おもしろくねぇ
『エージェントマスターズ』
国家保有のエリート怪獣討伐部隊。
部隊編成は13の大隊に分かれており、例外を除き1部隊の編成が約30人ほどとなっている。
選ばれた才能ある人間が恵まれた環境で最適に育てられ上げたものたちである。
ほとんどの隊員は個人でランク3ほどの怪獣で有るならば仕留められる。
入隊の仕方はただ一つ、スカウトされることだけである。
コネや紹介などではいっさい入れずに、実力と実績のちの成長を見込まれたもののみを、上層部の人間が見極めるのである。
前例はほとんどないが学生内からこの『エージェントマズターズ』にスカウトされるのはよほど名誉なことでその時点で人生勝ち組のレールを確約されたも同然で有る。
大概が、『新怪獣討伐連合会社』の若きエリートたちを引き抜くのが主な入隊方法となるのだが、そんなことをして両者の関係が良好で有るはずもなく、長く互いが互いといがみ合っている状況にある。
世間一般として『エージェントマスターズ』は栄光の象徴でもありそれに憧れて怪獣討伐を志す若者も多いため『新怪獣討伐連合会社』への恩義が薄い若者たちは結構な確率で引き抜かれている。
『新怪獣討伐連合会社』は『エージェントマスターズ』へと駆け上がるための教育機関であり、ふるいにかけられ認められれば『エージェントマスターズ』に入隊できるいう認識を持つものも少なくはない。
なぜ、『エージェントマスターズ』はこんな手法をとるのか。
一つは長い歴史上ずっとそうやって入隊の隊員を決めてきたから。
もう一つは単純に育成期間と研修期間が全くもってないのである。
一昔前までは一年で数度しか異次元の穴は自然発生しかせずに怪獣は一回につき数体から数十体ほどしか出てこなかった。
だが最近は、異次元の穴から出現する数が大幅に増え、ランクも徐々に上がっていっている。
今回『アポロン』が倒したランク8の怪獣、のちにケンザンルス(眞砂利命名)飛ばれる怪獣のように単対で現れる方が珍しい。
それだけならまだ、育成期間も十分に設けられ社内改革もできる時間もあっただろう。
誤算だったのは上層部の人間が今まで通りでいいと結論づけたことと世界初にして全国家唯一の人為的に異次元の穴を開けるようになったことである。
どういう仕組みで人為的に開くのかは国家秘密で国家保有の『対怪獣兵器製造部門』、『レジェンダリー』の最重要技術者たち数名しかわからない。
人為的に開けるようになった異次元の穴、出てくる怪獣の数は操作できなくても出てくる怪獣の出現場所に出てくる怪獣のランクは自由自在に出現させることが可能となった。
一応、ランク7以上の怪獣を出現させる場合はそれ相応の手続きが必要となる。
よくに目が眩んだ国家の上層部は『エージェントマスターズ』を馬車馬のように働かさせた。
おかげで日本は怪獣討伐の恩恵により他国よりも一歩進んだ技術力を手に入れることに成功する。
その結果、ほぼ毎日怪獣討伐に明け暮れている『エージェントマスターズ』の隊員たちは後輩育成をする暇もなくある程度育った優秀な人間を外部からスカウトするほかなくなったのである。
新人を育てる時間でさえ、彼らにとっては惜しいことなのである。
そんな『エージェントマスターズ』のある部隊。
眞砂利たちの『偶像怪獣討伐者』が構えてある街が担当地域に入っている13部隊のうちの一つ『インクルシオ』の大隊長、皆義嘉三。
いかにも歴戦の男の顔をしており今年で50にもなる、大ベテランである。
禿げた頭皮は電気によりその輝きをまし、頭に毛がない分立派な顎髭に口髭、凛々しい眉毛がついており深く深く顔には皺が刻まれていた。
『インクルシオ』の本拠地である建物の一室に彼は自分の信頼たる部下である者たちを呼んでいた。
彼の右腕である、車屋青桐。
二十年近く皆義のもとで働いており、『インクルシオ』のNo.2である。
年齢は48ほどだが、その頭皮にはしっかりと毛がついており歳を感じさせない若々しい顔立ちである。
もう一人は琴吹ザンカ。
二人より一回りは歳が低いがそれでも立派な実力派でもある。
髪型にはあまり無頓着なのかボサボサの髪をそのままに召集に応じていた。
3人は巨大なモニターに映し出される『アポロン』の緊急特番を見ていた。
皆義はいかつい顔でテレビを見ており、一本もない自分のつるっぱげな頭をペチンと叩く。
「が、はっはっはっ!わしらが討伐編成をしている間にあっという間に倒されたのぅ。こりゃ一本取られたわ!」
「笑い事じゃないですよ、皆義さん」
豪快に笑う皆義に車屋は呆れた様子で言い放ち、琴吹が入れてくれたお茶を啜る。
今回ランク8の怪獣の出現と共に『新怪獣討伐連合会社』も『エージェントマスターズ』も動かなかったわけではない。
むしろ迅速にお互いがお互いよりもより早く怪獣討伐のため全国に散らばっている他の『怪獣討伐部隊』に応援要請を出していた。
ランク8の怪獣ともなると『エージェントマスターズ』の大隊を最低でも4部隊は集めなければ討伐不能なほどの怪獣である。
皆義たち『インクルシオ』は突如現れた厄災に訓練られた通りの迅速な対応で討伐する予定であった。
討伐準備をしている間、わずか数十分後にはランク8の怪獣討伐というニュースが流れていた。
これはランク8の討伐記録の最短記録であり、街への被害は最小とニュースのテロップに流れていた。
そのニュースが流れた時、皆義はポカンとしたが同時に大笑いもした。
若き日の、皆義がランク8の怪獣を相手にした際一体どれだけの被害や犠牲者が出たのかを考えると笑いが込み上げてきた。
あの頃とは違い、怪獣たちの恩恵により進化しすぎた科学のおかげで昔よりは怪獣討伐は確かに楽になった。
が、厄災と比喩されるランク8の怪獣が自分の子供とそんなに変わらない年齢の青年たちが討伐しさらには最短最小被害ときたもんだ。
『アポロン』最近ここら辺に立ち上げられた民間の怪獣討伐会社『偶像怪獣討伐会社』に所属する怪獣討伐部隊で5人という小隊でありながらランク6の怪獣を討伐したと聞いていた。
『エージェントマスターズ』のスカウトマンも引き抜きに行ってはいるらしいが頑なに拒否しているらしい。
テレビではちょうど『アポロン』の面々が英雄としてもてはやされているシーンが流れていた。
全員が整った顔立ちをしており、万人受けするように作られたかのような討伐部隊。
『偶像怪獣討伐会社』とは皮肉な名前をつけたものだと、皆義は思う。
昨今、年々に増していく怪獣達の『アウノウン』数値に国家の上層部達も年々危惧していた。
いつどこで発生するかわからない、異次元の穴。
人工的に作れるぐらいには解明してきているがそのうち人類全体を脅かす、前代未聞のランク10以上の怪獣がいつ現れてもおかしくはない。
いまだ人類はランク7以上の個体で認識を確認される『ネームド』に対して安定した討伐兵器も討伐部隊も編成はできていないのである。
ましてや、被害者数0などはあり得ない。
今回のランク8出現時に死を覚悟した隊員達はそれは多くいただろう。
そんな不安を打ち消すかの如く、流星のようにいや、太陽のように市民を照らすかの如く現れた『アポロン』。
その存在は多くのものが崇め奉りたくもなる。
『偶像怪獣討伐会社』独自の技術により作られた『対怪獣兵器』がすごいのかそれとも『アポロン』一人一人の実力がすごいのか、その両方がすごいのか定かではないが事実『アポロン』はこの街の平和を守ったのである。
何よりその偶像達がイケメンで鼻につくような性格でもないときている、『エージェントマスターズ』の隊員達もすでに狩られの虜となっているもの達も多い。
かくいう皆義や車屋、琴吹もしっかり彼らの新曲は携帯電話にばっちりダウンロードしている。
『インクルシオ』を束ねているこの3人がここに集まったのは『アポロン』についてではない。
『アポロン』のランク8を最小被害、最短で討伐成功を面白くないと思う国の上層部連中と半数以上の大隊長によって決まったある作戦の前段階の報告にある。
『エージェントマスターズ』にも長い歴史この国を怪獣から守ってきた誇りがある。
その歴史も何もない、ポットでの民間企業に栄光の全てを掻っ攫われたのである。
古参であればあるほど、面白いと思うものは少ない。
「本当にやるんですか?大隊長、せっかく最小限被害でことなきを得たってのにそれにつづけて、ランク8ほどの怪獣が現れたら、流石に『新怪獣討伐連合会社』にうちのトップシークレットばれるんじゃないですかい?」
気だるそうに琴吹は上司である皆義にとう。
皆義はかっかっかっ!と笑うと机を強く叩いた。
「しょうがあるメェよ。俺たち古参にも古くからこの国を命懸けで守ってきたっていうくだらねぇプライドがあんだからよ。ジジィ達がチンケなプライド押し通すとき理由は大概くだらねぇもんだ」
その理由はと聞こうとした口を開きかけたが琴吹はそっと口を閉じた。
聞くのも馬鹿馬鹿しくなるぐらい目で語っていたからである。
おもしろくねぇと。
上層部然り我が上司然り、みっともないものだ。
最近現れた高ランク怪獣はある程度『偶像怪獣討伐会社』に退治されている。
琴吹も面白くないとは違うが、活躍しすぎなのではと思う。
他にも怪獣の遺体は倒した部隊が保有するものとなっているが、かの会社はなぜかある病院に全ての怪獣の遺体を下ろしている。
おかげ他の怪獣専用クレームの嵐だ。
『エージェントマスターズ』が国家機関とはいえ、スポンサーは多くついておりそのもの達の後押しももちろんある。
独り占めするガキ大将は嫌われるのが余の断りなのである。
ここいらで一つ、その伸びた天狗の鼻を折る必要があるという考えには賛成だ。
実際は天狗ではなく嘘をつきまくってのびたピノキヨの鼻なのだが。
「やるしかないですよ。琴吹。これは皆義さん達が言い始めたことなんですから」
諦めたようなやる気に満ちたような顔の車屋に琴吹は何も言わなかった。
皆義は少し楽しそうに禿げた自分の頭をペチンと叩いて笑う。
「がっはっはっはっは!そうだ、いいぞ車屋。安心しろ寿、今作戦は『エージェントマスターズ』の誇りにかけて大人気もなく6チームも導入されるんだからな。安全を保証できんが、命は補償してやんよ」
自分の持ってきた上層部と各部隊の大隊長の決定により決まった作戦。
ランク8の怪獣を人工的に作り上げた異次元の穴から出現させ『アポロン』よりも最短に最小限被害で済ますというもの。
決行はちょうど来週の今日。
12時にから、場所はこの町からだいぶ離れた一昔前に圧倒的怪獣により更地となった高原。
『エージェントマスターズ』の誇りと歴史にかけての大討伐がいま始まる。
結論から言うとこの作戦は失敗する。
圧倒的な被害に『エージェントマスターズ』は優秀な隊員達を多く失った。
その原因は『隠蔽校舎』の生徒の一人なのだがそれを知るものは誰もいない。
『インクルシオ』の3人は来るべき日に備えて完全な準備を一週間後に仕上げるのであった。
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