2章 後悔の果てに (8)
秋音へのお願いがこんなにすんなりと通るとは思わなかったのか。リンは目を輝かせながらそう答えた。
「そ、そうは言ってもお願いするだけだからね? 全然通るとは限らないんだけど……先生方、お堅い人多いし」
そのあまりにもキラキラとした瞳を見せられ、少々気が引けたのかそのような保険をかける秋音。そのような話をしているうちにリンの髪の毛は洗い終わり、そっとシャワーを止める。
「……ねぇ、会長、今インターホンが鳴らなかった?」
「そうかしら?」
と二人、シャワーを止めてシンと静寂に包まれた小さなバスルームの中で耳を欹てる。すると「ピンポーン」という紛れもないインターホンの音が鳴り響いた。
「シャワーの水の音ですっかり聞こえなかったわね。もしかしたら結構待たせてるかもしれないわ」
そして、秋音会長は風呂から一旦上がった。
3
漸く秋音会長の部屋に辿り着いたが、しかしさっきから二回もインターホンを押しても反応が無い。人の相棒を殺そうとした人と一緒の部屋に居るかもしれないという情報は、彼を焦らせるには十分な物だった。もしかしたら部屋に居ないだけかもしれないと、部屋の扉のドアノブを握って確かめると、鍵が掛かっている訳ではなかった。会長ともあるお方が部屋の鍵も掛けない程不用心だともミニマリストだとも思えず、不審と心配が募る。
そしてもう一度、インターホンを鳴らし、反応が無いことを確かめると、勢いよく扉を開け、中に入った。
「すいません、生徒か……い…………ちょぉぉぉおおお!!?」
「な、!??!?」
そこにはさっきまで風呂に入っていたのか肢体が滴ったままの生徒会長のあられもない姿だった。手には小さく折り畳んだバスタオルを持っており、その肢体を覆い隠すには力不足だった。彼女の肢体はあんなに強く気高い気品のある剣術と筋肉量とは裏腹に、胸には多くの栄養が塡しており、肌は純白でその清い様は何者にも形容し難いほどであった。
「きゃあああああああああああああああああ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
秋音は持っていたバスタオルを投げ飛ばし、その場で蹲った。一方で三日月は背を向き、謝りながら外への逃亡を今にもしようとしていたが、人間というのはこういう時に限って焦るものであり、上手く扉が開けられなかった。もうさっきまであんなに心配していたリンのことと、彼女への疑念は何処かへ行っていた。
「な、何があった!?」
そしてその騒ぎを聞きつけ風呂場からリンが出てきたが、もちろん何も着ていない。まさか女子寮にあるようなここの部屋に男が居るなんて思っても居ないからだろう。
「み〜〜か〜〜づ〜〜き〜〜」
そして全てを察したリンは三日月へと近づく。リンの声が聞こえると三日月は再び後ろへ転換し、言い訳を述べる。
「い、いや、だって、リンちゃんが会長と二人で一緒に居るって聞いたから、殺されたような人と、一緒に居るなんて大丈夫かなって思っちゃって、つい心配しちゃったっていうか、そんな感じで、別に好き好んでみにきたわけじゃな――」
「黙って後ろ向けやゴラーーーー!!」
「ギャーーーーーーーーー!!!」
リンに逆襲される直前三日月は、榎戀が三日月は無断で部屋を入りかねないと言っていたことを思い出したが、奇しくも彼女の言った通りのことになっており、自分より他人の方が自分のことを分かってくれるんだなって、そんな当たり前のことを考えた。