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約束  作者: 榎 実
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8月5日①

今日は集会はなく、各々の持ち場での作業だ。寺に行って、賄いを食べながら自分の仕事を確認する。

今日は炊事場にリエの母親がいた。

「香織ちゃんから聞いてるよ、みんなのことどんどん撮ってね」

「は、はい…頑張ります」

「夕方には一旦戻ってきてくれると助かるんだけど、大丈夫?」

「わかりました」

炊事場を出て外に向かう。

(昨日は境内しか撮れなかったからな…商店街の方行ってみようかな)


商店街、広場、波止場などを巡って撮影したら、あっという間に16時近くになっていた。急いで寺へ戻ると、門のところで両手に大きな風呂敷包みを持ったイノリと一緒になった。

「あ、ヒロ~お疲れ様!」

「イノリも手伝いに来たの?」

「うん、差し入れ渡して、あと少し働いてこいって」

「俺もそろそろ戻る時間で。炊事場、行く?」

「そうだね、そっちから行こうかなっ」

その歩く後ろ姿に、ふとカメラを構える。シャッターを押した直後、モニターがブラックアウトした。

「あ、電池切れた…」

(最後の、ちゃんと撮れたかな)

「ヒロー?」

「今行く!」

追いついて今更ながらイノリの荷物が気になった。

「ひとつ、持つよ」

「え、あ、ありがと!」

渡された包みは予想以上に重く、昨日の勤労により筋肉痛の腕が悲鳴をあげた。 

「…っこれ、どうやって持ってきたの?」

「え?歩いてだけど」

「は?」

(信じらんね。え、俺が非力なの?)

「結構ここまで遠くない?」

「そうでもないよ~階段使えば結構あっという間だよ?」

「…!」

(階段ってあの)

あの夜登ったあの階段のことしかない。

(あの急で長い階段を、この重い包みをを両手に持って)

「…」

返す言葉が見つからなかった。


「あ、ヒロおそーい」

ヨシマサが炊事場の勝手口から顔を覗かせていた。

「あれ、イノリも一緒だ」

「うん、差し入れと、手伝いに来たよ」

「お~勝じいの料理、ウマイよね~」

ヨシマサはひょいと包みをふたつとも抱えて中へ運んだ。

「…マサ、腕痛くないの?」

「へ?…あ」

ヨシマサはニヤリとして

「フットサル部ですから」

と頭を撫でた。

「いやフットサル腕関係ねーじゃん!」

ケラケラと笑うヨシマサとヒロを見て、

ふふっとイノリが笑った。

「あ、やっと来た。ちょっともー早く手伝って!」

とリエがやってきて仕切る。

「あんたたち広間に布団敷いてきて!あ、イノリ、ちょっとこっち頼める?」


男女に分かれ、それぞれ作業を始めた。昨日外した襖を戻す。一方の広間に布団や座布団を敷き、タオル類を用意して仮眠スペースを作った。遠くから来ている人や、朝早くから作業したい人の為だそうだ。隣のスペースでは、差し入れやお茶の追加で忙しそうにしている。

「敷いたらここの食べていいって」

リエが声をかけてきた。

「やった~勝じいのある?」

ヨシマサがテーブルの覗く。

「うん、ここにあるよ~」

イノリが両手にそれぞれ大皿とお茶の入ったピッチャーを持って応えるが、もはや驚かない。

「よっしゃ、休憩しよ休憩っ」

「あ、そうだヨシマサ、コンセントって借りられる?カメラ充電したくて」

「オッケー。まだ撮るの?」

「んー、と、まだ考えてないけど、念のため。ちなみにこの後は何すればいいの?」

「そうだなぁ…。寺が忙しいのは大体今日までだからなあ。布団まで出したらウチらはやることもうないかも」

「そうなんだ…」

(じゃあ食べたら解散かな)

「コウキは?来るんじゃないの?」

リエが口を挟んだ。

「え、コウちゃん来るの?」

「あ、そうだね、模試が終わったら来るって言ってた」

「じゃあコウちゃん来てから皆でご飯食べようよ!」

イノリの提案を炊事場の大人に相談すると、リエの母親が

「多分次の船だろうし、それまでにお風呂でも入ったら?遅くなるようなら泊まってってもいいんじゃない、今日はまだ布団使う人いないでしょ」

と、魅力的なことを言った。

「あ、それいい!俺、親父に聞いてくる!」

顔を輝かせヨシマサが飛んで行った。


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