しい。

「生徒会の用事があって、船に乗るところ。皆はヒロに会いに来たの?」

「まさか、たまたまよ」

「俺は来るとは聞いてはいたけど偶然」

「私はお遣いの帰りで、クロを見て声をかけたの」

イノリにつられて全員が黒猫に注目する。

完食したクロは満足げにベンチへあがり、居心地を確かめるかのようにゆっくりとその場を一周してから横になった。


その時、姉弟が入ってきた広場の入口からクラクションが鳴った。

「香織さんかな」

とヨシマサ。従姉が迎えに来たらしい。

「…じゃあ、行くね」

と言い、そそくさと荷物をまとめる。怒涛の展開にいっぱいいっぱいで、すぐにでもこの場を離れたかった。

去り際目が合ったコウキが「またね」と言ってくれたのは嬉しく、思わず頷いた。




滞在先の父方の実家は港から車で5分程の場所にある。

祖父母はずいぶん前に島を出て市街地で伯父一家と共に暮らしており、去年従姉の香織が戻るまで長いこと空き家になっていた。

香織の仕事はパソコンがあれば場所を選ばないらしい。彼女は自分より10近く歳上だが、島では一緒に暮らしていたし、兄と同世代なので親しみやすく、親戚の中では親しい方だった。

だが二人暮らしとなるとやはり緊張するもので、初日は夕食後早々に離れに戻った。


10年前まで家族で住んでいた離れだが、当時の物は引っ越しの際運び出したためほとんど残っておらず、ガランとしていた。それでもどこか懐かしいにおいのする静かな空間で、島に来てから初めて落ち着いた気分になった。敷いてあった(初日限定サービスらしい)布団に寝転び、一息つく。

(なかなか刺激的な一日だった…)

幼馴染み達に会えたのは嬉しい反面、昔とのギャップがありすぎて、これじゃあ本当に知らない土地へ来たのと変わらないのではと思う。

(明日から二週間、どうやって過ごそう…)

うとうとと微睡んでいると、急に目の前が真っ暗になった。一瞬眠気で瞼が閉じたのかと思ったが、違った。

(…!)

「ークロ?」あの黒猫だった。



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