2章 後悔の果てに (2)
「そういえば……伍十嵐は、やっぱり怒ってるよな……」
俯きげにそう三日月が漏らした。謙一はもともとユグ爺亡き後、いつまで経ってもウジウジとしていて前に進もうとしない彼に怒りの念を抱いており、二人よりも三日月への態度は厳しかった。しかし三日月は彼が怒りっぽくいつまでも怒りの尾鰭をしまわないことに対して不満を垂らしている訳ではなかった。
「三日月がもう賢まる必要なんてないんだ。昔みたいに”謙一”と馴れ馴れしく呼んだっていいじゃないか」
「ま、まぁ……そうだな……」
場を和ますようにそんな軽口を言った裂葉だったが、急に真剣な顔つきに戻り淡々と言葉を告げる。
「彼は……怒ってたよ……そりゃ、僕たちの中でも一番妖を憎んでいるからね。彼がどれほど憎んでいるのかなんて、僕たちには推し量ることさえ難しい」
「そうだよね……謙一は……」
謙一は、彼は想い人を妖に殺されている。そう聞かされたのは三年前くらいだったように思う。いきなり謙一のもとに訪れたのは突然の訃報だった。彼女が殺されたと。なんて声を掛けてあげたら良いのか、三人は何も出来ず、謙一はただただ窶れ、憔悴し切っており、どうやら別れという味を知るには、彼にはまだ早すぎていた。三日月の脳裏には、虚ろな目でぼんやりしながら涙を流し、絶望に打ち拉がれる彼の姿が焼き付いている。
「謙一もこの子は危険じゃないと思ってくれれば良いんだけど、でも無理に言うものでもないからね。三日月もこのことで悩むようなことじゃない」
深刻そうに思い詰めていた三日月の顔を見てそのようにアドバイスをしたが、けれども三日月は捨て猫のように不安げで助けを乞う目で彼を見た。
「あ、ありがとう裂葉、でも……!」
「おい、三日月〜 元気にしてたか〜?」
すると何食わぬ顔でいきなり入ってきた明治の一声で二人の会話は中断される。
「あ、あぁ、う……うん、元気にしてたよ?}
三日月と裂葉の二人はお互いに顔を見合わせて、お互い困ったような顔を浮かべたあと、この複雑な話を繕うように、否忘れるように、軽く笑い、別の世界へ入っていく。そんな中、リンだけはまだ彼らの話に取り残されていた。
(私のせいで……三日月は友達との関係が悪くなっているかもしれない……それに私は……最低だ。”あのこと”を私は彼に伝えられないでいる)