隠蔽校舎
『私立永光寺学園』
ここは小中高大とエスカレータ式の日本でも有数の超巨大私立学園である。
学生の数は全てを合わせれば優に3000人近くにも上り、教員の数も一般の私立校などに比べれば圧倒的な人材を抱える。
寮などもあり、そこで暮らす学生も多く存在する。
寮生活をするのは大体中学か高校から入ってくる編入生などが多いのだが小学生から寮に住むつわものも少なからずこの学校にいる。
そう言った生徒は大体が親がこの学校の卒業生であり学校の設備に優秀な教員という恵まれた環境にはやいいうちに我が子の成長を願ってのことである。
『永光寺学園』で最も力を入れているのが『怪獣討伐』に関する専門勉学である。
さまざまな『怪獣』の知識や戦闘の仕方はもちろん、『怪獣専門兵器』の扱い方やその作り方に至るまで『怪獣討伐』の全ての基礎が学ぶことができる。
教養絵お施してくれるのは『怪獣討伐』の現場で前線で活躍して引退した教師も多くさらには現役バリバリの『怪獣討伐部隊』の隊員が直々に教育に来てくれたり、見込みのあるものは研修生としてその部隊に配属されることだってある。
『新怪獣討伐連合会社』のエースや『エージェントマスター』の部隊に所属するものたちは『永光寺学園』卒業をした生徒たちも多い。
一般的な学問の教養もさまざまな部活動、うまい学食に自由に使っていい多種多様な施設。
自由な校風もこの学校の売りの一つである。
そんな巨大学校の端っこの教室。
本校舎から約1キロほど離れた植林地にポツンとたたずむ8階建てのボロい建物。
今では校内パンフレットにも載らなくなってしまったこの学校のある校舎。
何十年も整備されていないのか外から見ただけでわかるほどのボロさ。
壁にはヒビや苔が生えており少し黒く変色もしており、日当たりが悪いことが物語っている
いくつかの窓のガラスはひび割れており、今にでも倒壊するのではないかという不安に煽られる。
不気味なオーラを発しており、一昔前までは生徒が肝試しなどをしていたところ行方不明者が続出したらしく一時期完全封鎖されていた。
噂に噂がまざって、さまざまな怪談が生徒たちの間で囁かれている。
通称『隠蔽校舎』と呼ばれるこの学園の者たちでさえ近づくことはほぼない知る人ぞ知る、心霊スポットである。
眞砂利はそんな自分のクラスがある校舎を眺めながらいつ見てもボロチッいなと思いながらボロボロの扉をひらいた。
中も床は軋み少しかび臭いが漂う。
唯一の救いである日当たりの悪さでこの夏の暑さをほんの少しだけカバーされていることだが、そのせいで雨が降った後の日などはすごい匂いになる。
うんざりするような劣悪な環境の校舎の階段を一歩、また一歩と登っていく。
こんな校舎にエレベーターもエスカレーターもあるはずなく、自分のクラスがある最上階まで歩いて登るしかない。
もちろん、階段も古い木材でできており軋む音がなる。
滅多に登らない8階分の階段を上り最上階にたどり着く。
そこは本当に学生たちの間で『隠蔽校舎』と呼ばれる場所なのかと疑うような仕様になっていた。
廊下の床は綺麗に整備されたコンクリート製でできておりもちろん軋みもひび割れもない。
窓ガラスも割れているところもなく、かび臭くもない。
8階にある分、下の階では周りの木々で遮られている真夏の太陽光は流石に直接入ってくるがそんなこと気にもまらないほどににエアコンが完備された涼しい廊下。
眞砂利は自分のクラスの引き戸に手をかけて中に入った。
広々とした教室は、上下に移動する巨大なホワイトボードの前に一つの教卓。
インターネット環境もバッチリで上から出せる巨大スクリーンもありプロジェクターにつければDVDの視聴やゲームなどもできる。
85V型の液晶テレビの巨大なテレビにと至れり尽くせりの設備が揃っている。
机は7つしか存在せずにその席には見知った女二人が自分達の机をくっつけて携帯で見れるある動画をかぶりついて見ていた。
眞砂利は二人の女子生徒に近づいて挨拶をする。
「こんにちは、お嬢さん方」
眞砂利が言うと女性とは二人とも振り返り見ていた動画をとめた。
「こんにちは、美杉くん。愛も変わらず、半袖短パンで学校にきて。」
「こんにちは、みーっくん!今日は補修が復活してみんなに会えて超ハッピー!ぴょんぴょこピョーン!」
眞砂利にそう言ったのは、哀情杏梨と宇佐義新月である。
哀情は自分の腰くらいまである黒い髪を一本の三つ編みにして結んでいる。
容姿もある程度整っており、ナチュラルメイクをしている。
この学校指定の高校制服をきっちりと身を包み全体的に凸のない体型である。
すらっとした足は黒いストッキングに包まれていた。
一方、宇佐義の方はベリーショーとの髪型でさっき起きたのかそれとも起きたままそのままなのかボサボサである。
こちらも学校指定の中学生制服に身を包んでいるが結構着崩してきている。
ぱっちりとした大きい瞳は小動物のような可愛さを引き出している。
身長が低い割にこちらは凹凸が激しい体つきで両手を頭の上にやり兎のポーズを取っていた。
「二人とも何見てたの?」
自分の席から椅子を移動させて二人が眺めていた携帯へと目をやる。
そこには動画投稿サイトにて先ほど発表された『アポロン』の新曲の動画であった。
まだ発表して1時間も経ってないにも関わらず動画再生回数は既に100万回を突破しているみたいで眞砂利は満足そうにうなづく。
哀情が動画の再生ボタンを押すと動画が途中から始まる。
「最近、異様にはやってるわよね。『アポロン』この間ランク6の怪獣を討伐したあたりから知名度も人気も爆上がりしてるじゃない?今回はランク8の怪獣相手に最小限被害で止まらせるとか。イケメンで歌もうまくてダンスも上手で怪獣討伐もできるとか、そりゃあ人気も出るわね」
「あはははは!お陰で補修も復活!うさちゃんは大変気分がよろしいんだよぅ!ぴょんぴょこピョーン」
「二人とも『アポロン』のファンだったりするの?」
映像に目を落とす二人に眞砂利が聞くと二人とも横に首を振った。
「べつに?私は純粋たる18歳の女子高生として流行に敏感になってるだけよ。みんなが好きなものなのだから間違い無いでしょう?まぁ私の愛情を捧げ切る存在はまだこの世界に実在してないのだけれど」
「うさちゃんは、アーちゃんが見てたから一緒に見てた」
「さいですか」
少し気を落としながら、確かに最近『アポロン』の方に力を入れすぎて『アフロディテ』の方が少しおざなりになっている。
今度高ランククラスの怪獣が出てきたら新人の大型怪獣討伐部隊として『アフロディテ』に討伐させてデビューそのまま新曲の披露だ!と眞砂利は心に誓った。
彼女たちの衣装ができていればの話だが。
「今日の補修は来るのはこれだけかしらね?あとは相良くんだけかしらね?」
哀情は『アポロン』の曲が流れ終わるとホームボタンを押しそのままポケットに携帯を突っ込む。
もうそろそろ補修が始める時間なのであの悪友もそろそろきてもいい時間帯のはずなのだが、相良という男はマイペースでおそらく今は彼の趣味の一環で本校舎の優秀な生徒にでもちょっかいかけに行ってるんだろう。
「補修と言っても今日もプリントだけだと思うけどね。体裁上出席日数が足りないってことで僕たちは夏休みにこの教室に来なきゃいけないんだから」
「ぴょんぴょん!じゃあさ補修が終わったらどこか遊びにでも行こうよ!最近できたプラネタリウムとかこっちに出店してきたラーメン店とか!!」
「残念ながらその二つとももう無いわよ?今朝の『怪獣災害』で木っ端微塵になってしまったから」
「そんなぁ、今のはうさちゃん、結構ショック」
そのまま机に突っ伏す宇佐義。
宥めるように哀情はよしよしと彼女のボサボサの髪を撫でる。
「まぁ、ラーメンくらいならいけんじゃねーの?近くに美味いラーメン屋いっぱいあるしよ!」
そう言いながら教室に入ってきた男子生徒。
眞砂利とは違い、学校指定の高校生制服をきた猿顔の少年。
それ以外に特にこれといった特徴はない。
それでもあげるとしたら、高校生離れしたその高身長ぐらいであろう。
身長が高いのに何故かシークレットブーツを愛用するため2メートル近い身長になっている。
「こんにちわ、相良くん。愛も変わらず元気そうね」
「てぃーす!哀情先輩!異様なほど元気なのが俺の取り柄でしてね。三杉もウサちゃんもグッデンモルゲーン」
「グッデンモルゲーン」
「グッデンモルゲーン」
眞砂利は相良の方を向いてヒラヒラと手をふり、しょげウサギモードの宇佐義は机に突っ伏したままあいさした。
「ありゃりゃ、こりゃラーメンよりもプラネタリウムの方に行きたかった口みてーだな」
しょげウサギモード継続中のウサギをみて相良がそう判断する。
こうなった宇佐義は十分もしたらころっと元に戻るので基本ノータッチである。
「美杉、美女との火遊び(アバンチュール)はどうだったよ?」
相良が自分の席の椅子を三人が固まっている机にいどうさせた。
「なんの話してるんだ?俺は今日一人寂しく家に引きこもりながらランク8の怪獣に怯えて神様に祈ってたんだぜ?」
「息吐くように嘘ついてんじゃねーよ。朝補修がなくなる電話かけた時明らかに外にいたじゃねーか。火遊び(アバンチュール)はともかく美女と一緒にいたってのは本当なんだろ?くっそーなんでお前ばっかりそんなにモテるんだ」
やっかみを吐くように椅子に座りながら地団駄を踏む相良。
こいつは何故か、昔から俺の9割9部の出鱈目な話のうちの一部の本当を看破してくることがある。
妙に察しが良く、気が付いたら本当のことをしゃべってしまう。
一緒にいて居心地がいい、眞砂利が相良に思う印象である。
そう思うものはこの学校で少なくないようで本校舎の優秀な生徒たちも相良にだけは何故か気を許している節があるものも多い。
エッチで情報通でコミュ力の高い男のなのである。
「女にモテるってやっかむなよ。相良だってその気になれば彼女の一人や二人は簡単に作れるんじゃないのか?なんだかんだお前に心を寄せているやつは結構いるだろうこの学校には」
眞砂利が尋ねると相良ははっ!っと鼻で笑った。
「いつも通りのジョークだよ。本当に思ってるわけねぇだろ?俺は友人キャラなのさ。モテるやつをやっかみ才能あるものに嫉妬し辛くなった時の吐口になってやる。たまに誰かの人生を軽く彩るぐらいの存在でちょうどいいんだよ」
手を後ろに組んでキッキッと笑う猿顔の友人に眞砂利もそれ以上何も言わなかった。
誰も彼もが生きていく上で信念がある。
心に作った自分の中の一本の大黒柱にケチをつけるような男ではない。
時計の指す針が気がつけば補修の時間を開始する時間になると同時に一人の女性教師が入ってきた。
スタイリッシュな眼鏡をかけており色素の薄い水色のような長すぎる長髪は地面に届くかどうかのギリギリのライン。
顔にはうっすらとほうれい線が刻まれており見た目30代半ばと思われる女性。
このクラスの担任である塩沢優里である。
「しっかり、ではないが集まってはいるようだな。それでは補修を始めよう。隠された生徒諸君」
この校舎に在籍する生徒は七人。
生徒は下は10歳から上は20歳の生徒がいる。
ここに集まる生徒は優秀な生徒でもなければ問題児な生徒でもない。
そのあまりに強大な力や人間としていってはならない進化、巨大な組織への影響力を個々で持っているため世間に公表することを国が隠蔽した子供たちが集まる校舎。
ゆえにここは『隠蔽校舎』と呼ばれているのである。
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