1章 ボーイ・ミーツ・ウルフガール(8)
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先程のことで、すっかり怒ってしまった榎戀は、狼女を連れて先に行ってしまった。そして、三日月と明治は半ば取り残され気味だったが、彼女達の後ろに連れて帰ってゆく。そんな時、明治が三日月に小声で話しかけた。
「そういえば、お前が追いかけていた狼男はどうした? さっきから妙にすっきりとした顔をしているが」
「え、えっと……その狼男ともさっき会ったんだ。そ、そして、えっと、話をして、もう二度と僕達の街に出没しないって、約束した。」
戸惑い、しどろもどろながらも、納得できるような理由を即興で述べた。明治は怪しみながらも、三日月に言った。
「お礼はちゃんと言えたのか?」
「い、言えた。だから、もう安心して欲しい」
「ふぅん」
三日月はこれで隠し通せたと思っているが、明治は彼が何か嘘をついているということは確信していた。伊達にかなりの時間、一緒に遊んだ友達であるということもあるが、それを抜きにしても、三日月の返答はしどろもどろで、初対面の人でも「何かあるのではないか?」と疑ってもおかしくなかった。
(こいつは嘘が下手過ぎる。いつも、何を隠してるんだ)
それからも大きい妖に出くわすことなく、彼ら達は歩き続けた。そして、森を抜け出した所で、榎戀が明治に言った。
「じゃあ、リンちゃんのことは私に任せといて」
「おい、リンちゃんって誰なんだ?」
明治の脳内に「リンちゃん」というあだ名のひとは知らなかった。そしたら、榎戀は驚いたような表情で
「え? この子の名前なんだけど、もしかして……おい、そこのドスケベチビ野郎」
「ん?」と三日月は声を上げた。これで反応してしまうのは自らが「ドスケベチビ野郎」と呼ばれる自覚があるということなのだが。
「この子の名前、聞いてなかったの?」
榎戀は三日月に近づきながら、そう疑問を投げた。本来ならここは「忘れてたごめん」の方が丸く収まるのだが、またその子のことで、謂れもないことで怒られるのは三日月の安いプライドが許されなかったため、反論する。
「いや、聞いたんですけど、どうやら名前をわs……」
その時、いつの間にか近くに居たリンが、三日月のお腹に再びパンチしていた。流石は妖なのだろう。力が強く、三日月はその場にまたしても蹲った。
「はぁ、アンタがこんなロリコン野郎だとは思わなかったわ。結局、皆ちっちゃい子が好きなのね」
不貞腐れたように言った榎戀の言葉は、痛みに耐えていた三日月には聞こえなかった。