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約束  作者: 榎 実
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8月4日③

二人とも自転車を引きながら歩く。

「さっきヨシマサから聞いたんだけど、今の祭のやり方、コウキが思いついたんだって?すごいな」

「あ~、うん…」

と生返事をした後、コウキはくすりと笑った。

「でもあれ、ほんとのきっかけはヒロなんだよ」

「え?」

今日まで祭のことなど全く知らなかったのだが。

「どういうこと?」

「えっとね…あ」

もうすぐ分かれ道に着きそうだった。

「明日、模試が終わったら夕方また来るよ。その時話すから、ヒロも来てよ」

「絶対、教えろよ」

ヒロの言葉を聞いて、コウキの瞳がキラリと光った。

「約束、する?」

と、楽しそうに笑う。

「え、あ、うん。する。」

「OK。じゃあ、また明日ね」

「うん、模試、頑張って」

「ヒロも、御輿の写真撮っといて」

「わかった」


各々の道に分かれた後、家への道中、ふとコウキの少しいたずらっぽく笑った顔を思い出した。

(なんか、ちょっと元気出てきた)

(早く、戻ろう)

力強くペダルを踏みこんだ。




「で、どうだった今日」

夕食が始まってすぐ香織が尋ねた。今夜のおかずはお寺からのおすそわけで済ませたので、まだ空に夕焼けの名残がある。

「めっっちゃ疲れた」

「でしょうねー。私が去年手伝った時もさ、通常版でも大変だったもん。特に炊事場手伝うとさー、もー根掘り葉掘り聞いてくるおばさんたちの相手とかしんどすぎてもう…」

「あ、でもご飯美味しかったよ。ほらこのタコ唐とか、俺めっちゃ好き」

「…確かに、最高のつまみだわ」

「あと、写真撮るのも楽しかった。うまく撮れてるかはわかんないけど」

「そう?でも、みんな喜ぶと思うよ、ありがと」

「ん」

「明日も行くの?」

「うん、昼位からだけど。ご飯もあっちで食べるよ」

「そっか。熱中症とか、気をつけてね。…じゃあ私も祭を楽しむためにも、ラストスパート頑張ろ!」

香織は残りの缶ビールを飲み干し「気合じゃあー!」といいながら部屋へ戻っていった。

今日のリエの喝を思い出し、思わずにやけてしまう。

(やっぱ今日)

「楽しかったな」

呟きながら、最後の唐揚げを口に放った。


離れではクロが寛いでいた。

「ごはん、どうだった?」

今日は人間用の夕食を作らない代わりに、クロのご飯は手間をかけて作ったので、感想が気になった。もらったトウモロコシを鰹出汁と共にミキサーにかけ、裏漉しし、とろみを付けた特製冷製スープだ。人間には溶き卵を加えて味を調えたが、自分としては満足のいく出来だった。

"美味しかったですよ。あの甘い香りがする食べ物、ずっと食べてみたかったんです"

「そっか、良かった」

素直に嬉しい。クロは起き上がって伸びをした後、聞いてきた。

"ところで、幽霊について進展はありましたか?"

「あ…」

忘れていた。と、言うよりは、今日会った幼馴染みたちは人間にしか見えなかったから、全く意識してなかった。

「…それって、大事なことかな」

"私はもうあまり気にしてませんよ。目が見えなくなってから数日経ちましたけど、特にそれ以外の変化はないみたいで、快適に生きてますから"

「そっか…」

"あとは、あななた次第ではないですかね"

「そうね…」

(そう、そうなんだよな…実際俺に害があるわけでも、何か起きてるわけでもないし、クロの勘違いってことだってあるかも…ただ)

「気になるっちゃ気にはなるんだよな~…」

そう、一緒にいる時は全く違和感がないのだが、一人になって考え始めると、やはり底知れない不安のようなものが胸をざわめかせる。

「んーーーーーーーーーーー…」

布団に倒れこみ煩悶したが、あっという間に睡魔の餌食となった。

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