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約束  作者: 榎 実
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8月9日①

宿題が終わって、いよいよ暇である。

暇潰しに、自転車で島を一周してみることにした。

暑いし長いし揺れるのでクロを誘うのはやめたのだが、むしろ本人(猫)が一緒に行きたいと言う。

“島の反対側なんて、今後行けるチャンスないでしょうから”

(今日は少し曇ってるし、大丈夫かな)

今回は自転車のカゴでは危ないと判断し、リュックをクロ仕様にできるか試してみる。

兄から進学祝いにもらったこのリュックは、中に仕切りが付けられる優れものだ。

仕切りの高さを調整し、まず一番下に保冷剤代わりのペットボトルを横にして入れる。上のスペースに財布などの小物を入れて、真ん中のスペースにクロが入った。ポケットのファスナーを開き、空気穴を確保する。問題なさそうなので、一緒に行くことにした。


まず家から港と反対の方向へ向かう。幹線道路をひたすら走ると、田んぼの中に島唯一の複合商業施設が見えてきた。その中のスポーツ用品店で適当な帽子を買った。

(さすがに麦わら帽子は恥ずかしいからな…)


そこから更に進み、公営の体育館や中学校、島唯一の高校があるエリアに入った。それぞれのグラウンドでは、複数の部活が活動しているようだ。

フェンスに近づき様子を見てみた。

(ヨシマサは…いないかな)

冷やかしができず少し残念だったが、気を取り直して運動部の掛け声を背に再び漕ぎ出す。

すると何処からかいい匂いが漂ってきたので思わず匂いを頼りに辺りを探ってみると、道路一本住宅地の中に入ったところに小さなパン屋があった。学生向けらしく、安くてボリュームのあるパンが並んでいる。その中からコロッケサンドとあんバターコッペパンとコーヒー牛乳を買った。

(どこか休める所ないかな)


住宅地を抜けると、しばらく畑や田んぼが続いた。山を挟んで家とちょうど反対の辺りまで来たところで、池が見えてきた。

その溜池のほとりに東屋があったので、そこで昼食を取ることにした。

池はまた少し晴れてきた空を映し、風が青い水面みなもを撫でる。

クロも風を受けて気持ちよさそうにしている。

思いがけず気持ちのよいピクニックとなった。


もうすぐビーチや宿泊エリアへ入るというところで、思わず自転車を漕ぐ足が止まった。記念館の看板を目にしたからだ。その記念館は、9年前に起きたあの災害の関連施設だった。

実のところ、災害に関するものはずっと避けてきた。テレビで特集していれば消すし、授業でも聞き流してきた。何故かはわからないのだが、災害関連のことを見聞きすると、胸が詰まった感じがしたり動悸がするのだ。災害から半年程経った頃から度々そういうことがあった。当時盛んにPTSDが取り上げられていたが、こどもだったのでよくわかってなかったのと、自分の家は停電だけで済んだので、該当者にはならないと思って、今まで誰にも言わないできた。

実際、災害当時はなんともなかったのだ。

時間が経ち、被害がつまびらかになる様を報道などで見る内に、どんどん心が沈んでゆく感じがした。

今でも普段はそれなりに楽しくやっているのだが、その話になった途端、顔が強張りうまく話せなくなってしまう。そのことを誰にも気づかれたくなくて、災害の話題を避け続けてきた。

今まではーあまり考えようとはしてこなかったがーここまで反応してしまう原因が全くわからなかった。


でも。

お寺に泊まった夜、その原因が多分わかった。

だけど、それが理由だと認めたくなかった。自覚したばかりだし、正直まだ、直視できないししたくない。

本音を言うと、できることなら忘れたかった。今だって調子が悪くなるのは基本的に災害発生日の前後だけだし、実際、克服しなくても何とかやっていけると思う。


だけど。

その一方で、向き合いたい、乗り越えたいという気持ちもあった。乗り越えられたら、自分も変わるんじゃないか。そんな期待が頭をよぎる。10年ぶりに会ったかつての幼馴染みたちの変わりぶりが刺激になって、そんな風に考えるようになっていた。 

(………よし)

クロに外で待っていてもらい、意を決して記念館に入った。



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