絶世の美女3人
時は少し遡り、季節に怒鳴られて再びボッチとなった眞砂利はこの炎天下の中これといった目的もなく街中をただぶらついていた。
持ち物は携帯とさっき飲み干した殻のペットボトル。
夏休みであることから、若者達が楽しそうに集団で会話をしたり、集合写真を撮ったりと青春を楽しんでいる。
せっかくの休日ただ意味もなくこの炎天下の中ただ歩くのも馬鹿らしくなってきたので眞砂利は近くにあったアンティークカフェに入った。
カフェの中はレトロな雰囲気のレンガの壁に数世代前の置物がところどころに並んでいた。
エアコンが効いて涼しく、外の世界とは別世界の温度である。
もうすぐお昼時なので、食事をしているカップルや、サンドイッチを食べるサラリーマン、井戸端会議をしている奥様方が子供をそっちのけでおしゃべりをしている。
共通していることは全員がおしゃれなまたはピシッとしたスーツを着ており少なくとも眞砂利のような半袖短パンの近所のコンビニでも行くような格好のものは誰一人としていない。
眞砂利と同い年ぐらいの、そばかすがチャーミングな女性店員に案内されて四人がけのテーブル席に座る。
歴史を感じる少し色褪せたソファーにゆっくりと腰を落ち着けると眞砂利は今では珍しくなった紙のメニュー表を吟味する。
喫茶店ということもあり軽食が中心のようだが眞砂利は特に空腹というわけでもなかったのでブレンドのアイスコーヒーを店員さんに注文した。
水出しのアイスコーヒーは常に常備されているのか店員さんはすぐに持ってきてくれた。
ストローがささり、氷が惜しみなく入った黒い液体。
眞砂利はこの炎天下の中で乾いた喉をそれでうるおす。
にがく、ほんの少しの酸味。
何がうまくてみんなこんなものを飲んでいるのか?
黒くて苦けりゃコーヒーなんて全て一緒だろうと思いながら眞砂利はアイスコーヒーを啜る。
そして先ほど季節との会話を思い出す。
どうやら自分はまた、気に触るようなことを言ってしまったらしい。
まぁ、眞砂利も、もし季節や自分の大事な人が自分の納得のいかない方法を使って強くなったらそいつに対して怒るだろう。
そんなやつに笑ってくれなんて言われて笑うようなやつじゃないのも分かっていたはずなのについついいつもの癖でいってしまった、反省反省と眞砂利は心の表面で反省する。
かと言ってもう後戻りはできないしあとはなるようにしかならない、次みんなに会ったときは素直に謝ろう、結論にいたった。
アイスコーヒーを半分ほど飲み干して、せっかく入った喫茶店なにか早めのランチに食べようかともう一度メニュー表をとる。
周りのお客さんの注文を盗み見る限りこの店はサンドイッチを注文する人が多いらしい。
メニュー表にも一番人気と書かれていた。
こういうときは、変に冒険せずに王道で行くのが相場と決まっている。
注文も決まったことで眞砂利が定員さんを呼ぼうとすると見知った三人の女性が店内へと入ってきた。
一人はつい、一週間前に眞砂利に自分達のデビューはいつかと急かした、十文字 灯。
髪を染め直したのかこの前までのプリンだった髪色は綺麗な金髪へと染め上げられていた。
夏らしいラフな格好だがその肌部分が多く露出しているその服は彼女の溢れんばかりの魅力を最大限に引き出している。
いや、彼女が着ればどんな服だって彼女の魅力をひき指すのだが。
一人はサラサラのロングストレートの長い髪を腰あたりまで伸ばしている。
これまた整った顔立ちでキリッとしたその顔つきは3人の中でもより目立って美しい。
クールな雰囲気を漂わせており、体の肉付きは少しスレンダー寄りですらっとした長い足にスキニーパンツがぴっしりと張り付いており妙な色気を醸し出している。
最後の一人はなんというか少し地味な印象がある。
顔の造形はもちろんいいのだが、二人の見た目の印象が強すぎるため少し霞んでしまう。
ショートボブの髪型に3人の中では少し低めの身長。
水色のワンピースで凹凸が全くないその体を覆っている。
黒髪ストレートは黛凛花、ショートボブは夢野希望である。
3人が来店するや否や周囲の雰囲気が急激に変わる。
そりゃそうだ、あそこまでの美人揃いが急に入ってきたら否が応でも目が奪われる。
夢野以外は眞砂利が厳選に重ねたトップ美少女達なのだから。
周りの客は老若男女関係なく食事をやめ、話をやめ、いちゃつくのをやめて、彼女達に釘付けである。
まさに絶世の美女。
神々しいという言葉すら霞んで見えるほどである。
眞砂利の時はなんの問題もなく対応したそばかすがチャーミングな店員さんも手が震えながら席に案内しようとするが、灯がそれを断る。
3人は目的の人物、眞砂利が座っている席の前にまできた。
店内がざわつく。
なんの特徴もない地味な見た目の少年の前に絶世の美女3人が立っているのだ一体どのような関係か誰も彼もが興味を惹かれた。
「おしゃれなカフェに似合わないボッチがいると思ったらやっぱり社長だったわね。どう?美少女達が相席を希望しているんだけど」
灯が眞砂利に腕を組みながら偉そうにいう。
眞砂利はまんざらでもなさそうな顔で持っていたメニューブックをテーブルに置く。
「おやおや、こんな美少女達に逆ナンされる日が来るとは、日頃の行いの良さも馬鹿にはできないね」
その返事を了承と受け取り3人は眞砂利が座っていたテーブル席に腰をかける。
まず当たり前のように、希望が眞砂利の隣の席を確保する。
他の二人に絶対に取られてたまるかという強い意志を感じながら。
いつも通りの行動に灯と凛花は何も言わず眞砂利の正面に座る。
周りの好奇に満ちた目を不快に思うこともなくいつも通りに彼らは接していた。
席に着くと同時に眞砂利はそばかすの店員さんを呼んで注文する。
軽い軽食のランチセットを4人前。
ドリンクは眞砂利はメロンソーダフロート、灯はアイスティーのミルク砂糖多め、凛花はブラックコーヒー、希望はオレンジジュースをそれぞれ頼んだ。
少しの沈黙の後、最初に口を開いたのは凛花であった。
「ひさしぶりですね、相良さん。ようやく私たち『アフロディテ』のデビューの目安が決まったと聞きましたが性格的にはいつにするのですか?」
凛とした花の如き雰囲気を醸し出しながら凛花は眞砂利に聞く。
灯もそのことを気にしていたのか体を机の上にのせ前のめりに眞砂利に迫る。
「そうよ、社長!もう準備万端なんだから今すぐにでもデビューさせてよ!思い切ってまだ未討伐のランク9の怪獣相手でも私たちはぜんぜんへっちゃらなんだから!」
「それは流石にマジィよ。一応高ランク怪獣はその国が応援要請出さない限りはその国で対処することとなってるんだから、そのくらい灯ちゃんもわかってるでしょ?」
残っていたアイスコーヒーを飲み干して、これは名案なのでは!と言った灯にいう。
怪獣は言うなれば未知の資源の宝庫である。
人類に対する悪影響もでかいが討伐に成功した時の好影響もまたでかいのも事実。
それが、国一つを簡単に滅ぼしいまだその資源の加工技術が表立っては未明のランク9の怪獣であってもである。
ランク9の怪獣が出た際は倒しきれなかったとしてもその国内にまだ生存しているならば討伐権はその国が保有し他の国は応援要請があるまで決して手を出してはいけない。
まぁ、その昔高ランク怪獣を倒しきれずそのままに放置したせいで生態系はめちゃくちゃとなり滅んだ国家も多いのだが。
「分かってはいるけど、別にいいじゃん!ばれなきゃ。それにもしバレたとしても自分のパパや凛花のパパがなんとかしてくれるでしょ?だってパパ私のこと大好きなんだから!」
「うちのお父様は私がどうなろうと構わないと思いますよ。あの人は私よりどちらかというと相良さんの方を大事に思っていますから」
灯と凛花の父親は二人ともこの国を代表するほどの巨大企業の取締役会長である。
眞砂利が『偶像怪物討伐会社』を立てるときも少なくない金額を出してもらった。
「二人の偉大なパパ達でもそれはできないよ。なんともできないから誰も手を出さないんじゃないか」
眞砂利は少しため息を吐くとずっと黙っていた希望が心配そうにそっと眞砂利の手を握る。
その行動はテイブルの下で行われており周りからは見えなかったが眞砂利は手に確かに感じる体温に心地よさを感じる。
「どうしたの、眞砂利くん?元気がない?ちがうな、落ち込んでる?なにかあったの?」
全てを見透かすような美しい瞳に地味な地味な美少女は心配そうに眞砂利を覗き込む。
困った眞砂利はごまかすように握られていない手で頬をポリポリとかく。
「いわなきゃだめ?」
「うん、言わなきゃダメ。じゃないと眞砂利くん、また変な方向に突っ走っていきそうだから」
いむを言わさないその瞳に眞砂利は折れた。
「さっきさ、季節先輩にあったんだよ、半年前のことを話題に出したら怒られました」
そういうと深く深くため息を吐く。
ため息を吐くとき眞砂利は目を瞑っていたから気づかなかったがそのとき希望の瞳から光が一瞬消えた。
灯と凛花はその表情にゾッとしながらも何も言わず二人をみていた。
「なるほど、それは嫌な気分になるね。眞砂利君はなにも間違ってないのに、四季絵さんは自分の正しいから外れた眞砂利君をせめて優越感に浸りたいだけなんだよ。あのとき、眞砂利君を非難した、赤城さんも竜宮さんも。ひどいよね、眞砂利くんは確かに変ではあるけど間違ってないのにそれを頭ごなしに否定するなんて、大丈夫、私だけは眞砂利君の味方だから」
甘ったるい蜜のようにねっとりと絡みつく言葉。
他の人間を貶しつつ自分はあなたの味方だと強く印象付けるような話し方。
希望はいつも眞砂利を肯定し剥げますが真意を眞砂利は知らない。
いつも自分を励ましてくれているぐらいの感覚にしかとらえていないのだから。
ちょうどその時にワゴンに乗せたランチセットのサンドイッチをそばかすの店員さんが緊張気味に持ってきた。
それぞれが頼んだドリンクとサンドイッチを各々に配る。
眞砂利話したことと励まされたことにより少しスッキリした心持ちで苦手なメロンソーダフロートをストローから啜った。
そして次第にむせる。
口から噴きだしたメロンソーダをコップに入らないように口元を押さえ何度も咳をした。
全員がそうなることを予測していたのか希望以外の二人は受け取ったサンドイッチをテーブルから持ち上げて避難させていた。
希望が背中をさすってあげて、数秒後に眞砂利のせきは収まりベタベタになった手を洗ってくるといい、席を立った。
「あの人は全くなぜ飲めもしないものを毎度頼むのですかね?」
希望がお絞りでテーブルの上を拭く中さも当たり前のように自分のホットコーヒーと眞砂利のメロンソーダフロートを入れ替える。
そしてストローを付け替えないまま無意識にそのまま口につける。
その瞬間、灯は顔を手で覆い隠し、凛花もそのことにすぐ気がつきぱっとストローから口を外す。
だが、時すでに遅し。
目の光を失った希望が不気味な笑みを浮かべていた。
「ん?あぁこれは違うよ?凛花ちゃんが眞砂利君と間接キスしたとかじゃなくて別のこと。その程度では何も思わないよ。ただ邪魔だなぁって思ってね?ほんとにいつもいつも私を不快な気持ちにさせる。不快でしかないほんと昔から今でもずっと、四季絵さん特にね?今度ヒョウカちゃんも呼んで四人で女子会しよ?その時にゆっくり話してあげるから」
すぐに元の目に戻った希望にホッとしながらも念の為に凛花はストローを別の新しいものへと付け替える。
楽しさもかけらもなさそうな絶望的な女子会は心の底からごめんだと思いいつつも。
トイレから戻ってきた眞砂利は何か異様な空気を感じながらも何事もないかの如く自分の席に座り直した。
「なになになに?俺がむせたせいでこんな空気になっちゃた?食前に汚いもん見してごめんねって俺が炭酸飲料のんでむせるなんていつものことでしょうが」
「いや、また別の理由なのですがいいません。私も自分の命は惜しいので」
「自分も、それより社長なんでいっつもむせるくせに炭酸系ジュースたのむのよ?」
「今日こそはいける気がしたんだよ!愛情持って接すれば嫌われている相手にもいつか俺のこと好きになってくれるって哀情さんが言ってたから」
ケタケタ笑いながら冗談混じりに言うと置かれていたサンドイッチにかぶりついた。
読んでいただきありがとうございます!
面白い!続きが読みたい!と思った方は評価の方とブックマークの方よろしくお願いします!
誤字脱字、あれ?なんか設定おかしくない?などの違和感があればどしどし感想欄にコメントお願いします
まってまーす!