『アポロン』のヒーローインタビュー
数年ぶりにランク8の怪獣が出現した、島国日本。
過去最少記録の被害と最短記録の時間で討伐されたことは全世界へとニュースで報道された。
さらにここ最近、流星のように現れたイケメンのみで構成された小さな民間会社のチーム『アポロン』であることから、そのニュースの注目度はより大きなものとなった。
民間の怪獣討伐会社自体珍しいものであるのに、まだできて半年も経たないうちにランク8の怪獣、さらに最少被害に最短記録となる。
雑誌の記者やテレビのディレクターがこのビックニュースを報道しないわけもなく、今ほとんどのテレビのチャンネルで急遽開かれている、『アポロン』のヒーローインタビューで持ちきりである。
イケメンのさらには高身長に、女性ウケする肉体美にそれを強調させるタイツ型の戦闘スーツ。
花がある映像をどの角度から撮っても映る彼らは最高のモデルと言っても過言ではないだろう。
ヒーローインタビューも彼ららしい、眞砂利が用意するような茶番劇な台本ではなく、各々が本心のもと回答しているのでたまに危ない発言もしているがそこがまたいい。
やはり顔がいいやつは何言っても許されるようだ。
おおよそ2時間にもわたるヒーローインタビューの後に眞砂利や追跡型映像ドローンで撮影した『アポロン』の戦闘シーンが流れ出す。
もちろんテレビ会社には『偶像怪獣討伐会社』の宣伝として無料で改竄した映像を提供している。
『アポロン』の面々が怪獣に攻撃を入れたり、逆に怪獣の攻撃を受けたりとヒヤヒヤする映像が約20分ほど流れていた。
街中の巨大なスクリーンにて放映されているその3D映像は迫力満点であり、このクソ暑い中その映像を見ていた大勢の市民たちからの悲鳴や歓喜の声が鳴り響いていた。
最後の怪獣にとと目をさすシーンに少し映像がぶれるもその次の瞬間にティラノサウルス型の怪獣はその腹に巨大な穴をあけて、戦闘不能となった。
その場に居合わせたほとんどのものが心を一つにして巨大な声援となる。
喜び涙するものや、互いに抱きしめ合うもの、まだ正午になったばかりだと言うのにその場でキスをするカップル。
許すまじ。
夏のコンクリートから発せられる熱がより興奮度を増し熱狂にくるう、市民たち。
そんな市民たちを冷ややかな目で見ている二人の男女がいた。
「映像で結果も分かっているのにものすごい、喜びようなのです。あれがヤラセだと知ったら彼らはどんなふうに発狂するのか気になりますね?」
「ならないし、絶対やめてよ?ここ半年でようやく軌道に乗ってきたんだから我が会社は。今じゃあ人生変えるレベルの金額が俺の懐に入ってるんだからさ」
マスクのしているにも関わらず、いやらしい笑みを浮かべているのがわかるヒョウカに眞砂利はそう答える。
一度ガレージに戻ってスピリに頼まれたノコギリを撮りにいく予定の二人であったがちょうどガレージに向かう際にたまたま通りかかった大通りの巨大モニターで『アポロン』の記者会見がやっていたのでアイスを食べながらどこか不備はないかとのんびりと鑑賞していたのである。
「ネットニュースも『アポロン』のこと一色ですね。いま大物政治家の汚職事件のニュースが流れても誰も気にしないのでは?」
ヒョウカは四本目となるアイスキョンディーをマスクをつけたまま器用に食べながら携帯のネットニュースを見ていた。
つい数時間前まではランク8の怪獣の話題で持ちきりであったのにこんなすぐに更新してくるとはネットニュースの記者さんたちは一体どうやって記事の内容をこんな即座に作るのか。
やはりプロは凄いのである。
「じゃあ、特に不備がなかったみたいだしガレージにむかう?それとももう少しここで待って『アポロン』の新曲お披露目生放送見てから行く?」
今回のランク8の怪獣討伐によりより一層世間の注目度を集めると確信していた眞砂利はヒョウカにたのんであるテレビ局のプロデューサーに依頼してもらい今まで温めておいた『アポロン』の新曲を全国放送してもらえるようにステージを整えてもらっていた。
現にヒーローインタビュー終了時のテロップに流れた『新曲発表』の文字により、より多くの女性ファンがこの炎天下の中、ライブでも行くような格好で街中の巨大モニターの前に集まる。
ヒョウカは子供のように左右にフルフルと顔を振ると残っていたアイスキャンデーを丸齧りにした。
「あんまり興味ないから別にいいのです。それよりもさっさとスピくんにノコギリを持って行って作業を終わらしてもらって、みんなで飲みに行くのです!」
おーっと、右手を天に掲げて元気よく歩き出すヒョウカ。
飲みに行くって、まぁ精神年齢は8歳だが肉体年齢はもう立派な大人の女性だもんな。
と眞砂利は思いながら、スピリの好きなお酒が入った袋を片手にヒョウカの後について行った。
彼女の周りはこの炎天下の中でも涼しいので眞砂利は無意識的にヒョウカとの距離が近い。
ヒョウカも見た目は立派なレディーだが精神年齢はまだ思春期に入るかどうかなのであまり気にする様子はなかった。
「眞砂くん、こんなに『アポロン』が活躍するとなると業界シェアをほとんど牛耳るツートップ怪獣討伐組織に誰か引き抜かれたりするのですかね?よく『アポロン』のみんなにスカウトマンらしい人たちがお話しするのをみるです?それにデビューもまだで水面化の活動しかしてないですが『アフロディテ』の子たちもよく引き抜きの連絡をもらっているそうなのですよ」
ガレージに向かうために電車を使おうと駅に向かおうとする道中、ヒョウカがある話題を振ってきた。
怪獣討伐の業界シェアをほとんど占めるツートップとは、『新怪獣討伐連合会社』と国が独自に管理している『エージェントマスターズ』である。
特に『新怪獣討伐連合会社』、巨大でほとんどの怪獣討伐新人たちはこの会社が採用している。
昔はさまざまな民間の会社があったのだが国が管理する怪獣討伐エリート集団『エージェントマスターズ』に優秀な人材を育成しては多額の移動金で取られていた。
一時代は『エージェントマスターズ』によってのほぼ全てのが怪獣討伐記録が埋め尽くされていたほどである。
このことを重く見た当時国内トップクラスの怪獣討伐会社は結託し、ほぼ全ての会社を結合した。
各々が持てる技術力と経済力を駆使して、今では世界トップクラスの怪獣殲滅兵器の開発にまで成功している会社である。
今では民間の怪獣討伐会社となるとすぐに『新怪獣討伐連合会社』に吸収されるか、叩き潰されるかの二択なのである。
そのことはもはや世間の常識となっており、民間で1からやるより『新怪獣討伐連合会社』にさっさと入社する方が効率がいいのである。
もちろん、そのことは眞砂利も知っていたのだが彼が個人で『偶像怪物討伐会社』を立ち上げたのは話題性が欲しかったのと単に知り合いがその二つの会社に働いているからなんとなく嫌だからであるのだが、この理由を知っているものは彼の知人でもそうはいなかった。
「別に、引き抜かれたなら仕方ないでしょうに。うちの会社より引き抜かれた会社の方が魅力的だっただけのこと。
そしたらまた違う美男美女を新メンバーとして採用するだけだ。俺のこだわりは顔がいいことであってあいつらである必要性は全っくもってないんだし。まぁもし引き抜かれたのなら、彼ら彼女らの専用対怪物兵器は全て没収するけど。それがなくて今と同じ功績を叩き出せるとは俺は思わないけどな。俺の会社に本当に必要なのは偶像のあいつらじゃなくて裏方である君たちなんだから」
「私よりよっぽど冷血な考え方してますね。みんな、眞砂くんのために一生懸命働いているっていうのに。なら私がどこか別の会社に引き抜かれそうになってこの会社辞めてそっちの会社に就職したい!って言ったらとめてくれるです?」
「そりゃ、もう。命に変えても」
などとどこまでが本気なのかよくわからない、眞砂利の言葉にヒョウカは、やっぱりあなたは冷血じゃなく混血ですねと心の中で思うのであった。
相変わらず癖なのか話す時に嘘と真実を混ぜ込んで話してくる。
『アポロン』も『アフロディテ』も眞砂利が一人一人見た目を重視に厳選し口説き落とした重要な社員である。
実際に引き抜かれたりデモしたら、いったいどれほどの被害がこの国が受ける考えただけでもゾッとする。
それこそ前代未聞のランク10クラスの怪獣災害である。
眞砂利ほど個々個人に執着する人間をヒョウカは知らないのである。
そんな談笑をしているうちに気がつけば駅についており、電子マネーにて改札口をくぐり駅のホームにて電車を待った。
ちょうどいい時間に来たのか次の電車が数分後に駅のホームに到着するらしい。
この後の予定をなんとなく頭で組み立てている眞砂利の携帯電話の着信音が鳴った。
誰からだろうと着信先を見てみると見知った悪友の名前がそこに浮かび上がっていた。
「もしもし、名前負けしている苗字を持つ男、美杉ですけど」
『自分で言っていて、悲しくねぇのかよお前は』
「そ、その声は、風祭!風祭なのか!おい今までどこ行ってたんだよ。心配してたんだぞ!」
『なんだその急にいなくなった友人から掛けられたみたいな電話は。今日の朝、補修がなくなったって連絡したばかりだろうが。後、風祭ってだれだよ、俺の名前は相良ですけど。美杉」
あきれ半分の声で携帯電話から聞こえてくる声はクラスメイトであり中学の時からの悪友、相良 章介である。
「冗談、冗談、そうあきれんなって。俺の言葉は8割が適当で1割9部が出鱈目で残り1部が真実だから。ちなみに風祭ってのは、今絶賛人気急上昇中の『怪獣討伐部隊アポロン』の黄色のスーツを着ている『シャイン』の本名だよ」
『うそおつけ!なんでお前がそんな情報知ってんだよ」
携帯電話から聞こえてくる声に耳鳴りを覚えながら、まぁ社長ですしっと思う眞砂利である。
「どうしたよ、相良まさか今日補修無くなったから遊びに行こうってか?悪いけど俺は絶賛美女との火遊び(アバンチュール)を楽しんでいるところなのだよ。悪いね」
実際やったのは火遊びどころか、氷遊びなのだが。
眞砂利が言うと電話越しに待て適当なことをと相良が呆れた声で言い放つ。
「誰がお前なんか遊びに誘うか!いっつもいっつも仕事があるとか断りやがって。仕事よりももっと俺に構え!あそべ!青春の一ページを俺と刻みやがれ!」
「めんどくさ!うるさいなぁ、かまってちゃん。こちとらようやく仕事が軌道に乗ってありえないほどの利益叩き出してるところなんだから。自分でもまさかここまでうまく行くなんて思わなかったよ。まずいこのまま話すと俺が『偶像怪獣株式会社』の社長であることをポロッと口に出しそうだぜ」
『出てる出てる。お前の意味のわからん虚言癖が」
危ない危ないと眞砂利は額の汗をぬぐった。
するとちょうど待っていた電車が来る時間になり白線の内側までお下がりくださいと言うアナウンスが流れる。
『ん?お前もしかして学校向かってんのか?じゃあもうお前のところにも連絡行ったんだな。今日の補修午後からやっぱりするって。ランク8の怪獣がまさか30分足らずで倒されるなんて教師陣も思っても見なかったんだろうな。おかげで街の被害は少なかったにしろ、今日オフになって喜んでいたのに。13時からって言ってたな。じゃあ後で学校であおうぜ」
そう言うと相良からの連絡は途絶えた。
マジかよ、ちょうど電車が停車して先にヒョウカが乗り込む。
今はちょうど、12時半を過ぎたあたり、この電車に乗り込んでしまっては確実に補修には間に合わずサボることとなってしまう。
反対のホームの電車に乗ればそのまま学校へとたどり着くことが可能ではある。
が、一度くらいの補修すっぽかしても良いのではないだろうか?
元はと言えば怪獣災害のせいで今日はなしってことになったし知らぬ存ぜぬを突き通せばいい。
いやダメである。相良という有益な証人を作ってしまった。
これでは眞砂利が間に合うのに補修をサボったということがバレてしまう。
それが教師陣にバレたら説教を食らう羽目となる。
ただでさえ、会社の方に専念し過ぎて学校を休みがちなのである。
そのせいで補修を受けている節もある。
なら学校などやめてしまえばいいのでは?
それもダメだ、もしそうなったら母親が何をいうか。
頼むから高校は出てくれとの約束がある。
約束は守らなければならぬ。
しかしあの巨大鋸の運搬をこの怪しさ満点のマスクサングラスの少女に任せていいものか。
何かしらのことがあればあのヒョウカラブのじじぃに責められるのは眞砂利である。
前門と虎、後門の狼である。
などと長考していたら、なんの無慈悲もなく時間通り発射するのが電車である。
目の前で扉は閉まり、そのまま出発して行った。
眞砂利はチャットアプリでヒョウカに『学校の補修行ってきます』と送るとヒョウカから最近彼女がハマっている少女兵隊たちのアニメのスタンプで『了解』と送られてきた。
携帯電話をポケットにしまうと学校行きますかと呟き、反対側のホームへとむかって行った。
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