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1章 ボーイ・ミーツ・ウルフガール(42)

 暫くどこか気まずい沈黙が流れる。そんな空間に耐えきれないとばかりに榎戀が口火を切る。


「それにしても、お、驚いたわ。ま、まさか、あ、アンタがロリコンだなんて……」


「えぇ!」


 鳩が豆鉄砲を食らうような、そんな驚いた表情で榎戀を見つめる三日月。


「い、いきなり何を言ってるの!? そ、そんなことないって榎戀。だ、大体、僕がこの子を助けようとしたのだって、森に入っちゃった時に助けてもらった恩からであって、その時はリンがこんな少女だったのももちろん、性別だって分からなかったんだよ!」


「分かってるわよ。でも、あのとき、全裸に近いこの子を長く連れ回した挙げ句、相棒(バディ)とするなんて、アンタにそっちの趣味があったとしか思えないのよ」


「そ、それは不可抗力だって……」


「でもアンタ、前に好きな子は自分より身長の小さい子が好きって言ってたじゃない。アンタのような小柄より小さい子なんてロリコンぐらいしか居ないのにって思ったらやっぱりだったわね」


 それを言うならロリコンじゃなくてロリのような気もしたが、榎戀はどこか初心なのだ。この手の話はそんなに詳しくない。ちなみに榎戀の言う通り、三日月は人よりも一回り背が小さく、メートルで表すと、百六十cmほどであった。


「い、いや、それは言ったけど、でも男なら皆、背の低い子に(なび)くし……」


「何、私に対してのあてつけ?」


「違うって! というか、それを言うなら榎戀、君だって自分より背の高い男と付き合いたいとか言ってたけど、君の方が無謀な悩みじゃないか!」


 すると痛いところを突かれたのか、それとも黒歴史を掘り返されたのか、彼女は真っ赤な顔になってさらに大声で、早口で、捲し立てようとする。


「い、今は私のことは関係ないでしょ! 私が言いたいのはアンタがロリコンだって、話をしているのであって、なんで私の願望は関係ないでしょうが! このチビ!」


「ん、むにゃむにゃ…… ……、……! み、三日月!?」


 二人が大声で言い争っていたのがリンを起こしてしまったのだろう。彼女が起き、三日月と目があったとき、彼女は信じられないとばかりに目を数回擦り、ぱっちりした瞳で彼を見つめる。


「リンちゃん!?」


「リン!?」


 二人が殆ど同時に反応する。


「三日月……! 三日月……!」


「ぐえ! そ、そこはだから怪我を……」


 三日月が目を覚ましたと分かった途端、勢い良く三日月の肢体へ飛びかかるリン。


「……ほらもう、全く…… アンタって人は……」


 少々不機嫌になりながらも榎戀はどこか嬉しく、微妙な気持ちだった。

 やがてリンは彼の体の上に抱きついたまま、離れなくなってしまった。


「リ、リンちゃん? い、一日ぶりだね?」


 彼の空気の読めない台詞にリンはムッとした表情になる。


「じゃあ、私は失礼になりそうだから、これで去るわね」


「じゃあね榎戀! またいつか!」


 リンはベットから離れると、榎戀とハイタッチして笑顔で別れる。どうやら三日月が気を失っていた間に和解したのだろう。二人の間にはわだかまりというものが感じられなかった。

 そして榎戀が居なくなったあと、シンと静まり返った保健室で、リンはまたベットへと上がる。


「どこに触れたら痛くない」


「き、基本どこでもい、痛いかな?」


 そしてリンは彼の怪我してなさそうな右手を手に取り、それをギュッと胸もとに持ってきて抱きしめる。


「ほ、本当にごめんね、リンちゃん、こ、こんな大事になっちゃって、それに君は僕の相棒(バディ)になちゃった訳だし、これから僕と一緒に居ないといけなくなちゃって……ごめん。本当にごめん。これしか僕には方法が思いつかなかったとはいえども、嫌……だったよね?」


 どこまでも優しげなその声が彼女の心を揺り動かす。


「……嫌じゃない」


 蚊の泣くようなとても微小な声でそう呟いた。


「嫌じゃない。寧ろ、嬉しい。三日月、謝らないでくれ。私は……私は……」


 その表情が目にいっぱいの涙を湛えながらではあるが、とびっきりの笑顔。


「私は三日月が居てくれて嬉しかった」


「三日月のようなお人好しが居てくれて、貴方のようなお人好しはこの世にもう居ない。嬉しかった。私をまたこの人間の世界に戻してくれて、嬉しかった。榎戀を説得してくれて、嬉しかった。皆から狙われていようが、私を離さないでくれて、嬉しかった。私を相棒(バディ)にしてくれて、嬉しかった。私を……私を……守るためにこんなんになるまで、戦ってくれて」


 笑顔で伝えたいと頑張っていたのだろうが、段々とその我慢に綻びが現れ、次第に頬に大粒の涙を伝わしていた。


「でも……でも……、でも! もう辞めてくれ。見れないんだ。お人好しの君が壊れそうなのは、嫌だった。たまらなく嫌だった。私が、私を守りたいがあまり、壊れてしまうんじゃないかって、私と契約したとき、生徒会長と戦ったとき、嫌だ。私が居なくなるよりももっと、三日月には壊れて欲しくない」


 左手で頬の涙をめいいっぱい拭ったあと、彼の右手と指を絡めて、ギュッと支える。


「お願いだ。大切にしてほしい。私よりも自分自身を、もっと。それが出来ないなら、私は……私は……」


 意を決したように、彼の顔に近づく。


「私はお前の分まで、お前を大切に生きるていく」


 そうして彼女は彼の唇にそっと唇を重ねた。

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