見た事のない世界。
「何ここ」
俺は白昼夢でも見ているのだろうか。起きて辺りを見回すとそこは見た事のない景色が広がっていた。
「何よ。ここ」
聞きなれた声、そうそれは俺の彼女の風鈴だ。
「リン、まさかお前もまさか俺の夢の中に出てくるとはな」
言いながら振り返ると、そこにいたのはいつもの風鈴ではなく、ゲーセンのUFOキャッチャーの景品で獲れそうな小型の兎のぬいぐるみが空に浮いていた。
「ぶっ! 何でお前がぬいぐるみになってんだよ。いやなんでやねん」
「私だってなりたくてなっているんじゃないわよ。妖精に。それに私の夢の中に勝手に入って来ないでくれる?」
「えっ、何それ。妖精なの? YO! SAY!」
「また、ラップ口調でふざけて。そんな使い方するとラッパーからラップ舐めてんの? って凄まれるわよ?」
「う、うん。というか鈴。だよな? 鈴もここは自分の夢の中の世界だって思っているのか?」
「何よ。そりゃあそうよ。でも私も急にマサルと付き合って、危険物乙四類の中古本を買って、さあいざ勉強をしようって思ったら眠気が急に襲い掛かって来てzzzになるとは思わなかったわ。アイムスリーピング。哀しくなるわ。哀夢スリーピングよ。これが正に」
「いや、正にも何もそんな言葉そもそも存在していないから。というか漢字を変換したらアイムがアイムがアイ夢になったから哀夢スリーピングが思いついたかのような都合の良さを感じるのは自分だけかな」
「ええ、あなただけよ。でも変ね。私もって事はまさか、いえマサルだけにマサカあなたもそうなの? あなたも夢の中だと思っているの? この世界の事を」
「うん。そうなんだ。という事はお互いそういう夢なのかもしれないし、それとも夢と夢が繋がっているのかもしれない。そんな事が可能であればだけど、あるいは……」
「あるいは何? 好奇心旺盛な年頃の女子高生の私としてはとても気になるわ」
「あるいは。この世界が現実にある本当の世界で、俺達は本の世界の中に入ってしまったか」
「あはん。なるほどね。ははん。はははん。はははん? はは、ははははははは……」
「壊れた。リンが壊れた」
「壊れたからと言って返品は受け付けません」
「意外と冷静、というか鈴と分かれるつもりは毛頭ないから。ストレートに言うね。結婚しよう。この世界を出られて、危険物乙四類を取得して、高校も卒業して、稼げるようになったら」
「了解!」
という事で、鈴との将来を約束した俺だった。




