2章 後悔の果てに (7)
彼女の口から出たその台詞はその場を沈めさせるには効果的なほど重要で、重大な意図を含んでいた。
「へぇ、なんで?」
「三日月は凄くあの部屋に戻ることを嫌がっていた。見たことないほど辛そうな顔をしていた、……だからだ、です」
人にものを頼む態度ではないと反省したのか。彼女は無理矢理文末を訂正して彼女に頼み込む。
「そうは言ってもねぇ。あ、リンちゃんの背中大体洗い終わったから、髪洗うね」
「う、うん」
リンの髪の毛を洗いながらという奇妙な風景ではあるが、重大な話をし続ける二人。
「部屋の共住者とのトラブルなんて絶えないし、あの子だけを特別扱いする訳には行かないんだよ」
「でも、この前私達の処遇については課題は山積みだ、みたいなことを言ってたし、私がどこの部屋になるのかも決まってないし、それに、私達には監視役が必要なんでしょ! それに私と三日月はできるだけ近い方が監視も楽だろうし、良いことも多いはず……だ」
後半から自信なさげになっていったが、リンの言ってることの筋は通っている。通常、精霊は西にある妖精の森という、精霊たちが多く暮らしている所に住んでおり、腕の契約の腕輪を通じて精霊を召喚する。しかし、リンは妖であるため、そこに行ける訳もなく、さらに契約の腕輪による召喚が反応しないことが分かった。だから、他の生徒と同様、ここの学院に住まわせるのが良いように思えるが、現状、リンが居る為の部屋はない。今は榎戀の部屋に一緒に居るが、そもそもあの部屋はベットが一つなどの二人が住むように設計されていない。そのためかなり窮屈な状態だ。
しかも三日月の身体は安定していると伝えられているものの、禁忌とされていた妖との契約は、未知な部分が多く、そもそも彼が平静を保っていられるのも何故なのか不思議な状態であると同時に、リン自身もいくら知能を付けたとはいえ、人に害を絶対及ぼさないとは断言出来なかった。そのため結局、学院側の教師陣は、監視役として彼らに何かあったら彼らを処罰する役目を負う人間を用意させたかった。そのためその監視役となる任を今は仮に榎戀が務めているが、本来はこの職務は風紀委員が担うべきであり、さらに彼らと関係がある人では私情が入って見逃してしまうかもしれない。さらに、リンは近いが、三日月の部屋は遠く、これには二人の監視役を付けるか、それとも二人を近くに住まわせる必要があった。
これらのことをリンがどこまで理解して発言したのかは分からないが、だが、住む部屋を変えた方が良いんじゃないかという彼女の指摘は問答無用に無下に出来るものでもなかった。
「まぁ確かに、部屋を移動させるってのも手よねぇ。分かったわ。今度、先生と掛け合ってみる」
「本当!?」
リンは目を輝かせてそう言った。