もうひとつの『怪獣討伐部隊』
会社の本社、兼自宅に帰る途中の電車の中。
時間も時間なのでそこそこ混み合った電車内。
運良く座れた眞砂利は携帯にてネットニュースのチェックをしていた。
どこのネットニュースも『アポロン』『アポロン』『アポロン』である。
『人類の希望』、『神がこの世界に与えし救世主』、『歌って踊れる正義の戦隊ヒーロー
』。
誰も彼もが彼らの活躍を有る事無い事書き上げている。
電車内の学生服をきた女子たちも周りの迷惑など気にもせずに『アポロン』の話題で盛り上がる。
ランク8の怪獣討伐に新曲の発表。
新曲のCDには握手券が入っており、予約も殺到していて既にパンク状況ということ。
眞砂利の懐にはまたえげつない額の金額が入ってくる。
そのことを想像するだけでニヤケが止まらずに、携帯を見ながらにやにやする。
人はやはり、雇われるより雇う方が儲かるのである。
ここは頑張りどころなので『アポロン』には無理をしない程度で働いてもらいこの熱が落ち着いてきたら社員全員でどこか旅行に行くのもいいだろう。
眞砂利個人はハワイや沖縄にでも行きたいのだが、『アポロン』や『アフロディテ』のみんなが日焼けして黒くなられても困る。
軽井沢でショッピングなんてのも悪くないか?
などと考えていると電車が停車して新しい乗客が乗り込んでくる。
すると一人の女性がニヤニヤとニヤける眞砂利に気づきその前まで移動した。
キリッとした顔立ちに金髪に染めたショートヘヤーは最近染めていないのかテッペンのところだけが黒くなっておりプリンみたいな髪型となっている。
すらっとしたモデル体型で長い足に見事なくびれ、身長も優に180センチは軽く超えている。
両耳にはその女性を飾り付けるにたる、藍色の宝石が埋め込まれたピアスに首元には十字架をかたどったおしゃれなネックレスをしている。
右手には真っ黒なレザー製のトートバックを持っていた。
買い物帰りらしく、左手には大きな紙袋を抱えていた。
大人っぽい見た目であるが、まだ16歳と言う若さである。
彼女が電車に乗り込んだ途端その目を惹きつける美貌に誰もが無意識に見入ってしまう。
そんな、視線お構いもなしに女性は眞砂利に声をかける。
「なに、ニヤニヤいやらしい笑みを浮かべてるんですか?社長」
若干棘を感じる声のトーンに眞砂利は顔を上げた。
かなり不機嫌そうな知った顔である金髪美少女。
この顔は何かしら文句を言いたい時の顔であることを眞砂利は知っており、そしてその文句の内容も大方検討はついている。
先ほどのニヤニヤした嫌らしい笑みから一転真面目な顔つきになった眞砂利は目の前の金髪美少女にこういった。
「言いたいことは、わかった」
「まだに何もいってませんけど」
にっこりと額に血管が浮き出た怒りマークを隠そうともしない、『アフロディテ』のリーダーである、十文字灯は眞砂利にイラッとした。
周りの乗客もその怒気を感じたのか、電車内は少し混み合っている時間にも関わらず距離をとる。
先ほどの大声で『アポロン』のことをしゃべっていた女子高生たちよりもよっぽど迷惑である。
美少女の笑顔の怒りはもはや脅迫と言ってもいいほどの狂気がある。
その狂気を肌で感じながらも眞砂利はまぁまぁと、十文字をなだめる。
「やぁ、灯ちゃん。こんにちは。言ったろ?言いたいことはわかったって、でもここは公共施設だ。君のように周りに迷惑をかけても許されるような美少女ではない俺はここで揉め事なんて起こしたら周りから冷たい視線をさらされ注意を受けることになるだろ?次の駅に停車したらのんびり歩きながら話そうじゃないか」
「何よその喋り方は腹たつわね。それに美少女も周りに迷惑かけたら注意されるわよ」
「そんなことはない、美男美女は何やっても許されると人類史ができた時から決まっている」
眞砂利の力説に血管がピキリと音を立ててさらに怒りマークが十文字の額に刻まれる。
周りの乗客もヒヤヒヤしながら、美女とどこにでもいそうな少年とのやりとりを見る。
一色触発の空気が流れ始めたがちょうど狙ったかのように電車が停車し、眞砂利が降りる。
本当はもう数駅乗らなければならないのだが、あまり悪目立ちするのは眞砂利が望むことではない。
「私まだ一駅しか乗ってないんですけど!」
眞砂利の後を追いながら十文字も電車から降りる。
一色触発な空気から解放された電車の乗客はほっと胸を撫で下ろして日常にと戻った。
改札口から出ると、その駅はあまり人気はなく寂れた駅であった。
生まれてからずっとこの街に住んでいた眞砂利であるが、こんな寂れた駅があったとは少し驚きである。
実際に降りた乗客も眞砂利たちを合わせても、数人しかいなかった。
十文字も眞砂利の後に続いて改札口から出る。
眞砂利はすっと右手を十文字に出すと十文字は当たり前のように持っていた紙袋を眞砂利へと渡す。
流れるような動作に普段からもそうしているのが一眼見ただけでわかる。
トートバックを持たないのはそれもおしゃれに含まれていることを眞砂利が知っているからである。
まだ、十文字と知り合って間もない頃気を使って鞄を持とうとしたら十文字に『これもオシャレの一部なんじゃい!』とブチギレられた記憶が今でも眞砂利の脳内にガッツリ焼き付いている。
知り合って間もない人間にそんなにキレられたのは眞砂利の交友関係でも十文字一人だけである。
「あまり悪目立ちは控えて欲しいんだけどなぁ。俺と違って君はこれから人々の心の支えとなる偶像になるんだからさ」
歩き出した眞砂利は隣を歩く十文字に軽く注意する。
十文字は納得のいかない顔で眞砂利に反論する。
「それもこれも社長がいけないじゃん!『アポロン』ばっかり優遇して『アフロディテ』は全く活動してないじゃん。デビューすらまだじゃん!この前のランク6の怪獣の時も今日のランク8の怪獣も新曲も『アポロン』の活動ばっかじゃん。今日だって街でお買い物してたのに誰も自分のこと『アフロディテ』の『アグライヤー』ですか?写真いいですか?って一言も声かけられなかったんだもん。声をかけてくれるのはチャラいナンパに意味のわかんないスカウトのおっさん、引き抜きに来たうぜぇ上から目線のババァ。話が違うんじゃないの?」
確かに話が違うなと眞砂利も思う。
十文字をスカウトする際に眞砂利はこう言ったのだ。
『楽ではないかもしれないけど、その美貌を利用してもっとチヤホヤされたくない?』と。
この時眞砂利は『偶像怪獣討伐会社』を立ち上げたばかりで『アポロン』の保険としてもう1チーム今度は美女で作ろうと思い立ち作ったのが『アフロディテ』なのである。
そして幼馴染を勧誘するも見事に振られじゃあ仕方ないかと近所で有名な傲慢わがままお嬢様をスカウトしに行ったのがつい半年前のこと。
噂では散々甘やかされて育ち承認欲が強いが自分などはSNSをやろうはせず、家で働いている使用人たちに自分をチヤホヤさせるお嬢様だったが実際会ってみてその印象はだいぶ違った。
そんな噂可愛いものであった。
単純に内弁慶のわがままで傲慢で他力本願のお嬢様であった。
眞砂利がスカウトしに行ったその日にある程度契約の内容を話すと爛々と目を輝かせていた。
眞砂利の持って行った話は彼女からしたら大変魅力的だったらしくその日のうちに眞砂利は彼女の中の内に入ってしまった。
彼女曰くSNSをしないのはどう言った投稿がバズるとかよくわかんなかったらしくあげた動画や写真が誰にもみられないなんてそんな辛い失敗は経験したくない。
叩かれるアンチコメントは絶対にNG。
他人が用意した絶対に成功する企画、誰も彼もが彼女を崇拝するに値する怪獣討伐という仕事。
しかも、自分は『対怪獣戦闘訓練』を受ける必要もなく支給される圧倒的な高性能兵器で怪獣をぶっ倒すだけ。
安全も保証されており高ランクの怪獣討伐の際は自分は少しだけ戦っているふりをしてランク9を単独で討伐できる実力者である眞砂利が怪獣を倒して手柄は全て自分のものになる。
そんなうまい話を怪しむこともなく食いついてしまうのが彼女十文字 灯である。
眞砂利も当初は『アフロディテ』と『アポロン』を交互に活躍させる予定だったのだが大きな誤算が二つ。
一つは眞砂利のお眼鏡似合うメンバーがすぐに最低人数の3人スカウトできなかったこと。
もう一つは『アフロディテ』の衣装に衣装のデザイナーが死ぬほどこだわっていることである。
『アポロン』の時はある程度妥協地点を目安にデザインしてもらい、それを技術者が怪獣の遺体を使った戦闘スーツにしたげあげ会社を立ち上げたと同時に怪獣討伐を見事果たしてくれて、デビュー曲の衣装のデザインも他の社員が素人目で見ても結構いいじゃんぐらいの仕上がりである。
おかげで『アポロン』のはいい感じのスタートを切れた。
が、これがいけなかった。
期限が短く、他の仕事もあり、されにはある程度妥協してもいいので期限までにお願いしますと言われたからってあんな自分でも納得していない衣装を世間様に晒すなんて彼のプライドが許さなかった。
そのせいでデザイナーの職人魂は大いに傷つき、一時期退職まで考えていた。
その1ヶ月後に眞砂利はもう一度今度は『アフロディテ』と『アポロン』の新コシュチュームのデザインを依頼。
前回は急な依頼をして申し訳ないなと思っていた眞砂利が今回も前みたいな感じでぇ期限は問いませんのでぇと依頼した。
それがいけなかった。
いまだに『アフロディテ』のコシュチュームはできあがらず、とりあえずは急拵えで用意した『対怪獣用戦闘服』で練習としてランク4以下の絶対に怪我しない程度の怪獣と戦ってもらっている。
専用の『対怪獣兵器』はできているので討伐にはなんら支障はない。
それでも十分にシェアトップの2つの会社から見ればスカウト対象なのだが。
デザインが出来上がらなければ『偶像怪獣討伐会社』の技術者は高ランクの怪獣を使った対怪獣装備を作ることもできないし、かと言って他の会社が出しているありきたりな『対怪獣用戦闘服』で『アフロディテ』をデビューさせるわけにもいかないし、高ランク怪獣との戦闘になってもしものことがあっても困る。
『アポロン』だけが異様に活躍する中『アフロディテ』のお嬢さん方は目立たない小さなお仕事ばかり。
不満が溜まって当然である。
なのに先に『アポロン』の新コシュチュームのデザインが出来上がった。
そのコシュチュームは現在技術者によって、開発途中である。
流石に遅すぎると思いこの間デザイナーに問い合わせたところ、神が降りてくるまで待って欲しいと鬼気迫る声で言われたので素人の学生ごときの自分が口を出すべきではないと眞砂利は悟り頑張ってくださいとだけデザイナーに伝えた。
というのが、『アポロン』ばかり活躍している理由である。
会社を立ち上げて半年、そろそろ『アフロディテ』の彼女たちも世間に注目される活躍をさせねばとは考えている。
が、下準備が整ってない以上どうしようもできないのである。
「俺だって、『アフロディテ』を活躍させるものならさせたいんだけど。こればっかりわね。安全第一、魅力第一がうちの『怪獣討伐部隊』のうりだからもうちょっと待ってよ。デザイナーさんがもう少し祈れば神様はきっと答えてくれるってやばい宗教にまで入って君たちにとってのベストなコシュチュームを考えてくれてるんだから」
「前もそう言って誤魔化さなかった?単純に締め切り決めないからこういうことになるんじゃないの?自分はもっとチヤホヤさせたいの、すごいねってさすがだねって、使用人やパパ、ママ以外の人たちにももっと自分を褒めて欲しいの!それが実現するって聞いたから社長と契約したのに!真綿で首をゆっくり締め上げられているみたいだよ!」
その言葉の使い方は合っているのかと思ったがスルーする。
別に眞砂利は灯を苦しめようとも殺そうとも思ってはいないのだから。
「条件を提示した俺いうのもなんだけど見ず知らずの誰かにチヤホヤされて嬉しいもんなの?俺はどちらかというと見ず知った人たちにチヤホヤされたいタイプなんだけど」
なんとかこの場を誤魔化すために話題変換。
常日頃から眞砂利が思っていた疑問を聞いてみることにした。
すると灯は何言ってんだこいつ?みたいな顔をして眞砂利をみる。
「嬉しいに決まってんじゃん。誰も彼もが自分を知ってるんだよ。この人はすごい人だって尊敬の眼差しで見られ崇拝され愛される。誰も彼もが自分を賞賛する。誰一人悪態つくことなく自分の偉業を子孫に受けついでいくのよ。ここまでしてようやく自分の承認良級は満たされるの」
うっとりとした顔で灯は答える。
そういうものなのかねと眞砂利は解釈する。
「まっ!次いつくるかはわからないけど次に高ランク怪獣が現れた時には衣装が出来上がっていることを祈ることだね。福は笑って待てっててね」
「本当に急いでくれない?じゃないと引き抜きにきたババァにOKの返事代ちゃうかもよ?」
「それは笑えない。引き抜かれてもいいけど専用の『対怪獣兵器』はかえしてもらうからね。あれはうちの会社の営業内容並みにトップシークレットなんだから」
慌てた動作をしてあたふたする眞砂利。
実際は『偶像怪獣討伐会社』で扱っている『対怪獣兵器』は実物をどれだけ解析しても他の会社が模造して作れないようになっている。
他のやり方ならそれ以上の『対怪獣兵器』が作れるかもしれないが、『偶像怪獣討伐会社』で使っているものは絶対にどれほどの技術があろうが作れない。
あれは『偶像怪獣討伐会社』の技術者しか使えないウルトラC な技術で作っているのである。
眞砂利のわざとらしい慌てる様をみて、灯は呆れた物を見る目で眞砂利を見る。
「冗談よ、でも本当に本気で自分にそんなことさせないでよね、社長」
これは灯なりのエールでもちろん眞砂利もそのことを理解している。
自分を失望させないでよね、自分から見限られないようにせいぜい頑張りなさいと。
本気で、そろそろデビューさせてくれないと力の限り暴れるぞと。
眞砂利は美人社員からの不器用なエールにこう答える。
「もちろん、俺は見知った君たちにチヤホヤされたくてこの会社を立ち上げたのだから」
そこまでが本気なのかわからない眞砂利の返答はいつにも増して真剣みを帯びていた。
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