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1章 ボーイ・ミーツ・ウルフガール(34)

「お前……」


「やっぱり、君は悪い妖じゃない。だってあれだけ色々されたのに、君は誰も殺してないし、店の壁に穴を開けようとした真似もしていない。服は無償で奪おうとしてたのかもだけど、未遂に終わったなら僕が咎めることはない」


 そのセリフで、リンは一瞬曇ったような顔を見せたが、すぐさっきまでの酷くボロボロな泣き顔になった。


「でも……」


 絞り出すような、蚊の鳴いたような小さき声だった。


「でも、どうすれって言うのだ! 私は妖、仮令、お前の言う通り、私が良い子だったとしても、そんなのは関係ない。人間にとって私は有害で、忌むべき存在なのだ…… お願いだ、三日月、私は本当に、本当に、嬉しかった。私の存在を知ってなお、こんなふうに、他の人間と変わらず接してくれる人間が、やっと、やっとやっと最後に()()出会えたのがどんだけ嬉しいか。今からなら間に合う。三日月、貴方が私を殺してくれ。貴方のような心優しき人に妖逃亡幇助の罰を罪を背負わせて欲しくない。私も、貴方のような人に殺されるのならば本望だ。だから……」


「リン!」


 彼女の言葉を遮るようにして叫んだ。


「なぁ、リン、ダメだ。ダメなんだ、そんな終わり方は、君が救われないじゃないか、君を見捨てて、君に全ての罪を背負わせて、僕だけ逃げるなんて、卑怯だ、それは卑怯者のすることだ。半年前の僕と変らない。」


 その瞬間だけ、三日月の顔が大きく強張ったように感じた。己がしたというより、しなかった行いを今でも悔いているのだろう。


「それに僕には君に責任があるんだ。背中の傷と、再び君をこちらの世界に招いたこととね」


「でも!」


「一つだけ、一つだけ、僕も君も生き残り、ハッピーエンドを迎える方法があるんだ。君が良ければ、だけどね……」


 リンの目が吃驚(びっくり)したかのように、大きく見開いた。


「そ、そんな方法があるというのか?」


「あぁ、なぁリンちゃん」


 急に馴れ馴れしい呼び方をされ、豆鉄砲を喰らった如く、きょとんとした顔をした。あまりにも急すぎたために、「な、な、なに……?」と動揺してしまった。


「君はこれから僕の……」


 そして一呼吸ついて放たれる。


「君はこれから僕の相棒(バディ)になってくれないか?」


 この物語は数奇な理由で巡り合い、魅せ合われた一人の少年と、一匹の妖の、長く儚い世界録。爽やかな風の音が物語の始まりを告げる。全てはこの言霊から始まった。

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