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プロローグ
精暦三一ニ年、夜の森の中、至る所に火が立ち込めており、大量の妖がその場に居た。そこの様子は一言で形容するなら"ディストピア"で、目を背きたくなるほどの惨状だった。
「なんで……どうして……」
残酷などとはまるで無関係そうな温室育ちの少年が、涙を流しながら、そう呟いた。
「ユグ爺が、ユグ爺がぁ……」
そこには、無惨な姿となっている老いぼれの精霊の姿があった。所々に妖の死体があるが、それらは、彼が倒したのではなく、その精霊が殪したのだろう。
「僕が……僕がぁ、もっと……もっと……!」
いくら大声で喚こうが、もう助からなさそうだった。
「返せよ、僕の相棒を!」
強気な彼の言葉とは裏腹に、足はすくんだまま動けず、剣を持つ手は過度に震えていた。
そしてそのまま尻もちをつき、こう叫んだ。
「助けてください!」
この語に及んでまで、自分で闘わず、他力本願であるその様は、酷く醜く、最早清々しささえ感じられた。