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約束  作者: 榎 実
33/46

8月9日④

ひとしきり遊んだ後、流木に並んで腰かけ、ジュースで喉を潤した。

「はぁ~楽しい!」

イノリが小さく叫んだ。

「こんなにはしゃいだの久しぶりだなぁ。なんか、意外といかにも遊び!って感じのことなかなかしないんだよね最近」

コウキも高揚しているようだ。


「私さ、さっきさ、こっからイノリたち見てて、笑い声聞いて、楽しそうだなって嬉しくなったんだけど、そう思ったらさ、ヨシマサのお母さんのこと思い出した」

リエが言った。

「こどもの頃に、親にマンガ取り上げられてふてくされてたらさ、本貸してくれて。その時」

『あなたたちの笑い声を聞くと、私、とっても元気になるの』

「て言ってくれてさ」

「それ、よく言ってたね。私も、境内でみんなで遊んでるとね、おばさん、ニコニコしながら見守ってくれてたの覚えてる」

(あれ…そういえば)

「ヨシマサのお母さんって」

「今年七回忌だったんだ」

ヨシマサが答えた。

「…!」


災害発生後、住職は家に住めなくなった人の何人かを保護した。ヨシマサの母親はその人達の世話や、話を聞いて欲しくて寺に来る人達の対応で、それは忙しかったらしい。

そんな状態が1年以上続いた。

そして最後の居候が寺を出た数日後に倒れ、しばらく療養したがそのまま亡くなったと、ヨシマサは話してくれた。


「…過労がたたったんだろうって言われてた。もともとそんなに丈夫じゃなかったみたいだし。イノリの母さんとも仲良かったから、すごくショック受けてたし、それ以外にも色々ストレスもすごかっただろうって」

リエが市場で言っていたことを思い出した。

「イノリの親って、事故だって」

イノリと目が合った。

「うん、あの災害の直前にね、海で、竜巻に巻き込まれて、船が沈んで…私は助かったんだけど」

彼女は困ったような少し笑った顔で言った。

昼間の記念館で見た、予兆と言われていた転覆事故を思い出した。あれは、イノリの家族のことだったのか。

「ごめん、せっかく楽しかったのに、空気壊して。でも、なんか、懐かしい気持ちが勝っちゃって」

「ううん、大丈夫」

イノリがリエに寄り添う。

コウキが口を開いた。

「亡くなった人との思い出を話すのも、供養になるって、ヨシマサのお父さんも言ってた。ふいに思い出してもらえるって、幸せなことなのかも。

僕も、ヒロが来てから昔のことよく思い出すんだ。ヒロがいて楽しかった頃も、いなくなってからのことも。辛いことも多かったけど、嬉しいことや楽しいこともちゃんとあったなって。そういうことを、思い出せたのは、よかったって思うよ」

ずっと黙って聞いていたヨシマサが

「あのさ、俺も言っちゃうけどさ、こないだリエがヒロがあの時いなくてよかったって言ったじゃん?あれで俺も思い出したことがあって」

皆の注目を受けて、ヨシマサは続けた。

「俺さ、あの頃辛いことがあるとさ、ヒロやみんなと遊んでた頃のこと考えてたんだ。あと、ヒロが今いたら何して遊ぶかな、とか妄想してた。現実逃避だったんだろうけど、俺、ヒロが楽しい記憶の、象徴?でいてくれたから、踏ん張れてた気がするんだよね。

だから、あの頃にヒロがいたら、何て言うか、逃げ場がなくなったと思うんだ。後付けかもだけど、うん、俺もヒロがいなくてよかったんだなって」

(何もしなくてよかったなんて、そんな訳ないじゃないか)

そう思ったが、言えなかった。代わりに

「あんまりいない方がよかったって言われると、それはそれでちょっとなんだけど」

と、軽口で返してみたが、思い直して

「でも、まぁ、なんにしてもみんなの力になれていたんだったらよかった、かな…いやでも、やっぱり、みんなが大変な時に会いに来なくて、ごめんって思う」

と、思いきって本音を言ったのに

「でもヨシマサ、思い出美化し過ぎじゃない?だってヒロだよ?」

と、相変わらずリエの当たりが強い。

「まぁケンカもしょっちゅうだったしねぇ」

コウキも苦笑しながらまさかの追い撃ち。

つられてヨシマサやイノリも笑った。

「でもさ確かにさ」

イノリがこっちを見た。今度はちゃんと笑顔だ。

「マサが言ったみたいに、“楽しいことしかない思い出”って、あると心強いって感じしない?何て言うか…最強のお守り?回復アイテムみたいな」

「僕、わかるよ。何か辛いことがあってもさ、そういうの思い出すと、前向きになれるっていう感じ」

コウキが同調した。

「それは、確かにわかるけど、俺がその象徴っていうのは、ちょっと…」

照れるな、と言うと

「何調子乗ってんのよ。あんたはその1つに過ぎないでしょうが。しかもこどもの頃の話でしょ」

リエの自分に対する扱いが、もういっそありがたかった。他の人達が、優しすぎる。

(…全部を言えた訳じゃないけど)

寺に泊まった夜に言えなかった謝罪の言葉を口に出せて、少しだけ心が軽くなった。


皆の気分が再び盛り上がってきたところで、花火を再開した。と言っても残っているのは〆の線香花火だ。

久しぶりの線香花火を見つめていると、何か思い出しそうになった。

「なぁ、コウキ」

「ん?」

「何かさ、花火のことで昔、約束…かなんかしなかった?」

「……」

(?)

返事がないので隣を見ると、花火の玉が落ちずに燃え尽きそうなところをコウキが息をのんで見つめているところだった。

(めちゃくちゃマジだ)

吹き出しそうになったが、吹き消さないよう、必死で堪える。

(なんか、こどもっぽいな)

ほほえましい気持ちで、火が消えるのを待った。

無事に燃え尽きたところで、コウキが顔をあげた。

「そういえば確かに、僕が島に帰る時、したかも」

「やっぱり?」

「んーと、確か、ヒロが夏にやりそびれた花火を発掘して、せっかくだから最後の夜にやろうって話じゃなかったかな」

「あ、そうだ!でも結局できなくて、今度会ったら絶対やろうって約束したんだ…あれ、じゃあ今日叶ったな」

「そうかもね、でも」

「ん?」

「明日の花火も、一緒に見よう。初めてだよ、一緒に打ち上げ花火見るの」

「そうか、そうだな。楽しみだな」

「うん」

どちらからともなく、グータッチを交わした。




「コウキ」

片付けをしていると、暗闇からふいに声がして、全員ビクっとして固まった。イノリかリエが「ひゃっ」と小さく叫んだ。

「…なんだ、ミユキ」

コウキが拍子抜けした声でその名を呼んだ。

「迎えに来た」

「なんだぁユキちゃんかぁ、びっくりしたぁ」

「…ごめん」

「いや、こっちが勝手に驚いただけだし」

慌ててリエがフォローした。

「ミユキが来るなら花火全部やらないで待ってたらよかったな」

と言うと

「んふ、あるよ~」

とイノリが得意満面の顔で皆を見渡した。

「え、でも」

花火を入れていた袋はもうゴミ袋になっている。

「じゃーんっ」

月明かりに照らされたイノリの掌には、人数分の線香花火があった。

「ほんとはねぇ、ユキちゃんもいたらな~って、思ってたんだよ。だから、いつかみんな揃ったら、また花火したいなぁ~って思って…えと、願掛け、みたいな感じで、実は、ちょっとだけいただいてました…」

最初は無邪気に得意気だったが、話している内に花火をくすねたことを暴露したことに気付き、気まずそうな口調になっていった。

「大丈夫だよ」

「そうだよ、むしろファインプレーだよっ」

リエとヨシマサがフォローする。

「みんなでやろうよ。ミユキ、1本位、いいだろ?」

「ねぇ、ダメ…?」

イノリと2人で畳み掛ける。

コウキは愉しそうに成り行きを見ている。

「ダメでは、ないけど…」

ミユキも、イノリの押しに負けそうだ。

「あ、でも火、消しちゃった」

ヨシマサが困った声を出した。

「着火ライターで直接着けたらいいんじゃない」

意外とコウキが大胆な発言をした。


防風の為輪になってしゃがみ、順に着火していく。どんどん火花が膨らみ、全員の花火に火が着くと、線香花火とは思えない明るさになった。互いを照らし合う火花のおかげで、全員の顔がよく見える。皆、一心に花火を見つめている。


(あぁ、なんて美しい光景だろう)


これは、最強のお守りになるだろうと確信した。


































* * * * * * * * * * * *

真夜中


その部屋では、コウキがぐっすりと眠っている


それは、彼にゆらゆらと近づき少しの間側に佇む


ふいに両手が彼の首もとに伸びる


一瞬のような

永遠に続くような


ふっと手が離れ、彼女は部屋を出ていった

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