8月10日③
寺に着いた時には、花火までもう10分もなかった。
「まず裏道に行こう」
「そうだな」
立ち入り禁止の看板はあるが、封鎖されている訳ではないので、子どもが入ってもおかしくはない。
裏道をゆっくり進みながら少年の名を叫ぶ。
「いないのかな」
後方のヨシマサが自信なさげに呟く。
「いや、ケガとかして声が出せないのかもしれない。ここは道を外れると危険だ」
先頭を注意深く進む、ここの崖から転落したコウキが言うと説得力しかない。
「でも暗いよ」
確かに頼れるあかりは月のみだ。満月とは言え、木陰で見えないところの方が多い。
「できるだけやってみよう。もう少し奥まで…あ!」
小石か何かにつまづいた弾みにカメラのレンズカバーが外れてしまった。
「どうしたの?」
コウキが駆け寄って来た。
「あ、カメラのレンズカバー落としちゃって…」
あれがないのは心許ないが、さすがにこの暗さじゃ
「諦めるしかないか…」
切り替えてケントを探そうとすると
「あ、ほらあったよ」
コウキが少し手前の木の根元に手を伸ばした。
「はい」
「あ、ありがと」
「うん、じゃ、ケントくん、探そう」
「うん」
(………)
その時ふと、何か、言葉にならない違和感が。
「花火が上がれば、もっと明るくなって探しやすいんだけどなぁ」
ヨシマサがもどかしげに言う。
「そうだな…」
生返事をしながら、コウキの後ろ姿を見て、ふとさっきの違和感が口からこぼれ出た。
「コウキはよくこんな暗い中、月明かりだけでカバー見つけたな。まるで」
まるで
「猫みたいに」
頭上が一気に明るくなった。
花火が始まったのだ。
振り向いたコウキの顔は、降り注ぐ花火の影になって見えない。
「うん、そうだよ」
「…コーキ?」
いつの間にかすぐ後ろに来ていたヨシマサが、不安そうな声で名前を呼んだ。
不思議と周りの音は一切聞こえない。
コウキの声だけがまっすぐに届く。
「僕はあの時死んだんだ」




