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1章 ボーイ・ミーツ・ウルフガール(29)



 彼は思わず、後退りし、崖の真下に身をくっつける。


「お前さん、お前さん!」


 ユグ爺は必死に宥めようとしているけれども、彼には聞く耳を持たなかった。


「い、嫌……だ。こ、来ないでぇ!」


「あ、あ、あず、うぇっっ、ぁ、あぁ、ぃぐ、ぇぇぇれ! あ、あう、あ、あ、ああああああああ」


 呪文の詠唱もまともにできずにいたそんな三日月に、妖が襲いかかろうとした次の瞬間


「ふん!」


 と、ユグ爺が持っていた刀を引き抜き、三日月に襲いかかった妖を斬り伏せた。


「全く、最後の最後で手のかかる主様じゃわい。でも未来のある若者を守って死に行くというのは、悪くない死に様じゃな」


「ユグ爺、何を言って……」


 それから、ユグ爺はそこにいた妖たちと三日月の代わりに戦った。実は精霊個人での魔力発動はそこまで強くない。ユグドラシルは言葉を人間と遜色ないレベルで喋れるため、並の精霊より言霊の力は大いにあったにしろ、それでも交換する効率はあまり良いとは言えなかった。


「な、何をして……」


 ユグ爺は三日月へ襲いかかった妖を切り倒し、


「ユ、ユグ爺……」


 術で倒し、


「や、やめて!」


 時には身を呈して攻撃を受け止めた。


「お願い!」


 脳内では分かっていた加勢した方が良いなんてことは。けれども、対する三日月はこれから起こるであろう恐怖と、一向に減らず増え続けている妖に対する恐怖と嫌悪感で、何も出来ずにただ相棒(バディ)が痛めつけられるのを見ているだけであった。

 ユグ爺は善戦した。血を吐き、左腕が犠牲になろうとも、彼を守ろうと、足掻き続けた。だが、多勢に無勢であった。ついに地に臥せ、倒れてしまった。


「なんで……どうして……」


「ユグ爺が、ユグ爺がぁ……」


 「死神」と呼ばれた彼の精霊の最後は彼を守って亡くなった。7回も生き永らえた長寿精霊とは思えない勇ましい死に様だった。


「僕が……僕がぁ、もっと……もっと……!」


 「もっと」の後に続く言葉は何だったのだろう。強かったら、恐怖心を乗り越えていたら、惨めでなければ、自分の相棒(バディ)を見殺しにするほど冷酷でなければ、またはその全部かもしれない。だが、彼が今、どれだけ叫ぼうと、どれだけ喚こうと、どれだけ慈しもうと、どれだけ悲しかろうと、ユグドラシルは蘇らず、残ってる妖も減るわけではない。何も状況が変わる訳でもない。だいぶ減ったが、それでもまだ妖たちは残っている。


「返せよ、返してくれよ、僕の相棒(バディ)を!」


 そしてせめて最後を看取ろうと倒れたユグドラシルに近づいこうとしたものの、残酷かな、妖がこれ見よがしに死体に集り、貪る。それから彼の様子が一変した。ユグドラシルが死んだことよりも、次は自分がこうなってしまうのではという恐怖感が勝ってしまった。全くつくづく自己中心的でどうしようもないクズである。


「え、あ、あぁ……」


 声にならない言葉をあげる。そして、あら方食事が済んだ妖たちが「次はお前だ」と言わんばかりにこちらへ向いた。


「い、いや……」


 妖たちは距離を詰める。


「助けてください!」


 その時、そんな情けない言葉を聞いたのか、彼に奇跡が起こった




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