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約束  作者: 榎 実
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7月31日③

下船した途端、頭上から直射日光が、足元からアスファルトの熱が容赦なく襲いかかってきた。

ターミナル横の広場で見つけた木陰のベンチで迎えを待つことにした。

(ここからなら迎えの車もすぐに判るな)

広場内は閑散として、あの男性が言っていたイベント関係者らしき人達はいなかった。 

蝉の声と波の音しか聞こえない中、残っていたコーラを飲みながらぼうっと座っていると、ベンチの影が動いた。

これが蜃気楼かと半ば本気で注視すると、そこにいたのは全身真っ黒の猫だった。荷物と共に置いていたあの紙袋をしきりに気にしている。袋から残りの包みを出すと、バンズというよりマフィンのような生地のバーガーが現れた。

とりあえずひとちぎり、猫の前に置いてみる。猫は少しそれを嗅ぎ、バンズの欠片を口にし、それから夢中で食べ始めた。

(気に入ったみたいだ)

その時

「あ、クロ?」

前方から声がした。


顔をあげると、同い歳位の少女が立っていた。ベリーショートに白無地ノースリーブのトップス、ショートデニムにビーチサンダル…いかにも夏の海が似合う格好だが、肌は白く木陰の下で淡く光って見えた。じっとこちらを見る瞳は濡れたように輝き、上向きの睫毛が一層目力を強くする。


(え、と)

「ーあ、この猫君の?」

そこら辺の猫にくれてやれというあの男性の言葉を鵜呑みにした己の軽率さを後悔しながら猫に目を向けると、さっきあげた分は食べ終えこちらを見ている。余程気に入ったらしい。

(?)

一瞬猫に違和感を持ったが、すぐ意識を彼女に戻す。

「違うよ、クロは地域猫」

との答えに安心し、追加分をさっきより大きめにちぎり食べさせる。

「…えっと」

改めて彼女に向かうが、どうすべきかわからず、言葉に詰まっていると

「イノリ!」

と今度は後ろの方から、また女性の声がした。


振り返るとまたも同い歳位の少女だが、見た目はイノリと呼ばれた少女とは全く違った。パーマのかかった茶髪を両耳の下で結び、派手な黄色のTシャツを深緑色のロングスカートにしまいこんでいる。

「誰」

イノリのもとへ移動しながら、不自然に豊かな睫毛の下からこちらを見る瞳は、不審者を見るそれだった。思わず目を逸らす。

(あれ)

「そのマーク」

逸らした視線の先にあった茶髪の少女のTシャツにプリントされたイラストは、あのバーガーの紙袋のものと同じだった。

茶髪の少女は紙袋とクロを見て、

「なんだ、イベント客」

「あ、いや…」

「イベント?」

言いよどむ間にイノリが口を挟む。

その時キーっとブレーキの音を立てながら自転車が割り込んできた。

「こんなところで2人ともなんしたん?」


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