9年前 2月⑤
リエの家にも事故の一報が入っていた。
父親は仕事で不在、母親は妊娠中のため家で続報を待つことになった。
「リエ、ミユキちゃんとこ、お父さんもお母さんも家にいないんだって。コウちゃんたちの様子、見てきてくれる?うちに連れてきてもいいから」
電話を切った母親がそう言った。
リエも何やらただ事でない雰囲気を察して、すぐに家を出た。
ミユキたちの家に着き、チャイムを鳴らしてみたが反応がない。声をかけても、庭に回ってみてもいなかった。
その静寂が何故か不気味で、ぞわぞわと嫌な感じがした。
自宅に戻ることも考えたが、少し自分で探してみることにした。と言っても、いつも遊び場にしているのは近くの公園か、寺の2つしかない。公園を見ても姉弟はいなかったので、寺へ向かった。
珍しく、寺には誰もいなかった。寺務所兼自宅となっている離れにも人の気配がない。炊事場の勝手口もみると、鍵が開いていたので入った。電気もついていない中、そろそろと歩を進める。すると、あがり框のところでぐったりとしているミユキを見つけた。
「ユキちゃん!ミユキちゃん!」
顔が真っ赤で目が虚ろだ。とにかく具合が悪そうに見える。
「大丈夫?コウくんは?」
コウキの名を聞いた途端、ミユキの身体はガタガタと激しく震え出した。ただならぬリエの様子から、何かあったのだと感じた。
「わたし、コウくん探してくる。ユキちゃん、大丈夫?」
ミユキは僅かにうなずいた。ミユキのことも心配だが、一刻も早くコウキを見つけなければとリエは思った。
ミユキがいたのだから、コウキも近くにいると思ったのだが、境内をひと回りしても見つけられなかった。裏山の方も声をかけてみたが、反応はなかった。
時間とともに不安がどんどん増していく。
気がつくと本堂の前まで戻ってきていた。見つかるように、お願いしてみようかと思ったが、
(そうだ、ここにかみさまはいないんだ)
仏と神の定義が異なることを、リエは子どもながらに理解していた。そして、寺は神頼みする場所でないことも知っていた。リエにとって、頼みごとをする相手は、神様だった。コウキを一刻も早く見つけるには、もう神様に頼る他ないと思い込んだ彼女は困窮した。しかしふと、前に住職に教えられたことを思い出した。裏山にある祠のことだ。
『いいかい、この祠から先には決して行ってはいけないよ。危険だからね』
『この小さいお家は何?』
『神様のお家だよ。君たちを守ってくださるからね』
(おじさん、神様がいるって言ってた)
急いで裏山に行き、祠を探した。だが、記憶ではあるべきはずの場所に、祠はない。だが、これ以上進むのは危険だと知っている。
(きっと近くに神様がいるはず)
そう信じて、その場でお願いすることにした。
「神様、お願いです。コウくんをぶじに帰してください。私があげられるものは、何でもあげます。だからお願いです、助けてください」
その時、強く風が吹いた。ざざざざーっという音が聞こえる。リエは何が起こったかわからないまま、すぅっと気が遠くなってそのまま倒れた。




