表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
約束  作者: 榎 実
2/46

7月31日②

市街地にある主要駅から終点の港入口まで快速電車で約1時間半。昼にさしかかり、小腹が空いてきた。

(船に乗るまでに何か買っておこうか)

先に乗船券を買おうと改札を出て船付場の方へ向かう。


丁度船が到着し、降りる人々で少し混雑しているところだった。その内の1人のカバンから何かひらりと落ちたので、拾って落とし主へ声をかけた。

「お、俺の診察券、気づかんかった!危ねぇ危ねぇ。兄ちゃん、あんがとよ!」

と、中年男性の威勢に若干気圧されるも会釈して券売所へ踵を返すと、

「兄ちゃん、待ちな!」

と呼び止められた。訝しみつつ振り向くと、

「これやるよ」

と左手に持っていた小さめの紙袋を差し出された。ナイフとフォークの、レストランマークと猫のイラストが印刷されている。

「船に乗る直前もらったんだけどよ、良かったら食べてよ」

中を見ると薄紙に包まれた肉まんの様な物が大小で二つ入っている。

「人間と猫のバーガーなんだとよ。なんかイベントやっててよ、ほら、島の一部では猫で観光客呼ぼうとしてっからよ。猫の分はあっち着いたら適当にくれてやったらいいよ」

「…」

(これから病院行くのにもらったのか)

「いやぁ、もらえるもんは何でももらっちまう性分でよぉ、よく考えたら俺これから病院だし、猫なんか飼わねぇしよぉ、助かるよ兄ちゃん!!」とにかっと笑う。

内心が伝わったかとドキリとしたが、向こうはあっけらかんとしていた。

「…っす」と、もごもごしているうちに男はヒラヒラと手を振って去って行った。

思わぬ出来事に今さら鼓動が早まり、深呼吸して落ち着かせる。


思いがけず食料を手にしたので、自販機でコーラを選び、券を買ってそのまま乗船した。島までは高速船で約1時間、余裕はあるが早々に袋を開ける。紙袋の上部がしわくちゃなのは、持ち手が無いし握っていた手が大きいからだと思っていたのだが、

(持て余していたからかも)

にかっと笑った日焼け顔を思い出して、くすりと笑った。さっきのー"地元民との交流"とでも呼べばいいのかー他人の日常と自分の非日常が交錯した感覚に、心が弾む。

(旅って感じ。テンション上がってきたかも)

もらったバーガーはバンズが黄色がかっており、パティは魚の味がした。添付されていた説明書きによると、バンズはカボチャ、パティはツナをベースに作られているらしい。材料はできるだけ人間と猫どちらも同じものを使用したとある。

(結構おいしいけど、)

「コーラじゃなかったかな」


食後は船内でくつろいでいたが、到着10分前のアナウンスを機に窓際へ行き、外の様子を見る。10年ぶりに見る島の姿は初見の様で、懐かしさは感じられなかった。

(住んでた時は外から見た姿って意識しなかったもんな)

まるで知らない土地に訪れる様な不安と期待に包まれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ