崇め奉られる準備はできてるか?
配膳してもらったサンドイッチを平らげた眞砂利達はこれから何をするかの話し合いをする。
『アフロディテ』の美少女3人も今日のダンスレッスンは終わりこれからはオフだということ。
せっかくなのでこのままどこか遊びにでも行こうかと言う話に差し掛かった時に眞砂利の携帯電話の着信音が鳴った。
その着信音に設定してある人物に眞砂利は顔を顰める。
いつもいつも、タイミングの悪い時に連絡を入れてくる。
美少女達との素晴らしいハーレムのような時間を過ごしていた眞砂利は『アフロディテ』の3人に少し断りを入れてその場で電話に出た。
「よぉ、じじぃ。こっちは今日は完全なオフだから仕事以外の話でよろしく」
『定期検診にも来ないで、偉そうじゃねーのかい?眞砂利の小僧』
明らかに人の声ではない機械音。
ボーカロイドのような人の声に似せた気味の悪い音声が携帯電話から流れてくる。
眞砂利がこの声がとても苦手で電話の主であるジジィと呼ばれる人物ももちろんそのことは知っている。
「俺は別にいまさら受けなくてもだいじょうび。これ以上もこれ以下でもないくらい健康体に今なったところだから。美少女とのふれあいって素晴らしいもんだな、どんな病気も吹っ飛ばすとんでもない万能薬だよ」
『お前さんの体は健康体であるほうがおかしいのだがねぇ。どんな美少女と触れ合ったとしても常人ならとうの昔に死んでいるのが普通なんだがね。定期検診はまたの機会でいいさね、今回は他の3人を重点的に見れたからよしとするさ』
「あぁ、もうヒョウカちゃん達の検査終わったんだ。その連絡を入れてくれたってこと?ありがと、でももういいよわかったから、バイバーイ」
『なわけなかろうて、ちょうどそこに『アフロディテ』のお三方もいるんだろ?希望の小娘にもきちんと定期検診に来いと言っといてくれ、あとは聖魔の坊やにも。それにしても昼間っから美少女達と4P だなんて贅沢なやつだねぇ。子供が出来たら儂が助産師として出産の場に立ち会ってやっても良いぞ?』
「そんな爛れた関係になれるもんならなりたいよ、俺だって健全な男子高校生なんだから。デモ残念、そんなハーレム系エロアニメが許されているのは太古の昔からイケメンだけだと相場が決まっている」
『それもそうか、では他のお三方とも喋りたいからホログラムの設定にしてもらってもよいか?』
眞砂利はその言葉をきいて、携帯電話を机の上に置く。
話し声が聞こえていたのか、希望だけ少し顔を赤くしてもじもじと手を合わせて、子、子供などと呟いていたがそんな純情な彼女の心根など眞砂利が知るはずもない。
他の二人はなんとも無しに携帯に浮かび上がるホログラムを見る。
そこから浮かび上がる、黒髪ポニーテイルの美少女アバター。
おそらくジジィが自分をイメージして作ったものと思われる。
最近流行りのアプリで作れるて、若者の間で大人気を誇っている。
自由自在に自分の好きなキャラを作ることができそれをつかってSNSなどのやり取りもできると言う。
できるだけ、自分の存在を隠したいくせに自分のやったことはアピールしたいあのジジィにはピッタリのアイテムだと思う。
現にいま眞砂利と会話しているこの電波もジャックして記録に残らないようになっている。
眞砂利はジジィが流行に敏感になってんじゃねーよ!とも思ったが。
『ほっほー、ひさりぶりだねぇ。美少女二人。希望は数日ぶり。で、今回の電話の本題に入ろうかね。先に残念なお知らせさ、これは仕事の話だよ。これを見てくれや』
ホログラムのアバターから聞こえる歪な人の声。
するとそこからさらに追加で別の映像が立体的に浮かび上がる。
どうやらニュースの中継らしく、テロップには『ランク8再び、「エージェントマスターズ」による討伐は如何なるものか!』なだと浮かび上がっていた。
そこには約400人にもなる『エージェントマスターズ』の大隊の連合が集まっている映像である。
「ランク8!これは自分達『アフロディテ』のデビュー戦ってことね!こうしちゃいられない!はやく準備していかなきゃ!」
そう言って立ち上がった灯の腕を凛花が素早くつかむ。
「落ち着いてください、まだ話は終わっていませんよ」
灯は納得のいかないと言った表情でその場に座る。
気がつけば先ほどまで四人を見ていた周りの客達も自分達の持っている携帯電話に流れてくるネットニュースや動画の方をみていた。
「別にランク8だったら『エージェントマスターズ』の精鋭がこれだけ集まれば討伐できるでしょう。ですが、あなたが連絡を入れてきたってことは何かしらのイレギュラーがあると言うことですか?ジジィさん」
『御明察。さすがは黛の神童さね。『エージェントマスターズ』がなぜここに異次元の穴が開くことを事前に察知できたのかはわからないが、観測できる『アンノウン』値は確かにランク8だったがたった今それが変わったところでな、ほら絶望の扉が今開くよ』
じじぃがそう言うとその映像から現れたドラゴン型の怪獣。
一つ目、一本牙に一本のツノと一本の足。一枚の羽と腕が二本。
あまりにも歪で巨大すぎるその怪獣。
おそらく本来呼び出されていたであろうランク8の怪獣を羽虫の如くその巨大な一本の牙で串刺しにして異次元の穴から出てきたのであった。
ちょうど店内にあったアンティークの古時計が正午の鐘の音をポーン、ポーンと告げていた。
それとほぼ同時に町中に備え付けられているスピーカーや携帯電話から巨大なアラーム音が鳴り響く。
『儂がこれを認識したのはつい先ほどさね。歴史上数も少なく、このランクの怪獣によって滅ぼされた国々は数知れない。正真正銘ランク9の『アンノウン』値を誇る大怪獣』
店内が阿鼻叫喚に包まれて誰も彼もその場から立ち去った。
一体どこに安全な場所があると言うのか、国を簡単に滅ぼし世界を滅亡させるほどの力を持った怪獣相手に逃げ場所などないと言うのに。
気がつけば店内はがらんと誰もいない状況になる。
アバターは意志を持つかの如く楽しそうにニタニタと笑っている。
眞砂利は憂鬱そうに深くため息を吐く。
せっかくの休日だと言うのに急なお仕事が舞い込んでしまったようだ。
『なに、そう深くため息をつくもんじゃないさね。別におまえさんらはこの場所に赴く必要などこれっぽっちもないのだから。一般人と共にシェルターにでも逃げ込んでおけばいいとおもうぞ?』
「逃げ込めるわけねぇだろうが。ジジィ、あんたわかってたな」
眞砂利がジジィのホログラムのアバターに問いかける。
返事はなかったがアバターにて作られたいやらしい笑みがジジィ本人の己に理がある時の顔と全くもって一緒である。
数年前、眞砂利が己が無力さを嘆き、考えが普通のマッドサイエンティストに己の体を差し出した時と同じ少し儚げないやらしい笑みである。
今あの場にいる『エージェントマスターズ』の隊員に眞砂利が人間をやめてまで守りたいと思っていた人たちがいるのだ。
これでいかなければ眞砂利はなんのためにあの辛い実験に耐えたと言うのか。
アバターのホログラムはメールらしき文章を表示する。
『ほれ、『エージェントマスターズ』から『偶像怪物討伐会社』への応援要請じゃ。あの場所までじゃとはやくせんと眞砂利の小僧。大事な二人があっけなく死んでしまうかも知れんな』
「死なねぇよ、テメェがくたばれ、えろジジィ」
眞砂利はそう言って徐に携帯電話の通話を切る。
深く深く息を吸い込み天井を見上げる。
流石に今回は眞砂利の圧倒的な能力を隠しきれはしないだろう。
前回のランク9を討伐した時とは違い、多くの部外者達がいるのだから。
下手をすればそのまま眞砂利が討伐対象になることだってあり得る。
が、いかないという選択肢もない。
世界中の人類を敵に回しても眞砂利は彼らを守りたいのである。
「なんか、長考してるとこ悪いんだけど答えは決まってるんでしょ?くよくよ悩んでないでいくわよ!ようやく『アフロディテ』デビュー戦なんだから派手にいくわよ、社長!」
どこまでも我が道を通す傲慢我儘お嬢様はそういって立ち上がる。
隣の凛花もメロンソーダフロートを持つ手がありえないほど震えているがそれに同意するように何度も頷く。
クールビューティーのかけらもなく、携帯のバイブ機能のようである。
震えすぎてメロンソーダフロートの溶け切ったアイスはほとんどテーブルに溢れている。
一人、希望だけは眞砂利の方を見てこう言う。
「行きたくなければ行かなくてもいいんだよ眞砂利くん。大丈夫だよ『エージェントマスターズ』って言う国家保有の機関の約半数が今あの場にいるし他の怪獣討伐部隊の応援も向かってるはずだよ。これからの眞砂利君の人生を天秤にかけるようなことじゃないんじゃないのかな?」
ゆっくりと微笑む。
優しく丁寧に眞砂利に逃げ道を作る。
絶対に眞砂利がその道を選ばないと知っていても一縷の望みに欠けて希望はその道に眞砂利を誘おうとする。
深く息を吸ったあと、眞砂利はゆっくりと息をはく。
そして独り言のようにぶつぶつと呟く。
「確かに俺じゃなくてもいいんだよな。誰か他の誰かが助けてくれるかもだし俺の正体がバレてより混乱するだけかも知れないし、でもさ怒ってくれたんだよ。季節先輩もオレンジ君も。俺のために俺が間違ったって思ったから二人とも俺を怒って違うな叱ってくれたんだ。思いの丈をぶつけて俺が勝手にやったことなのに自分のことのように悲しんでくれて、今日だって季節先輩に怒られた理由少しはわかるようになったんだぜ?俺のことを愛してくれているから俺に嫌われてもいいから俺に疎ましく思ってもらってもいいから、俺のために言ってくれたんだ。言いたくもないことを心の底から感じた不快感を。言葉にしてぶつけてくれるそんな素晴らしい二人が今あの場所で命の危機に瀕してる。確かに俺じゃなくたっていいんだ助けるのは他の誰かが助けてくれるかも知れない、だけどそれは嫌だ!俺が助けたいんだ。他の誰でもなく俺があいつらを助けたいと思っているんだ!じゃなきゃ、なんで俺がこんなに強くなったいみがねぇよ!」
そ言うと立ち上がり強く拳を握る。
希望はやっぱりダメだったかと思い眞砂利に問いかける。
「それはどうして?」
希望の問いに眞砂利はなんの恥ずかしげもなくこう答えた。
「そんなもん決まってんだろ?愛ゆえにだよ!」
色々と吹っ切れた眞砂利無敵モード突入である。
「ま、周りのギャラリーは、どうします?黙ってほしいなんて可愛くお願いしても人の口に戸はたてられないで、ですよ?」
「後のことは後の俺たちに任せよう行き当たりばったり、いかにもこの会社のほうしんらしいだろ?」
「いいわね!笑えてくるわ、社長!でも一番目立つのは私よ!有象無象の人たちにチヤホヤされたいから私は社長の話に載ったんだから」
「当然だ!さぁ麗しき美少女諸君!偶像となり崇め奉られる準備はできているか?」
眞砂利の問いかけに3人は頷いて喫茶店を後にする。
さぁ、偶像達を光り輝かせるとしますか!
読んでいただきありがとうございます!
面白い!続きが読みたい!と思った方は評価の方とブックマークの方よろしくお願いします!
励みになりますし、やる気もみなぎってきます!
誤字脱字、あれ?なんか設定おかしくない?などの違和感があればどしどし感想欄にコメントお願いします
まってまーす!