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約束  作者: 榎 実
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8月10日②

一時間程かけて、商店街の広場にたどり着いた。広場にはステージが設置されており、神輿はその横に展示される形でフィナーレを迎えた。そして無事終了、解散となった。

自分の仕事もここで終了だ。汗だくで、喉はカラカラに乾いていた。

(とりあえず何か飲もう)

広場を中心に、大勢の人が祭を楽しんでいる。商店街でも店先で屋台が出ているが、ターミナル方面から広場に向かって人が流れているので逆流するのは難しい。広場内の出店を物色することにした。

「暑っつ…」

かき氷の文字が目に入ると、もうそれしか見えなくなった。花に誘われる虫のように、あるいは血に餓えたゾンビのように吸い寄せられていく。

「ブルーハワイ、ください」

「はーい、200円で…あれ、ヒロだ!」

「イノリ!?」

受付していたのはイノリだった。

「おじいの民宿仲間が出店してて、バイトしてるんだ~、はい、ちょっとオマケしたよ」

「やった、ありがと」

「もうすぐあがりだから、後で合流しよ~。あ、そだ、コウちゃんもう来てるみたい。さっきここら辺歩いてたよ」

「そっか、りょーかい。じゃまた後で」


ステージの観覧席の一番後ろが空いていたので、座って食べることにした。

一口食べると、荒く削った氷が舌の上でゆっくり溶けて火照った身体を冷やし、甘いシロップが疲れを癒していく。思わず深いため息が出る。

(サラリーマンの仕事終わりの一杯て、こんな感じなのかな)

達成感と疲労感が、かき氷を一層美味しくしている気がした。

「ヒロ」

突然の呼び声に我に返って振り返ると、顔に冷たいものが触れた。

「コウキ」

ラムネを持ったコウキだった。

「お疲れ、暑いね」

コウキが隣に座った。

「神輿が終わったからいるかなってちょっと探してたんだよ」

プシュッとラムネを開ける。

「すごい人だな」

「今年はね。やっぱ花火効果はすごいよ」

コウキは残り僅かになっているかき氷の容器を一瞥し、ニヤリと笑った。

「ねぇヒロ」

「ん?」

「それにさ、このラムネ入れたら美味しそうじゃない?」

「…天才か」

イノリに場所を連絡し、特製ラムネを回し飲みながらしばらくの間ステージを眺めていると、

「お待たせっ」

とイノリが合流した。

ちょうどいい時間になっていたので、3人で実行委員会本部に向かう。


テントの前には甚平姿のヨシマサと、浴衣姿のリエが立っていた。

「リエ、可愛い!」

イノリがはしゃぐ。

「ありがと」

リエは素直に嬉しそうだ。

「うん、よく似合ってる」

コウキがさらりと褒める。

「あ、ありがと…」

リエは真っ赤になって俯いた。

心の中だけで(ヒューヒュー)と冷やかす。

「俺お腹空きすぎてヤバイんですけど」

ヨシマサがお腹を押さえた。

「よし、行こう」

「行こー!」

ヨシマサが拳を挙げ、イノリがぴょんと跳ねた。


そこからは本当に楽しかった。

出店で各々食べたいものを買ってシェアしたり、射的をしたり、普段なら絶対やらない輪投げもした。

祭マジックとしか言い様がないが、何をするにもいちいちおかしくって、全員笑い通しだった。


あっという間に打ち上げ花火まであと30分になった。

「花火、ここから見る?」

ヨシマサが聞いてきた。

「僕はどこでも」

「まぁ、どっからでも見えるだろうけど、もうちょい落ち着いて見たいかなぁ」

「あ、ターミナルの方は?ここよりは人少ないだろうし、広場で盆踊りもできるよ」

イノリが提案した。

「盆踊りは別にいいけど…じゃあそっち行こうか」

そう言って商店街を出ようとした時だった。

「ヨシマサ!」

「あれ、親父」

住職だった。

「八百源さんとこのケント見なかったか?」

「いや、見てないけど」

「どこ探してもいないらしいんだよ」

「そういえば、迷子の放送してたような…」

「ちょっと探すの手伝ってくれないか」

「えー!もうすぐ花火だよ」

「みんなで探せば花火の前に見つかるかもしれんだろ」

「そうだよ、ヨシマサ、手分けして探そう」

コウキが口を挟んだ。

「悪いね、君たち。よろしく頼む」

そう言って住職は去って行った。

ヨシマサは不服そうだ。

「大丈夫だよ、きっとすぐ見つかるよ」

「私たちも手分けして探そう。イノリと広場の方探すから、後で合流しよう」

「わかった。僕たちはもう少しここら辺を探してみるよ」

リエとコウキが素早く段取りをつけて二手に分かれた。


とりあえず、男子組で広場の外れの少し暗い方を探すことにした。

「ったくなんだよケンのやつ…大人しく花火待ってりゃいいのに」

ヨシマサは未だにぼやいている。

「10歳だろ?花火の見る穴場とか探してどっかに隠れてんじゃないか?探検気分で」

その年頃の男子なら、やりかねないだろう。

「穴場ぁ?そんなのどこに」

ヨシマサが急に黙った。

「マサ?」

振り返ると、少し言い出しにくそうに話し出した。

「あー、と、俺、3年前の祭の時さ、手伝いが嫌で逃げて境内の裏山に隠れてたんだけど、そこから見た打ち上げ花火がすっごい迫力で、後でチビたちにこっそり自慢したことがあったんだけど…そん中に、ケント、いた気が…」

『それだ!』

コウキと同時に叫んだ。

「寺に行くぞ!」

「え、でもあいつそん時小1だし、覚えてるわけ」

「お前は5歳の時の“キラキラアイス”覚えてただろっ」

「…確かに!」

3人とも寺へ向かって走り出した。


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