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約束  作者: 榎 実
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8月4日①

家を出たのは10時を過ぎた頃だった。

関係者が集まるのは昼からだが、その準備に人手が必要らしい。香織からは「行けばわかる」と言われ、そんなものかと気軽に向かった。

事前に言われた通り、離れに回り勝手口から入る。

(!?)

ちょっとした厨房程の広い台所に、女性が10人近くで作業をしており、更にひっきりなしに人が出入りしている。すごい騒々しさと熱気だ。

「お、ヒロ来たね」

唖然としていたところを運良くヨシマサが見つけてくれた。しかし彼は

「とりあえず御姉様方に指示を仰いで~」

と言いながら、大量のおにぎりが乗った大皿を持ち一瞬で去って行った。


そろりと中に入り、作業台でせっせと盛付けをしている女性に声をかける。

(あの)

「、手伝いにー」

女性は振り返ることなく

「本堂に行ってちょうだい!」

と叫んだ。

(思ってたのと違う…)

特に何も想定してなかったことは棚にあげ、パニック映画に放り込まれた様な気分になる。ともかく指示に従うべく台所をつっきり、人流にのって渡り廊下から本堂に入った。


本堂には祭壇の隣に広間が続きで2つある。部屋の境の襖が片づけられ、1つの大きな空間ができていた。

そこには長机がいくつも連なり、その上には食べ物や飲み物がひしめき合っていた。

あちこちで指示出しや質問が飛び交う中、言われるがままに右往左往しながら手伝う。力仕事要員としてヨシマサと共に行動することが多く、作業をしながら彼から色々教えてもらった。

「一週間後の祭りに向けて、今日から本格的な準備が始まるのさ。初日は決起集会の意味も兼ねてるから、たくさん人が集まるんだよね」

「準備期間結構長いんだな」

「島の反対側から出店する人たちもいるしね。今日から全員準備開始!っていうより、今日から準備始めていいですよって感じ」

「なるほど」

「料理は打ち合わせ中や作業中につまめるように一気に作って置いておくんだよ。あっという間になくなるしね」

「ここで作業するってこと?」

「境内の一部を貸してるから、そこでの作業もある。屋台は商店街と、ターミナル前の広場にも出るから、料理を包んで持ってったりもする」

「ふうん」

「あ、あと、今年はウチの番でみんな気合入ってるし、お隣さんやお向かいさんからも人が来るから、炊事場の方々もめちゃくちゃ張り切ってんだよねぇ」

「え?」

「この祭ってさ、うちと、お隣の島と、お向かいの港の観光協会と合同で開催してんの。メイン会場と花火の打ち上げ場所を持ち回りでやってんだよ。で、今年はウチの番なの。だから今日は他所さんにいいとこ見せようってことでご馳走がたくさんって訳」

ヨシマサは俺たちもいっぱい食べちゃおうと鼻歌交じりで座布団10枚をさっさと運ぶ。

「俺がいた時は、こじんまりとした感じだったから、思ってたのと全然違うな」

抱えた座布団の陰で呟くと、ヨシマサが勢い良く振り返った。 

(あ)

「っぶなっ」

「そうそう、なんでこんなに大規模な祭が始まったかってさ…」

「おぼっちゃまがたー!ざーぶとーん!さっさと並べてちょーだい!」

「あ、はーい!ただいま!」

二人とも慌てて作業に戻り、話は中断されたままになってしまった。

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