表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
約束  作者: 榎 実
14/46

8月2日②

比較的過ごしやすい午前中に近所を回ってみることにした。

クロに帽子を被せ、タオルでくるんだ凍らせたペットボトルと共に自転車のかごに乗せ出発した。

駄菓子屋、灯台、土管の空き地。こどもの足でも行けた場所から訪れた。どこも馴染み深く、島に来てから初めて懐かしい気持ちがこみあげた。

駄菓子屋で食料調達し、散策エリアを広げる。すると港の反対側に続く山に面した道路沿いに、山道の入口があるのに気づいた。

「…どこに続いてるんだろ。クロ、知ってる?」

“いいえ、この辺りまで来たことはないですね”

自転車を停め、リュックにペットボトルとクロを入れ、その道に入ってみる。木陰で涼しい。あまり人通りがないのか、道は細く荒れていた。どこからか水の流れる音が聞こえる。

10分程歩いたのかーもっとだったかもしれないー少し開けた場所に出た。よく見ると足元に小さくひしゃげた空の祠が倒れている。来た道と反対側に更に道が続いていた。その道を進んで5分としない内に寺の裏へ出た。出口には、立入禁止の看板がひっそりと立っていた。

「…まさに裏道だな」

息を整えながら、来た道を振り返る。そこで初めて、ここが昨日ヨシマサと話題にした、昔よく遊び場にしていた場所だと気づいた。

(そう言えばあの頃、「絶対にお社より奥に行かないこと」って言われていたな)

確かにあの山道は大人でもちょっと危ない感じがする。

"知ってるところですか?"

「ん、あぁ、うん。こどもの頃の遊び場だったとこ。さっきの開けたとこまで続く道が細くてストレートだからさ、よくボールの飛距離を競ってたんだよな。」

"思い出の場所なんですね"

「うん、でも、今は立ち入り禁止なんだなぁ」

(でも、懐かしいな)



元のルートは戻らず寺の敷地をつっきり、表参道へ向かう。今日はヨシマサはいないようだった。

港に続く道との合流地点まで降りたところで、ばったりコウキと遭遇した。

一昨日は制服姿だったが、今日は私服なので、学校は休みのようだ。

「おはよう」

コウキはずっとそうしてきたかのように自然だった。

「あ、うんおはよ…どっか行くとこ?」

ヒロはまだ少し照れ臭さを残しながら、会話を続ける。コウキは夏休みの間、小学校の職員室の一角を勉強スペースとして使わせてもらってるらしく、そこに向かう途中だと言う。

「図書館も遠いし、高校はこっちじゃないから、勉強する場所って家以外なかなかなくて」

「お父さんが勤めてるんだっけ?」

大前姉弟の父は小学校教諭だった。自分は小学校にあがる前に引っ越したので実際に授業を受けたことはなかったが。

「いや、今はもう異動して違うんだけど、ちょっと口利きはしてもらった」

親のコネというのが少しばつが悪そうだった。

(結局はコウキの人柄なんだろうし、気にしないのに)

「ヒロも学校行ってみる?」

「そうだね、せっかくだから行ってみようかな」


道中、メガネをきっかけに事故の話を聞いてみた。

「香織ちゃんに聞いたんだけど、大怪我したって」

「あぁ…ヒロのとこに遊びに行く直前に、崖から落ちちゃって。基本的に大丈夫だったんだけど、それからちょっと目が見づらくなっちゃったんだよ。でもそれを言ったら遊びに行くのも中止にされそうで親には言わなかったんだ。戻ってからすぐ言って眼鏡作ってもらって、それからはずっとだよ。」

「…そうかぁ。じゃあ俺の家にいる間大変じゃなかった?」

「あ、いや生活には困らない程度だったし、大丈夫!滞在中はいつもヒロと行動してたし…あ」

「ん?」

「南選手がよく見えなかったのだけ、ちょっと残念だったかな」

「あぁ!」

コウキが遊びに来るきっかけが、市内で行われたイベントだった。県内のプロサッカーチームの選手が子供たちにレクチャーするというもので、見事抽選に当たったヒロは真っ先にコウキを誘ったのだった。

「まあ技とか動きは見えたけど、表情とか、グッズももっとよく見たかったなぁ…」

当時、普段試合では身に付けない帽子やグローブ・アクセサリーを、イベントでは付けている選手もおり、細かい装飾などが好きなコウキが楽しみにしていたところだった。

「生のナミのフェイント、めちゃくちゃかっこよかったよなー。ナミと同じネックウォーマー買ったよな」

「そうそう、僕、もったいなくて島では着けないで飾ってある。お守りみたいになってるよ」

存外思い出話に花が咲いた後、進路の話になった。

「ヒロは進学するの?」

「…正直まだあんま考えてない。考えなきゃとは思ってるけど…でも就職ではないと思う。コウキは進学だろ?てことは島を出るんだよな、県内?」

コウキはしばらく黙っていたが

「…出なくてはと思うんだけど」

と言ってまた黙った。それからヒロの方を向いて

「でもいる内にまたヒロに会えて本当に良かったよ。こどもっぽいと思うと思うけどさ、最後にした絶対また会おうって約束、結構大事にしてたんだ」

とはにかんだ。

それを見てあたたかい気持ちになりながら、ふとどうしてここまで疎遠になったのか不思議に思った。

(当時SNSはやってなかったけど、メールや年賀状のやり取り位していてもおかしくないのに)


その後訪れた小学校は、入学する前に引っ越したからなのだろうか、妙によそよそしく、中まで入る気にはならなかった。


コウキと別れた頃には11時を回っていた。

半開きのリュックで大人しくしてくれたクロに

「さ、帰ろうか。昼飯俺がやんなきゃまた素麺だろうからなー」

と言ったところで気づいた。

「あ!自転車!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ