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卓哉は、口を開いた。
「…じゃあ、グレーからの意見が多かったし、オレもその方がいいと思ったから、今日はグレーから占い先を指定しよう。」
雅也が割り込んだ。
「だったら、占い先は村が決めて指定した方がいい。」皆の視線が雅也に向いた。雅也は続けた。「占い師には背徳者が居るかもしれない。いや、多分居るだろう。だから、狐を占ったと言わせないためにも、共有者が話し合って決めた方がいいんじゃないか。狼の噛み合わせを避けるために、二人ずつ指定するんだ。背徳者に狐さえ割り当てなければいいんだから。」
洋文は、少し考えたが、頷いた。
「そうだな。本当は自分で選んで狐を特定したかったが、利に叶ってる。卓哉、君が決めてくれ。」
卓哉は、顔をしかめた。自分が決めるのか。
とはいえ、今考えているのは洋文が真、雅也が真だ。だったら、その二人に狐っぽいところを占わせるように持っていけばいいのだ。
「…ちょっと考えさせて欲しい。」卓哉は、言った。「相方と話し合いたいし。ここは一旦解散して、また夕飯後にでも話そう。ええっと、そうだな…19時に、ここで。」
全員がそれを聞いて、回りを見回しながら立ち上がり始めた。
卓哉は、じっとメモを見て考えていた。確かに意見はきっちり分かれてはいたが、多分みんな、確証もなく自信も無いと言った風で、まだ他人の意見を尊重するという感じを受けていた。とはいえ、確かに強い意見を出す人も居て、それを卓哉は良い方に考えていたが、玲はどう思っているのだろう。
考え込んでいると、雅也が立ち上がって、卓哉を促した。
「さ、相方と意見をすり合わせるんだろ?部屋へ帰って考えて来たらいいんじゃないか。オレもとりあえず、部屋へ帰るよ。こんな時に歩き回ってて、誰かとこそっと話してたなんて言われて疑われたら大変だしな。」
卓哉は、頷いて立ち上がる。すると、もう出て行って居ないと思っていた他の皆が、まだ居間のあちこちに居るのが目に付いた。
…確かに、ここでコソコソ話している人が居たら、人外なんじゃと疑うよな。
そう思いながら視線をやったせいか、皆が皆よそよそしい雰囲気でこちらを背中で意識しているような感じを受けた。
玲が、笑いながら言った。
「じゃ、僕もキッチンから飲み物でも取って来て部屋へ帰るよ~。どこかと繋がってるなんて疑われたら困るし。自分の身の潔白を証明するためには、それが一番だよねえ。」
結構大きな声だ。
卓哉がびっくりしていると、玲はさっさと一人で居間を出て行った。
取り巻きの女子達も、もう玲を追いかけることは無かった。
卓哉は玲を追って雅也と共にキッチンで飲み物と、パンなど小腹が空いた時に食べる物を持って部屋へと向かった。まだ階下に居るのか誰も居ないその廊下で、隣り同士に並んだ戸の前で、雅也が声を抑えて言った。
「…じゃあ。その、オレの占い先も頼むよ。」
卓哉は、頷いた。
「そのつもりだよ。」
15番でちょうど真向かいの部屋になる玲が、言った。
「早く。きっとみんな上がって来るから。」と、雅也を見た。「君も誰にも疑われないようにね。もちろん、僕にも。」
そうして、卓哉はぐいと玲に背を押されて、7番の部屋へと入った。
玲は、入って早々に腕を組んで、言った。
「どう?誰か怪しい人とか、見えた事とかあった?」
卓哉は、なるべく部屋の奥へと入りながら、声を落として言った。
「オレの目線からだと、どうしても雅也が真占い師って気持ちがあるから、占い師に人外が二人混じってるなあって。でも思考ロックを外して、もし雅也が人外だったとしても、三人出ている占い師の中で、さっきの話を聞いて信用できると思ったのは洋文さんだけでした。」
玲は、腕を組んで立ったまま、頷く。
「そうだね。僕もそう思ったよ。だから、雅也も本当に真占い師かもしれないなあって思ったぐらい。それで、人外の目星はついた?」
卓哉は、驚いて慌てて首を振った。あんな少しの間でそんなことが分かるはずはないのだ。
「いや、まだ全然!一緒にメモを見て考えようと思ってたんだけど…玲さんには、分かった?」
玲は、息をついて傍のベッドへと座った。
「それぞれの性格も確かにあるんだけど、人外だったら無意識に自分の陣営に不利にならないように発言するもんなんだよねー。それに、役職を持っていたら自分に自信があるから、発言も強くなる。でも、人外でも自分に自信がある人って、役職に出て対立しても発言するもんなんだよー。そんなわけで、僕は洋くんと修ちゃんの二人はどっちかが真でどっちかが人外なんだと思ったよ。でも、発言内容から言って、君が言ったように、洋くんの方が真目が高いかなあ。」
卓哉は、玲が自分を同じように考えていたのにホッとした。
「じゃあ、莉子さんは?なんだと思う?雅也と比べたら、オレは雅也の方が全然真っぽいって思ったけど。」
玲は、頷いて立ったままの卓哉を見上げた。
「うん、僕もそう思った。ただ、莉子ちゃんはねえ、放って置いてもいいかなって思ってる。」
卓哉は、目を瞬かせた。
「え?放って置く?」
玲は、また頷いた。
「うん。洋くんも言ってたけど、相互占いの話になっても、怖がりっぽい彼女が平気そうだったからね~。偽だったとしても、占って正体がバレるような役職じゃないってことさ。つまり、人狼でも狐でもないと僕は思うよー。偽だったら、背徳者か狂人だねえ。だから、吊るとしても後でいいと思ってる。」
と、チラと戸の方を窺う。卓哉もビクッとして戸の方を振り返ったが、特に何も気取れなかった。玲は言った。
「…なんだか、さっきから君の部屋の戸の前を何人かが歩き回ってるんだよねー。もちろん、部屋に帰るだけなのかもしれないけど、それにしては頻繁だ。それに、わざとらしく立ち話してみたり。全部じゃないにしても、共有の相方が誰なのか知りたい人外が他を巻き込んで窺ってる可能性はあるよね。」
卓哉は、慌てて戸の方へと足を向けたが、玲がその腕を掴んで止めた。
「駄目だよ、何をするつもり?僕がここに居るのが知られるじゃないか。共有者の相方がどこに居るのか人外に知らせるつもりなの?」
卓哉は、ハッとして足を止めた。だが、困ったように玲を見た。
「でも、人外が嗅ぎまわってるのに。」
玲は、フフと笑って首を振った。
「大丈夫だよ。ここは防音がしっかりしてて、ほんとなら中から外、外から中の音は聞こえないんだ。気付かなかった?中に居たら静かでしょ?」
卓哉は、戸惑った。確かに静かで卓哉からは外で誰かが歩き回っているのとか、話しているとか全く分からなかったのだ。
「え、でもじゃあ、なんで玲さんには分かったんだ?」
玲は、肩をすくめた。
「僕は異常に耳が良くてね。ちょっと研究中の変わった薬を試した副作用なんだけど…いつもは遮断して聞かないようにしてるんだけど、今は聞いてる。だって、人外に狙われたらたまらないからさ。」と、卓哉の手帳を指した。「で、占い先を決めよう?僕が決めてもいいの?」
卓哉は、言われて急いで手帳を開くと、メモを取る体勢になって、玲の隣りに座った。
「うん、玲さんに決めてもらった方がいいと思うから。オレにはみんなただのグレーにしか見えないし。」
玲は、苦笑した。
「僕にだってただのグレーだよー?でも、ま、いいか。じゃ、そうだね、雅也から行こうか。いい?」
卓哉は、頷いて構えた。
玲は、全ての番号と名前を記憶しているようで、すらすらと指定占い先を挙げ始めた。




