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約束  作者: 榎 実
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8月7日

祭の準備は順調で、今日からは手伝いは不要だと香織から聞いた。

今日の予定を考えていると、文机に積んだままの宿題が目に入った。

「…少し、やるか」

来てすぐの時と違って、いいペースで進む。

(何て言うか、慣れてきたんだろうな)

宿題はかなり捗った。


夕方、休憩と部活動を兼ねてカメラを持って浜辺へ散歩に出た。

(曇りのない夕陽が撮れそうだ)

水平線を見ながら撮影ポジションを探っていると、前方に人がいるのに気づいた。後ろ姿だがよく見ると、それはミユキだった。水平線の方を向き波に足を触らせて、所在投げにしている。

その身を纏う白いゆったりとしたワンピースは、あの夜のことを思い出させた。

「ミユキ」

思いきって彼女の背中に声をかけるが、わずかに振り返ったかどうかという反応だった。だが近づいても逃げる素振りは見せない。

(拒否されてる訳ではなさそうだな…)

勇気を出して、あの晩のことを尋ねてみた。

「ミユキさ、こないだ、夜中に、見晴台にいなかった?」

反応はない。波の音が一層響き渡る。

(答えてくれないか)

話題を変えることにした。

「あのさ、コウキと祭に行こうと思うんだけど、ミユキも一緒に行かない?多分イノリやヨシマサも来るし、あとリエも」

これには反応があった。振り返り、

「みんな、で行くの?」

と尋ねる。

「う、うん。多分。こないだ寺に泊まった時、チラッと話に出ただけだけど。ちゃんと誘うつもり」

「…そう」

彼女はそこで一度黙り、

「でも、私は遠慮する」

と答えたが、逆光でその表情は見えなかった。しかしその姿が

(あ)


「綺麗だ」

(撮りたい)


「あ」

(また声に出てた…)

恥ずかしさのあまり下を向いた。すぐに彼女の反応を窺おうと顔をあげたが夕陽に目が眩み、次に見た時には彼女はもういなかった。


その後撮った夕空は、太陽の名残と夜の訪れが上手く調和していて、全面オレンジ色より深みのある一枚になった。何より、こっちの方が彼女に合うだろう。

(一緒に撮りたかったな)

目を閉じると夕空に染まったミユキの姿が浮かんだが、その表情は定まらない。ふと、島に来てからミユキの笑顔を一度も見ていないことに気がついた。

「…どんな風に笑うんだろ」

見たいな、と呟く。

(島に来てから、口が軽くなってる。気が緩んでるのかな…でも)

それも悪くないかもしれないと思った。

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