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地獄の桜  作者: 田端
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 私は今日、高校を卒業してすぐ就職した会社をクビになった。理由は分からない。私に通知した上司は、これと言ったことを言わなかった。その上司の辛そうな顔を見ていると、私も理由を聞き出すことは出来なかった。ただ、私の過失が100%だということでは無いのが分かっただけで、一安心だった。

 一人暮らしをしているマンションの一室に戻ると、昨日作り置きしていた肉じゃがを温めて始めた。

 私は、もう既に26歳で、来月の2月には27になる。仕事は今日失ったばかりだが、彼女は2年くらい居ない。前の彼女とは、高校からの長い付き合いで結婚まで考えていたのだが、ある時いきなり、別れようと告げられた。私には、何故なのか皆目見当もつかなかったので、何故別れたいのか聞いてみた。すると、彼女も今日の上司と同じ様な顔をして、私の部屋から無言で出て行ってしまった。彼女とは、言いたい事を言い合える仲だったので、とてもショックだった。

 私は、彼女を追うことはしなかった。彼女の方から戻ってきてくれると信じていたからだ。長い付き合いだから、勿論、以前にも似た様な事は何度かあった。その時は、私が寄り添ったり、彼女が戻ってきたりと関係が完全に崩れることはなかった。

 ただ、今回は私に原因が全く無いと思っていたので、彼女が戻ってくる事を信じていた。なのに彼女は、戻って来るどころか、家族諸共住所を不明にし、私の前から完全に姿を消してしまった。

 話を戻すが、実家からも勘当された私は、お金の工面手段をいち早く見つけなければなら無かった。とりあえず、鍋がぐつぐつというまでは、ネットで求人サイトを眺めていることにした。

 カチカチとマウスで求人情報を漁るが、最近は大卒採用ばかりで、どうも私の様な人間には厳しい社会になってきている様だ。今日までいた会社では、基本運送業のオペレーターみたいな役割をこなしていて、これといったスキルが身に付けた訳ではない。30手前の私の様な人間には、ブラック企業しか残っていないかも知れない。

 グツグツ

 私は、諦めて肉じゃがを救出しに行った。矢印を切に向けて、鍋の蓋を取り、中の美味しそうな香りに癒された。お椀一杯に、肉じゃがを入れると、箸と一緒にお盆に乗せた。そして、お盆を持ち、再びパソコンの前に戻る。再びカチカチとマウスを動かして、良さそうな求人を見つけると、肉じゃがを口にしながら、説明文を読んだ。

 30分位経っただろうか、遂に私は胸が苦しくなった。探しても探しても、ブラックっぽい所ばかりで、私にはもう贅沢でゆったりとした人生を歩めないのか、と思った。そして、自分の人生に絶望した気分になった。

 私にだってプライドはある。子供の頃は、サッカー選手になりたかったし、それに真面目に取り組んだ実績がある。社会に出てからも、会社の為に、心にも肉体にも負担をかけ、僅か数%だが利益向上に貢献した。それなのに、私を簡単にクビにしたあの会社は一体何を考えているんだ。

 色々と考えていると、私の顔は泣きそうになっていた。涙こそ流れないが、これは明らかに大泣きの顔だと思う。私は、布団に包まり、ううーと呻き声を上げて悶えた。

 それに飽きて、時計を確認すると、もう夜の8時になっていた。

 このまま、ダラダラとしているのもしょうがないと思った私は、再び求人サイトを漁り始めた。

 今度は、正社員としてではなく、パートとアルバイトも候補に入れて、検索してみた。すると、さっきまでとはビックリするくらいの多くの量が引っかかった。

 そこで私は、一旦短期バイトを挟むのが良いと思い、時給順に表示させた。

 時給5万だったり2万だったりの優良なバイトが幾多か見つかる。しかし、よくよく見るとどれも特殊なスキルが求められているものばかりだった。

 イライラしながらも、私にも出来そうなバイトをスクロールしながら探していく。

 すると、とても興味深い求人を発見した。

 時給1万円で、人の愚痴を聞き、共感するだけの仕事。

 これなら、私にも出来る。

 私は、注意書きをよくよく読み、申し込みを済ませた。

 注意書きには、これといって特別な事は書かれていなかった。個人情報がどうとか、夜限定の仕事であるとか、仕事中は覆面を被るのが原則とか。窮屈な社会で頑張っている大人達の愚痴を聞くのだから、真っ当な注意書きだと思った。

 直ぐに、メールに(面接の連絡を致します。履歴書をご準備してお待ちください)と来た。

 私は、パソコンで履歴書をコピーすると、パパパッと手書きで内容を埋めてしまった。

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