『偶像株式会社』を立ち上げた理由
『アポロン』の前代未聞にの怪獣討伐から早くも一週間が経とうとしていた。
その間にも低ランクではあるが怪獣が出現したが、『偶像株式会社』にこれ以上の戦果を上げられては困るシェアトップツーの怪獣討伐会社によって討伐された。
『偶像株式会社』は『アポロン』のテレビ出演や『アフロディテ』のデビュー戦の充備などに忙しく、低ランクの怪獣を相手にする余裕がなかっただけなのだが。
怒涛の意週間がすぎ、ようやく落ち着きを取り戻したので余程のことがない限り会社は完全に休日と設定した。
怒涛の1週間を過ごしたのは事務仕事の二人と『アポロン』の討伐メンバー、あとは『アフロディテ』の衣装をつくっていた正太郎だけなのだが。
ほぼお飾りの社長である眞砂利は特にすることもなく、全員のメンタルケアや衣食住の充実を中心に動いていた。
事務仕事の二人から発せられる死神のようなオーラが見えた時は流石の眞砂利もゾッとしたものだ。
人はあそこまで追い込まれながらも仕事ができるものなのかと。
今その二人は眞砂利の自宅圏『偶像怪獣討伐会社』の本社である3階の仮眠室にて意週間ぶりの熟睡を貪っている。
本日は完全にオフということで誰か誘って遊びにでも行こうかと考えていたらこういう日に限って誰も捕まらないのである。
ヒョウカ、スピリ、正太郎は定期検診のためにじじぃのところへ。
『アポロン』の戦闘員達はそれぞれ休暇を楽しみ、『アフロディテ』の彼女達はいつ何時デビュー戦を行えるようにと戦闘訓練にダンスレッスン。
『隠蔽校舎』の学友達も、宗教の集まりや、己が体のメンテナンス、仕事に、別の友人と遊びに行くなどと様々な理由で断られた。
最近、何かしら誰かと一緒にいることが多かった眞砂利は少し寂しさを感じながらもせっかくの休日、アニメ鑑賞や漫画を読んでごろごろするのもいいかなと思ったが、この一週間でほとんど読み切ってしまった。
何もすることがなく、かといって何もしないのも勿体無いのでその辺を散歩しながら考えることにした。
今日も太陽がサンサンと太陽光を直接肌に当ててくるほど、雲ひとつない晴天である。
いつもの半袖短パンにサンダルの眞砂利の肌は少し焼けてきており茶色くなっている。
頬に伝う汗を拭いながら適当にぷらぷら歩いていると対面から見知った顔がいた。
小顔ですっきりとした顔立ちにザッ!日本人といった真っ黒な髪。
両目の下に泣きぼくろがあり、妙なエロさも兼ね備えている。
イケメンとも美少女とも受け取れる中世的な顔をしているがキリッとした眉毛はどちらかといえば男性顔だろう。
その着ているあまりにもゴツゴツとしたその装備は『エージェントマスターズ』から支給されている対怪獣戦用スーツはその人物が着るにはあまり似合っていないというか、アンバランスな気がする。
その人物も眞砂利に気がついたのか少し気まずそうな顔で手を振ってくる。
眞砂利は半年前のことをまだ気にしているのかと思ったが特に深く考えずにご近所に住んでいるのに久しぶりに会った幼馴染に手を振りかえす。
「これは、これは若きエージェントマスターズ。四季絵季節先輩じゃないですか!未来の巨匠怪獣討伐隊員にお会いできるなんて、サインもらってもいいですか?」
「久しぶりだね、眞砂利」
眞砂利のいつもの軽口に季節はほっとしたような顔を浮かべる。
眞砂利はあのくらいのこと引きずるような男じゃないと知っているのについ心のどこかで季節は僕のことを恨んでいるのではないかと思ってしまっていた。
「どこにいくんだ?よかったら途中まで一緒に散歩しない?俺今一人ぼっちで寂しすぎで肌から汗が止まらなかったんだよ」
「それは寂しいとか関係なく、暑さのせいだろう?いいよ、僕も今から現場に行くところだったからさ」
季節から許可をもらうと眞砂利は嬉しそうに方向転換し季節の隣を歩き出す。
「現場ねぇ。いいよなぁ『エージェントマスターズ』は、自由自在に異次元の穴を開けることも高ランクの怪獣も呼び出すことができて」
手を後ろに組みながらそう呟く眞砂利。
それは『エージェントマスターズ』にとってトップシークレットの情報であるはずだがそれを管理するものが眞砂利のいる『隠蔽校舎』に在籍するため当然のように知っていた。
トップシークレットの情報管理など所詮はその程度である。
人の口に戸はたてられない。それがお喋りの自慢したがりの口なら余計にである。
現にまだ学生の身分である季節でさえその話を耳にしているほどなのだから。
その言葉を聞いた季節は軽く微笑する。
「今周りに人がいないからいいけど、あんまりそういうこと呟かない方がいいぞ。聞く人が聞けば眞砂利君は国によって幽閉されりゃうかもしれないよ?」
「そんな連中が集まってんのがウチの校舎の人間達なんだよ。今更その程度が怖くて愚痴がさらけだせねぇってほど俺はやわじゃないんでね」
「『隠蔽校舎』ねぇ。僕も詳しくは知らないけどあそこって君レベルの化け物たちがいるの?」
「いんや、俺クラスは流石にもう一人くらいしかいないね。といっても隠蔽される内容のベクトルが各々違うからなあそこにいる生徒達は。だから真面目に特別なのは相良くらいだよ」
眞砂利がいうと季節は困ったような顔をしてアー彼かーと呟く。
その反応うちの猿顔のクラスメイトが何かやらかしているということが推察できる。
あの男はよく本校舎の方で成績優秀の生徒達の良き相談相手になっている(相良の自談)らしい。
眞砂利はあまり会いたくない父親の方に連れられた兄弟達がいるので滅多なことでは本校舎に近寄らない。
季節は少し話しにくそうにしながらポツリポツリと語り出した。
「彼ね、結構すけべなところがあってさこの前も女子更衣室を覗こうとしたりどうやって調べているのか大半の女性との下着の色とかバストサイズとか知ってるし、あとすぐ女子をエロい目で見たりしているから結構本校舎の女生徒達から軽蔑された眼差しを送られているよ」
何やってんだあのバカと素直に眞砂利は思った。
たまにボロボロになって帰ってきたり、タコ殴りされたような跡ができて教室に入ってきた時は名誉の負傷とかいっていたがそんな理由でできた傷なら不名誉どころではない汚名の負傷である。
生まれ持った圧倒的な才能のえげつないレベルの無駄遣いである。
「あと、妙に女の子にモテる男子生徒を目の敵にするかと思いきやその生徒にやっかみかけるは戦闘訓練のとき邪魔するはなんだかんだ仲良くなってるで本校舎でも結構な有名人だよ。でも彼って『隠蔽校舎』つまりは実際は学園に在籍してないことになってるじゃん?この学園の七不思議の一つに数えられてるんだよね。『存在しない生徒、エロ猿』って』
「そのまんまじゃん」
眞砂利がそういうと季節は頬に垂れる汗を拭いながらわらった。
「でも眞砂利が特別っていうんだから相当なものなんでしょう?相良くん。どれくらい特別なんだい?」
「え?そうだな、俺が季節先輩を特別に思うレベルで世間一般であいつを見ればそれくらいの特別な存在だよ。この国、というより学園長が世界に隠したがる理由も納得できるレベルの特別だよ」
顔は猿顔のくせにおそらくあの男は今確認されているホモサピエンスで最も進化した特殊個体なのだから。
あれほどの力をなんの努力も人体改造も特殊な環境でもないのにただの一般人が普通に産んで普通に育てて普通に生きてきただけであれほどの化け物になるという事実は絶対に伏せなければならない。
怪獣のおかげで進化しすぎた化学でさえ未だ解明できない人類の神秘は多いのである。
少し前『隠蔽校舎』の使徒のデータをマッドサイティストであるジジィに渡したところあれは人類の神秘がもたらした化学の努力を真っ向から否定する存在であると眞砂利は聞いたことがある。
不意にそんなことを思い出しながらも、季節の顔を見るとこのアツさと、着ている対怪獣用戦闘服のせいか顔が真っ赤になっており、少し俯いていた。
「ありゃ、どうしたよ。季節パイセン。この程度の暑さでもう熱中症にでもなったのか?良ければぬるくなった俺のスポーツ飲料でよければのむ?」
そういうと眞砂利は徐にポケットから中途半端にはいったペットボトルを取り出した。
季節はブンブンと首を振ると額に漂っていた汗も飛び散る。
「いや、君が急に、ぼ僕のこと特別とか言い出すから動揺しただけで」
ワタワタと手を前にしながら慌てる季節。
眞砂利は何を当たり前のことをと思いながら持っていたペットボトルの蓋を開けて中身を飲み干す。
ぬるくなったせいで妙に甘ったるくなったスポーツ飲料は今の空気の味に少しだけ似ていた。
「それりゃ、大切に思ってるに決まってんだろ?俺は『偶像怪獣討伐会社』を立ち上げたのもこの体にありとあらゆる怪獣の力を取り入れたのだって全部、季節先輩達のためだったんだから」
眞砂利がそういうと季節の心がずきりと痛んだ。
数年前に起こった怪獣災害、その日を境に眞砂利は圧倒的な力を求めるようになった。
どんな高ランク怪獣も瞬殺できるほどの、どんな未曾有の危機が訪れても対処できるように彼は人間から化け物へとなったのだ。
そのことを知ったのはつい半年前で段々と変わっていく眞砂利に季節達は気づけなかった。
気づいた時には何もかも遅く、眞砂利はその圧倒的な力を手にしていた。
ランク9の大厄災レベルの怪獣を単独で撃破できるレベルには。
「『偶像怪獣討伐会社』ね。最近活躍がすごいよね『アポロン』。この前のランク8の怪獣討伐最小被害に最短記録の達成。でもあれ討伐したって眞砂利でしょう?」
震える手を握りながら季節は問う。
眞砂利は何事もないかのように肯定する。
「あったりまえじゃん。流石にランク8クラスは『アポロン』の5人じゃ厳しいって。どれだけ強力な『対怪獣兵器』を作ろうとも人のみでは限界ってのがあるしな。どう?季節先輩?うちの会社にはいりたくなった?」
「半年前も断ったけど今回も断るよ。僕は地位も名声も特に求めている訳じゃないからね」
「まぁたフられちゃった。残念。まぁその気になったらいつでも声かけてよ。『偶像怪獣討伐会社』はいつだって美男美女の入社を断ったりはしないからさ」
ケタケタわらう眞砂利に対して季節は苦虫を噛み潰したような顔をする。
その顔に眞砂利半年前のことを思い出す。
あの日は曇天でいつ雨が降るかわからないような天気だった。
圧倒的な力を手にした眞砂利はこれで何もかもうまくいくと確信していた。
最強の自分にもし何かあった時の自分のバックアップ達に事務仕事ができる優秀な人材、後ろ盾に巨大な病院の院長がいる。
あとは、自分の力を世間から隠すための強力な視線が集まる偶像を作るだけだった。
ずっと決めていたことだった、きっと彼ら彼女らも喜ぶに違いないとだって昔から誰かに崇められることを至福の喜びとしていた人たちだ。
安全に尚且つ誰も彼もが彼、彼女達を崇め奉、もうあの時のように死に直面することなどない。
情けない自分はもういない。
あとは彼、彼女達の了承をもらうだけだと、勘違いしていた。
たった一人を除いてその場にいた全員にその提案は断られた。
叱っか、激怒の雨嵐。
目の前で眞砂利が見せた人ならざる力に全員が困惑したのだ。
眞砂利もどうして、みんながこんなに起こっているのか理解できなかった。
己が友人が自分達の弱さのせいで人ならざる化け物となって誰が喜ぶだろうか?
全員があの日怪獣に立ち向かう眞砂利に対して何もできなかった自分達を嘆き、必死の思いでしてきた努力を全て否定された気分であった。
どうして、眞砂利はこんなにもみんなが怒り狂ったのかその原因を諭されたのはつい最近、哀情によってである。
その時は本当に訳がわからなかった。
だって、昔からみんな口癖のようにいっていたのである。
自分たちが存在するだけで誰も彼もが安心するような存在になる!と。
眞砂利には理解できなかったどうして見ず知らずの誰かのために命をかけるようなことができるのかと。
だから、彼は圧倒的な力を欲したのだ。
自分の大事な幼馴染達を守るために、見ず知らずの誰かのために自分は頑張れなくても見知った誰かのためになら命をかけれると思ったからだ。
だから『偶像怪獣討伐会社』を彼は作ったのだ。
見ず知った彼を守りながら彼らを安心の偶像に仕立て上げるために。
彼がこの日間違ったことがあるとすれば勝手に自分でこれでいいと思い込み盲目のままことを進めたことである。
半年前に見た苦虫を噛み潰したような季節に眞砂利はケタケタ笑いながらいった。
「冗談だよ、冗談。そんな顔するなって。他のみんなには避けられてるからわかんないけど半年ぶりに季節先輩と昔のように喋れて俺今すっごい楽しいからさ。だから笑ってくんない?されにも相談せずこんな愚かなバカみたいな決断をした俺を、昔みたいにバカにしながらさ」
ポンポンと季節の最中をたたきながら問いかける。が季節はその手を払い退けて怒りに任せたまま大声で怒鳴った。
「できるないだろ!このバカ!」
そしてそのまま走り去ってしまった。
ひとりぽつんと取り残された眞砂利はその場に立ち尽くしながらつぶやいた。
「俺って本当に愛されてたんだな。なぁ哀情さん?」
ここにはいない、クラスメイトに諭された時の説教を思い出しながら眞砂利は深く深くそう思った。
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