怪獣討伐をした後の処理
「さてとせっかくの高校生最初の夏休みの最初のイベントが怪獣退治なんて全くもって幸先悪いスタートだ」
全長数百メートルはあるであろう、ティラノサウルス型の怪獣。
土手っ腹に巨大な穴を開けられ、目の瞳孔は開き、正気を一切感じさせないものとなっている。
周りは先ほどまであった建物や移動期間の残骸が散らばっており、まさに怪獣の暴れた荒野と化している。
怪獣の死骸の背中から生えた剣山のてっぺんの上に器用に立つ、眞砂利。
他の隊員達は激闘の30分を終えて、今は眞砂利がよんでいた記者やテレビ関係者達に別の場所にてインタビューを受けている。
生暖かい風を感じながら一応怪獣の遺体が誰かに取られないためにこうして見張っている。
一体誰がこんな巨大なものを盗むと言うのだろうか。
もし盗んだとしてもこのクラスの怪獣となると倒した隊員や録画したビデオなどの証拠、何より買い取ってくれる機関が限られているためある程度のコネがないと無理。
裏社会ですら怪獣の遺体の取引は滅多に行われない。
それを加工する技術者も設備もないからである。
裏社会で人気なのは遺体よりもその遺体を使って作った防衛隊員のみが持つことを許される対怪獣要戦闘武器の方である。
ほとんどのものは使えきれずに自滅するパターンなのだが。
「おぉーい。マザー、回収にきてやったぜ?」
炎天下の中、眞砂利は待っていた人物が巨大なヘリコプターに乗ってやってくる。
ヘリコプターから直接響く巨大なアナウンスが眞砂利どころか何もない荒れ果てた瓦礫の荒野に響く。
途轍もない大きさで全長は大体位キロメートルにも及ぶとのこと。
巨大なヘリコプターを浮かすプロペラにも関わらず一切の音も立っておらず、周りに与える風はごく最小限の微風。
怪獣から取れるさまざまな資源があるからこそ実現した進化しすぎた科学の乗り物である。
一人の男が何もつけないでそのままヘリコプターから飛び降りる。
おおよそ300メートルはあるであろう高さから生きよいよく飛び降りたのだ。
知らぬ人が見ればただの自殺に見えるかもしれないが眞砂利はいつもの光景だとただ見ていた。
実際眞砂利も降りる時が面倒な時はするし、現に彼は傷一つ追わないのだから。
運び屋が地面に着陸すると軽い揺れと煙が舞ったがそれだけである。
運び屋は軽く自分についた砂埃を払いながら眞砂利に近づいていった。
少し茶色に焼けた肌に炎と見間違うほどに真っ赤な髪は両サイドは剃り込みをいれて、怒髪天でも貫いているのではないかと言うほどツンツンである。
少し切れ目な目に細い目の中は薄い水色のような瞳。
外見からして日本人ではないその男はむせかえるように暑い日にも関わらず上下、真っ赤な作業着を着ていた。
『偶像怪獣討伐会社』運び屋にして怪獣解体屋でもある。
「ヤッホー、スピリ。派手な登場の仕方だね。今度うちの子達が登場する時はそれで行こう。あれ?ヒョウカちゃんは?」
「んあぁ?あの女だったらもう落ちてくんじゃねーの?」
スピリと呼ばれた作業員が親指を後ろに向けると先ほどと同じような衝撃が地面に走る。
サングラスにマスクをつけた白い天使が罰を受けて天から追放されたのかと思うような登場の仕方である。
「おぉ!今回のはなかなか大物さんですね。ランク8ですもんね。とりあえず今回の討伐報酬は5億円だそうですよ。他にも是非とも怪獣の遺体を解体って研究やら技術職さんやらの問い合わせがわんさか殺到してますけど、どうするです」
あざとい子供っぽい仕草で、こてんと首を傾げながら眞砂利に問う。
研究者や武器や防具を作る技術職を生業としている人間たちからしたら怪獣の遺体はまさに宝の山である。
まだ解明されていないが怪獣はランクの高い『アンノウン』が大きいほどより未知で人類発展の鍵を握るさまざまな物質が含まれていることが多い。
それを欲するものは多くこうして高ランクの怪獣が討伐されるたびに問い合わせが殺到する。
特に今回は数年ぶりに出たランク8である。
問い合わせの電話が鳴らない方が不自然である。
わざとい子供っぽい仕草で、こてんと首を傾げながら眞砂利に問う。
返答はわかっているのだがこの小さな民間会社の決まり事で最終決定は社長である眞砂利にあるのだ。
報告、連絡、相談、会社がうまく回るための重要ワード参戦である。
「全部断っといて。ほんと彼らも諦めないよね。俺が今までで一度でもあのジジィ以外の期間に怪獣の遺体を売りに出したことなんてないのにさ」
「今回は初めてもらえる1回目かもしれない、にかけたんじゃないの?毎度毎度いろんなとこからすごいクレームが来るんだよね。もっと平等に売れ!とか不公平にも程がある!とか。意味わかんないよね?今まで私たちのこと無視してきてたのにいざ自分達の利益になるってわかった途端の手のひら返し。その恩恵が自分たちがもらえないからって口ばっかりは達者なんだもん。自業自得ってやつですよね」
「人間らしくていいじゃねーの?嫉妬も怒りも生きていくにはなくてはならねぇ感情だ。何でもかんでも受け入れちまってはいはいって言っている善人の方がおれぁきもちわりーけどな。でえ?マザー。こいつはどうすんだい?このまま肉や臓物は焼却処分か?それとも冷凍して博士のところにもっていくのか?」
プンプンと怒るヒョウカを宥めながらスピリが訪ねる。
「今回は肉体も欲しいとのことなので、ヒョウカチャン冷凍よろしく。解体はしないでくれとの頼みだからこのまま核ごとやちゃって」
「アイアイサー、じゃあ眞砂くんそこどいてもらっていいでありますか?」
ビシッと敬礼をするヒョウカに敬礼で返す。
最近一緒に見ている軍隊少女のアニメの影響だろうか?
眞砂利は立っていた剣山のてっぺんから飛び降りる。
そしてスピリの隣に立つ。
「あんまり周りは凍らせないでね。どうせ口から吐き出すんだろうけど後のことも考えてやってね」
「言っても無駄だろ?この前も怪獣災害よりもあいつが凍らした地形への被害の方がデカかったじゃねぇか」
「むぅ、二人とも失礼なのです!後こっち見ないでくださいよ。レディの顔を凝視するのはマナー違反なのです!」
眞砂利とスピリははいはいと言いながら後ろを向く。
後ろではヒョウカがマスクを外して大きくそれは大きく空気を吸う。
必要な空気が溜まったのか頬袋いっぱいに空気を含み、その冷気を噴き出した。
「アイ、スクリーム!」
背中に感じる冷気に眞砂利は笑い、スピリは肩をとした。
ヒョウカは満足そうな顔を浮かべてマスクを付け直す。
二人が後ろを振り返るとそこは白銀のせかい。
今が夏だと言うことを忘れてしまいそうになるほどの凍った世界へと変貌した。
荒れ果てた真っ白の荒野はもはやジオラマのような作り物めいた雰囲気を醸し出しており、凍った大地からは白い湯気が漂っていた。
この氷は今見えている場所だけでなく地中深くまで凍っている。
地中に埋まっている水道管やらは中の水が氷となりここら一体は当分水道から水が出ないかもしれない。
最近の科学力で最近の水道管は破裂することも寒さにより凍ることも無くなったのだがヒョウカの放つ冷気はそんなもの関係なく全てを凍らす。
唯一の救いはまだ怪獣が被害を与えていない場所に冷気が届かなかったことである。
ヒョウカの吐く冷気はその性質上、この炎天下の夏でさえなかなか溶けないのである。
復興作業もあると言うのに飛んだ傍迷惑なことである。
氷が完全に溶け切るのはおそらく、数年後の夏になるだろう。
現に前回評価が凍らせた地域はいまだに夏でも涼しめる銀世界としてちょっとした観光地となっている。
「はぁースッキリしました。さまざまな苦情によるイライラと新鮮な空気を吸ういう行為が合わさりついつい加減ができなくなってしまいます。じゃあスピリ君あとはよろしくなのです」
ぽんとスピリの肩を叩く。
全く簡単に言ってくれると思いながらスピリは自分の作業着から取り出した小さなナイフ。
鞘の部分から刃を取り出した。
それを大地と一緒に見事に凍っているランク8の怪獣と地面の境目に突き刺す。
凍った箇所は紙切れのようにさくさくときれていく。
ある怪獣からほんの少しだけ取れた特殊な金属にまた別のある怪獣の核を合わせることにより完成した「バイブレーションナイフ」常に振動しその切れ味はダイヤモンドも真っ二つにできるほどである。
欠点はオンオフができないため常に振動しているためこの特殊な鞘をなくした場合ものすごく困る。
実際にスピリは合コンに行った際にこのナイフの切れ味を余興として使い、酔ってしまい鞘を居酒屋に置き忘れると言う事件発生。
その間、スピリは刃がむき出しのダイヤモンドをも切れるナイフをもったまま帰宅。
よく通報されなかったし怪我人もゼロであったものである。
もう一つは切れ味が良すぎること。
このナイフ、本当は眞砂利が料理する際に博士に頼んで作ってもらったものなのだが、まぁなんでも切れる。
魚を捌こうとするとまな板も台所も捌いてしまうと言うことでスピリの解体作業用になったのだ。
最後は単純にリーチが短い。
金属がごく少量しかなかったのと素は料理に使用するためのものなので別にいいだろうと結論づけたのだがあの巨大怪獣を凍った大地から引き剥がすとなると相当時間がかかる。
スピリの持つ力を使えば、簡単にこの氷を溶かすこともできるだろうが如何せん別の問題が発生するだろう。
スピリも、ヒョウカも能力を加減するのが苦手なのである。
この炎天下の中、黙々と作業をするしかないのだが手伝おうにも道具がないしただひたすら、頑張っているスピリを後ろから応援することしかできないのであった。
「がんばれがんばれ、スピリ。負けんな負けんなスピリ」
「イチ、ニ、イチニ、ファイオー」
「うるさい、逆に気が散る!全く俺が呼ばれるもんだからてっきり骨とこの背中に刺さった剣山だけ持ち帰るのかと思ってたのによ。『サモセク』じゃだめだこれ終わるのに何時間かかるんだよ。お前らひまだろ?ちょっと戻って俺の『クォデネンツ』取ってきてくんない?」
眞砂利とヒョウカの応援がうるさかったのかスピリは少し不機嫌そうにいってきた。
『クォデネンツ』とは、対怪獣解体用にスピリがもっている巨大なノコギリである。
巨大な氷から引き剥がすとなるとそちらの方が断然早い。
このままでは日が暮れてしまうどころか明日になってしまう勢いの作業ペースである。
眞砂利はできるだけホワイトな会社を目指していきたいと思っているのですぐに取りにいくことを了承した。
「わかったよ、スピリ。じゃあ俺はガレージにあのノコギリ取りに行ってくるからヒョウカちゃんは引き続き、スピリの応援をよろしく!」
「了解しました!イチ、ニ、イチニ、ファイ〜トー」
「わかってるだろうが、ヒョウカも連れて行って来んない?」
スピりの引き攣った笑顔に眞砂利は心の中でなぜだ?と思った。
誰かに応援してもらえるなんてそんなのやる気アップ以外の何者でもないのでは!と。
「ななぁー。私の応援がいらないと言うのですか!ヒョウカちゃんからの応援なんてママだったら8徹は確実にできるほどのエネルギー底上げパッシブスキルなのですよ!」
不服そうに抗議を唱えるヒョウカ。
確かにあの女なら愛しすぎる愛娘の応援ならばそれくらいの力を発揮しそうである。
「いこっかヒョウカちゃん。俺たちの応援がいらない白状なスピリは放っておいてのんびりアイスでも食べながらガレージに向かおう。スピリもなんかかってくる?」
眞砂利がそう尋ねるとスピリ作業を再会しながら自分の求めてるものを注文した。
「こんな、炎天下の中で作業するんだ。やっぱり酒だろ。少なくともアルコール度数は90%以上のやつを」
「了解。未成年に酒買ってこいなんて悪い大人だよねスピリは」
ヒラヒラと手を振る眞砂利とその後を追うようにヒョウカが後をついて行った。
「悪い大人ねぇ。金儲けのために世間を欺いている奴に言われたくねぇよ、悪ガキが!」
二人には聞こえないほどのボリュームの声でスピリは呟くのだった。
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