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約束  作者: 榎 実
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8月8日

遂に宿題が終わった!

達成感のあまり香織に報告すると、夕食に好物のしょうが焼きをたくさん作って慰労してくれた。


夜、何もない文机につっぷし、解放感を堪能しながら、ぼんやりとこの一週間を思い出していた。

島に着いて早々幼馴染みたちに再会し、変な猫に出会い、驚きの連続だった初日。

その後、探索して新しい発見をしたり、夜中に怖い思いもした。

祭の準備では幽霊のことを思い出す暇がないくらい忙しかった。あの晩を共に過ごした彼らは、特に変なところはない、ただの幼馴染みだった。一緒にいて楽しかったし、懐かしかった。


(本当に、幽霊なんているのか…?)

ここにきて、クロの話を疑いたくなってしまった。

するとちょうど小窓からクロが入ってきた。

“夕食、豪華でしたね。美味しかったです。お腹いっぱいで、腹ごなししてきました”

宿題が終わった喜びに比例して、クロのご飯も豪華になったのだった。

「そっか、良かった。ところで」

クロに今しがた考えていたことを伝えると、

“確かに私の勘違いだったのかもしれません”

と意外な答えが返ってきた。

“私なりに考えたのですが、あの時あんな風に見えたのは、もしかしてヒロさんと話すためだったのかもしれないなって”

「どういうこと?」

クロが膝に乗り、体勢を整えながら答える。

“私はずっと他の猫たちと違いました。孤立してた訳ではないと思います。それなりの付き合いはありますが、やはりどこか距離があるというか…異質っていうのは、孤独です”

“加えて最近は、何とか見えていたのが完全に見えなくなりつつあって、不安は増すばかりでしたし、もしかしたらそのまま死んでしまうのではとも思いました”

「…うん」

“でも、それはこの世界では普通のことだったんですよね。だって最初から、そうだったんですから”

クロの言っていることは、何となくわかる。

クロは、普通の猫の生き方を知らない。それは変えようのない現実だ。

逆に、普通の猫たちはクロの生き方が分からない。クロの視力が失われつつあることはー本人にとって大事おおごとだとしてもー周囲からしたら理解・共感できない故に些末な出来事になってしまう。

その無理解無関心が、悲しいし、寂しいのだろう。

“だから、ヒロさんと話せるように、神様がきっかけをくれたのかもって”

「でもなんで俺?」

“ヒロさんは外の人でしょ。異質者同士だからじゃないですか”

「外から来たのは、俺以外にもたくさんいたのに?」

“そこまではわかりませんけど。タイミングか、相性か…でも、ヒロさんで、私は良かったと思ってますよ”

(クロも色々考えていたんだな)

(本当に、気のせいだったのか、気になるところではあるけど…)

(猫と会話できる時点で、何でもありなんだな、きっと)

身も蓋もないとは思ったが、“神様のプレゼント”説で納得することにした。起こること全てに意味があるとは思えなかったし、意味があったとしてもそこに思い至ったり全てを理解しきれる訳ではない。だから世界は不思議で満ちているのだ。そういうこともあるかもしれない、という程度で納得してもバチは当たらないだろう。

「…そうだな」

クロの背中を撫でる。艶のある黒い毛は、意外とひんやりしていて気持ちよかった。

「俺もクロのおかげで刺激的な夏休みを過ごしてるよ」

グルル、とクロの喉が鳴った。


その夜初めて小さな友人と一緒に布団で寝た。遅くまで、色々なことを思いつくままに話した。

「そういえば、クロは何歳なの?年だ年だって言うけどさ」

“実はわかりません。気づいた時には独りだったので”

「親兄弟は?」

“いません。いやいたんでしょうけど…生まれてすぐの頃は、いつも周りに光があったので、何かしら護られていたとは思うんですけど、やっぱり見えないのでよくわからなかったです”

「よく生き延びたなぁ」

“本当ですね”

クロは他人(猫)事のように答えた。

「今は全く見えてないんだろ?」

“そうですね。でも、ここら辺なら、見えなくても生活できますよ。急に見えなくなった訳じゃないですし、慣れてますから”

(だけど、俺が帰ったら、話せる相手もいなくなるんだよな…)

「あのさ」

「俺と一緒に、島出る?」

少しの間沈黙が流れた。

「あ、いや、思い付きで言った訳じゃなくて、いや思い付きではあるんだけど、ずっと考えていたことではあるというか」

最初に香織に尋ねられた時から考えていたのは本当だ。このまま地域猫として放っていいのか、自問していた。

「…俺の家、多分ペット大丈夫だし、母親猫好きだし、家の中なら目が見えなくても安全だし…ど、どうかな」

クロは少し黙っていたが

“…突然なので驚いてますけど…ありがとうございます。ちょっと考えてみます”

と言ってくれた。

(もっと慎重に伝えた方がよかったかも…)

反省しつつも、すぐに断られなかったのでホッとした。


その夜は自分の家でクロとご飯を食べる、幸せな夢を見た。

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