1章 ボーイ・ミーツ・ウルフガール(27)
「クッソ、どうしてこうなった!」
「一回、下がった方がいいんじゃないか?」
「下がるって言ってもどこに!?」
「そりゃ秘密基地にだって」
「確かにその方がいいかもね」
「おい、行くぞ三日月!」
「三日月?」
謙一がそう聞いても、一向に返事を返さない。三人が不審に思い三日月が居るところに振り向くと、彼は妖のあまりの大群に萎縮してしまい、何も出来ず突っ立っていた。
「お前さん、ぼっーとするでない。 呼ばれておるぞ」
「あ、あ、うあ、あ」
声とは呼べないような音を出し、足から根を出しているかの如く、そこから動かずに、いや動けずにいた。そんな中、もう裂葉たちは今にも逃げ出しそうとしていた。
「おい、しっかりしろ!」
「え、あっ」
謙一が彼の手を取り、引っ張りながら二人の跡を追う。二人を追っている最中、暗闇の先には何やら仄かで不気味な明かりが灯してあった。軈て二人に追いつき、一緒に秘密基地に着いた。これで安心出来ると思ったものの、何やら焦げ臭く嫌な臭いが充満しており、妙な明るさと、パチパチという音があった。
「おい、マジかよ……」
「嘘でしょ……」
二人がそんな絶望の呻きを上げたことにより、おそるおそる顔を上げてみると、僕達がずっと使っていた「秘密基地」と呼んでいたでっかい木は、落雷によるものなのか、激しく燃えており、立ち入る隙きがなかった。落雷であったとしたら、もしあの時避難しなかったら、と思うと凄く幸運なことではあるが、そんなことは今は感謝している暇ではなかった。
呼吸が早まり、乱れる。ハーハーといううるさいほどの音を立てながら、何度も何度も深呼吸をしてなんとか落ち着こうとする。思えば逆効果極まりない行為なのだが、そんなことを考えれるほどゆとりはなかった。目の前の絶望から逃げ出したくなる。逃げたい、苦しい、辛い、辛い。自分でも気がつかなかったが、いつも間にやら立つこともままならなくなり、膝を付き、喉元には近くに色んなものがこみ上げてきた。耐えきれず、そのまま吐き出してしまった。
「う、おぇ、あ、あ”ぁ」
掠れた音を出すと、少し冷静になり耳を欹て、目を配らせると、どうやら三人は僕のことを心配して周りに集まってきたようだ。
「だ、大丈夫か? 三日月」
「別の道を探すぞ」
皆に余計な心配をかけてしまったことを恥じ、「こうしちゃいられない」と立ち直ろうとした際、後ろから嫌な鳴き声が聞こえた。