表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
約束  作者: 榎 実
34/46

8月10日①

昨夜は夜遊びしたせいか、なかなか眠れなかった。

加えてサイクリングの疲れもあったのだろう、今朝は随分寝坊をしてしまった。


本日は快晴。日は高く晴れ渡り、蝉たちは

今日が一番元気がいい。

遅い朝食(兼昼食)を食べ、縁側でデザートのスイカを噛る。寺には14時までに行けばよいので、焦る必要はない。ゆったりとした時間が流れる。

(タイムスリップしたみたいだ)

もしくは、今の時間だけ切り離されてふわふわと浮いているような、そんな感覚。

(明明後日には、もうここにいないんだよな…)

もうすぐ元の生活に戻るのが嘘みたいだった。むしろ島に来る前の生活が非日常に思えてしまうのは、この生活にすっかり馴染んでしまったからだろうが、やっぱり不思議な感覚であり、嬉しいようでもあり恐ろしいようでもあった。

仰向けになって目を閉じる。床の冷たさが心地好い。

(まぁ、いいかぁ~)

今はこの気持ちよさに身を委ねることにした。


集合時間より少し早めに着いたのだが、境内は既にすごいことになっていた。

駐車場は満車で、無理やり奥の方に停めているものもある。

門をくぐってすぐのところには神輿が鎮座しており、その周りでは担ぎ手たちが何人も準備している。

広間を覗くとこの前と同じ位食事や飲み物が並んでいた。炊事場は今日も大騒ぎなのだろう。まさにお祭り騒ぎだ。

(わくわくしてきた)

祭が、始まった。


15時にここから神輿が出発し、本部のある商店街広場まで練り歩くことになっている。

今日の仕事は主にその道中の撮影だ。関係者タグを首から提げて、どこでも撮っていいことになっている。

「お、ヒロ」

振り返るとヨシマサがいた。半纏を着てハチマキを巻いている。少しサイズが小さい気もするが、ほどよく引き締まった筋肉質の四肢が露になって、独特の迫力がある。

「お~かっけー…」

思わずシャッターを切る。

ヨシマサは気をつけの姿勢で

「今日は撮影よろしくお願いします」

とかしこまった。

つられてこちらも姿勢を正す。

「が、頑張ります」

ヨシマサはニッと笑って

「17時に本部前集合だからね」

「うん、わかってる」

「じゃ、それまでお互い頑張りましょ~」

ハイタッチを交わしお互いの持ち場に向かう。

「よし、やるか」

声に出して、気合いを入れた。


神輿の出る時間までは、境内をくまなく撮影して回った。炊事場の女性たち、担ぎ手の父親とお揃いの半纏を着てはしゃぐ子供たち、広間で既にご機嫌な年配者たち…。炊事場は湯気の熱気でレンズが曇り、何度もカバーを拭くはめになった。だが、顔を真っ赤にして働いてる彼女らは、とても生き生きとしていて魅力的であり、何枚も写真を撮った。リエが額に汗を光らせ次々とおむすびを握りあげる姿なんか、コウキにも見せてやりたいくらい格好よかった。

神輿も撮った。日の光を受けて、堂々と光り輝いている。簾の一本一本が艶めいていて美しい。準備中に倉の中で見たのとは全然違った。

舞台裏独特の熱気にうかされて、時間いっぱい夢中で撮った。


15時。空に祭開始の昼花火があがった。

いよいよ神輿が寺を出る。担ぎ上げられ揺れる神輿はまるで生きているようで、ますます美しい。

ヨシマサが出発の合図を叫ぶ。そのよく通る声は、ずっと聞いていたくなる程だった。呼応する他の担ぎ手たちの声もどんどん高まり、神輿の勢いが増していく。近くにいるこちらまで、彼らの熱気で、ますます暑い。だけどそんなの気にならない位、夢中になって撮った。

(みんな、すごくいい顔してる)

どの瞬間も逃したくなくて、必死でシャッターを切り続けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ