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1章 ボーイ・ミーツ・ウルフガール

 ここは国立霊術東学院こくりつれいじゅつひがしがくいん上級精霊使じょうきゅうエスプリットユーザーいになるための、登竜門である。精霊使エスプリットユーザーいは「霊術」を用い、日々腕をみがいている。

 先ほど、精霊せいれいと言ったので、そちらの説明もしておこう。この世には動物の他に魔族まぞくと呼ばれる生物が介在かいざいしている。そして、その魔族を精霊せいれいあやかしという二つに分けることが出来る。もともと、それらは同じ種であったが、約三百年前の精霊大戦争せいれいだいせんそうが起こったことによって、人の言語を理解できないものが多く凶暴である代わりに、身体が比較的巨大で、大きな力を持つ「あやかし」と、人の言語を理解するという知能や、空を飛ぶという特性を手に入れた代わりに、比較的身体が小さく、力が妖におとる「精霊」に分かれた。

 精霊使いが「霊術」を使うと述べたが、人間の霊術には限度げんどがあり、全く使えないものも居る。そのため、魔族を相棒バディにし、霊力を高める必要がある。

 しかし、「妖」は例外もいるが、人の言語を理解することができない。その上、人間を襲う。そのため、「妖」は魔法の森に棲みついてることが多く、度々「妖」は人類の敵として、戦う。よって、人々、というより、精霊使いは「精霊」と契約を結び、魔力を高め、霊術を使うのだ。



1


精暦三一三年、東学院の学生寮の一階、少年とその他男子三人が何かを話していた。

「いつまでそのままなんだよ」


少年は初めてそのように怒られた。いや、むしろ今まで怒られなかったのが不思議だろう。彼の友人であった伍十嵐謙一いがらしけんいちはそう叫んだ。

「僕は……」


 言葉を濁し、優柔不断な態度をとる少年。他の2人が、怒った伍什嵐を宥めようとしていた。

(僕だって、前は……)と思った時、彼は自身が過去の栄光に縋ることしか出来ない愚かな人間であることを悟った。

「いつまでそのままにするつもりだ。答えろ!」


 鈍い音がして、少年は床に投げ出されていた、そこで少年は気づいた。「僕は伍什嵐に殴られた」と。

「二人とも少し落ち着こうよ」


 二人の友人の一人・讃岐裂葉たたきさきはそう言った。

「謙一も殴るはやり過ぎだよ。三日月みかづきだって、乗り越えようと頑張ってるんだから」


 そして、もう一人の友人・神谷明治かみやめいじもその場を収めようとした。

「こいつが頑張ろうとしてる訳がねぇだろ」


 伍什嵐がさらなる怒りを表した。

「お前は、俺より優秀だったじゃねぇか!そんな奴が落ちぶれてるのを見たく無いんだよ。ユグ爺を亡くしてから、ずっとその幻影を……」


 そこで、彼は失言に気付いた。

「ごめん、三日月」

 そう言った後、少年ら四人は、重い空気のまま解散した。



 その少年の名は、杠葉三日月ゆずりはみかづきといい、かつて、中等部では最高三位まで上り詰めた実力者である。しかし、半年前の不慮ふりょの事故により、相棒の精霊を亡くし、再び霊術を使うことを恐れ、高等部に入った今でも、精霊を相棒にしていない。(本来ならば高等部に入ることも難しかったが、中等部時代の過去の栄光が評価され、無事編入することが出来た。)そんな状態で満足に霊術を使える訳がなく、彼は落第寸前の落ちこぼれとなってしまった。


 少年は部屋に戻る途中、先程のことを、考えてた。(伍什嵐の言っていたことは正しい。そして、裂葉だって、明治だって、口では窘めようとしてくれたけど、本心は伍什嵐と同じだろう。)

 そして、彼は思わず溢した。

「ごめん……皆……」


 それは誰も気がつかないほど小さい独り言だった。



 部屋に戻ると、一人が部屋に座っていた。ハリボテのような笑顔で、「よう」という、小さな挨拶を交わした。

 彼女の名前は、恢島榎戀かいじまかれん。三日月のかつてのライバルだ。中等部時代には、最高四位に誇る実力者で、現在では三位の座に居座っている。身長は百八十cm近く、ちなみに、可愛いと評判で、今まで、三人以上の男子に告白されたことがあるらしいが、全部振ってきた。本人曰く、自分より身長の高いイケメンに告白されたいらしい。彼女より身長が高い男性など中々いないのが、現実なのだが

 そんな優等生の彼女が、何故、こんな落第生の三日月の部屋に居るかと言うと、単純に心配してのことだ。

 彼の身に起きた不慮の事故により、肉体面、精神面両方共に深い傷を負った。肉体的な傷は治るとしても、精神的な傷は治すのが難しい。彼のメンタルのダメージが予想以上に深く、彼が自殺未遂事件じさつみすいじけんを起こすほどだった。

 それ以来、彼女は定期的に彼の部屋に訪れ、僕のベットの上などを掃除してくれている。

「いつもありがとうございます」


 恢島と杠葉とは、かつては敬語なんて要らないフランクな関係だったが、めきめきと実力をつけ、どんどん成長する恢島を、雲の上の存在と、感じたのだろう。いつしか、彼は敬語で彼女と接していた。

「いいってことよ」


 気まずい沈黙が続く。それから彼は彼女に言った。

「そろそろ、あの人達が帰ってくるから、もう部屋に戻った方がいいんじゃない?」


 ここでいう、「あの人たち」とは、杠葉とのルームメイトだ。杠葉は平民出身であり、貴族出身のものと折り合いが悪い。その上、貴族たちは、プライドが高い者も多く、かつて自分より実力が上であった杠葉を妬んでいるため、今の杠葉の状況をここぞとばかりに馬鹿にする。そして、そのルームメイトは鐘山正かねやまただし廣邉翠據ひろべすいこという、上級貴族出身じょうきゅうきぞくしゅっしんの人物二人であった。

 杠葉とは対照的に恢島は下級ではあるが、貴族出身であり、上級貴族に対抗し、平民を庇うというのは、上級貴族の圧により、太刀打ちするのが難しかった。(彼がかつてのような、将来有望の実力者なら、かばう理由もあったが、現在の成績では庇うに庇えなかった。)


 ここで、「貴族」という言葉が出たので、こちらも説明しておこう。約三百年前の精霊大戦争では、後に精霊と呼ばれる魔族と、後に妖と呼ばれる魔族との戦争であった。人を鏖殺おうさつしようとした妖ではなく、人を味方につけようと振る舞った精霊達に人間達は加勢し、大量に繁殖した妖から、人間の街を守った。そういった大きな武功ぶこうを挙げた精霊使い達の子孫を、一括ひとくくりして貴族と呼んだ。

 しかし、そんなかつての栄光にすがってる生まれながらの貴族達は、プライドだけは高い者が多く、過去の武勲ぶくんや、皇帝との血縁関係により、貴族内でも縦社会があるそうだ。

 余談だが、特に先程述べた、二人のうちの廣邉ひろべという家は名門貴族で、現在の皇帝・桟城皇帝ざんじょうこうていの父の妹と、廣邉の祖父が夫婦であったため、皇族の血が特に濃かった。

 そんな彼らが戻ってくるには、まだ四十分ほど早いような気がするが、彼女も、三日月が私を帰したい。ということが伝わったのだろう。彼女は「分かったわ」と短い返事をして、部屋に戻っていった。

 しかし、彼は焦った。(ない……ない……!ユグ爺から貰ったお守りが……)かつての相棒バディ・ユグ爺の形見のようなもので、彼が大切にしてたお守りがいくら探しても見つからなかった。

 そのため、彼は走って、恢島の部屋に行くことになった。

 バタンとドアの短い音を立てて、彼女の部屋にずかずかと入っていった。

「どなたですか?けど、少し待っt……」

「恢島、ごめんなさい、あのお守りどこにあるか……」


 そして、杠葉は恢島と出逢った。

 二人に一瞬の静寂が訪れる。それもそのはず、恢島は先程まで、掃除をしていて、汗をかいたのだろう。着替えている途中だった。

 下はスカートをまだ穿いていたので、パンツこそは見えなかったものの、上はちょうどポロシャツの最後のボタンを外した後であり、彼女の妖婉ようえんへそや水色のブラがさらされていた。肌は色白いろじろであり、杠葉が、恢島と服を着て会ってた時には気がつかなかったが、彼女は以外にも胸が大きく、Dくらいはあるだろう。そして、長らく、エリートの精霊使エスプリットユーザーいであったため、筋力のトレーニングも欠かさなかったのか、そのトレーニングによる腹筋が見え、彼女の艶かしい肉体美をプラスしていた。そしてなにより、白くて、透けるポロシャツを着ていることが更なる彼女のエロスを加速させ、

 彼は彼女のみだらな姿を、一瞬で全身を舐め回すように見た後、もう一度彼女の胸の谷間を見た。それを見て、倒れてしまいそうな時、彼女が叫んだ。

「キャーーーーーーーー」

 その悲鳴を聞いたことにより、杠葉は我に返った。ちなみに、近くの生徒はまだ帰ってきてる人がいなく、奇跡的にこの悲鳴は他の第三者に聞くことがなかった。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

「この変態! スケベ!」


 彼は謝り、彼女に罵倒されながら、彼女の部屋を出た。

 彼はまだ、高校一年生で、思春期であったため、彼女の姿が脳裏から離れずにいた。

 五分くらい経った後に、彼は彼女に再び話しかけた。

「あ、あのー? 怒っています?」


 彼女がそれに答えた。

「嫁入り前の私の裸を見て、もう許してる訳ないでしょ。」


 語気を強めて、そう言った。

「で、何の用なの?」


 彼女は杠葉が訪れた要件を聞こうとしているようだ。

「あ、あの、赤くて、ユグ爺から貰ったお守り知りませんか? ベットの上に置いてたと思うんですけど」


 そう彼は尋ねた、すると、恢島は

「あれ、ユグ爺からもらったものなのね。悪いことをしたわ。ゴミかと思って、ゴミ箱に捨てちゃった」


 彼は「ゴミかと」「捨てる」という、言葉に反応し、彼の大切なものをぞんざいに扱ったことから怒りたくなる気持ちもあったが、彼は、彼女はいつも僕も部屋を掃除してくれるなど、恩が大きい上、僕のような落ちこぼれがこれぐらいのことで、彼女に怒ってはいけないと思い、短く告げた。

「分かった」

「今日のことは絶対に許さない」


 彼女はそう言ったあと、このように告げた。

「アンタが新たな精霊を見つけるまで」


 それを聞いて、彼はさらにあやまった。

「ごめん」と。

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