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玲は、別人のような鋭い目で卓哉を見た。
「…安易に人を信じちゃいけないよ。まあ、僕が気を付けて見て置くから雅也はいいけど。それに、君は僕のことを言ってなかったみたいだし、良識はあるんだと分かったから、そこはいいよ。でも、本当は君に出てもらおうと思ってたんだけど、こうなると僕も出た方が良さそうだね。うーん、そうだなあ…。」と、少し考えた。「…よし。じゃ、君は共有者として出て。僕は、霊能者として出るよ。」
卓哉は、驚いた顔をした。
「え、霊能を騙るの?」
玲は、頷く。
「狩人の護衛も入るかもしれないし、そうでなくても人狼が味方かもって思って安易に噛めないだろ?もし人狼が霊能に騙って出てたとしても、自分が吊られる懸念があるから僕を噛めない。ある程度日数が経ったら共有者として出るよ。だから大丈夫だ。それに、このゲームに慣れた人なら共有者が出てるかもって分かると思う。だから平気さ。」
卓哉は、ドキドキした。自分が場を仕切るのか。
「オレ…場を仕切るなんて無理かもしれないのに。」
玲は、もう戸の方を向きながら、笑って言った。
「大丈夫だよ~。僕が助けるからさ。これからは、みんなが出てない時に話そうね。共有の霊能アーマーが誰かバレたら面倒だし。僕からここへ来るよ。だから、君はなるべくここで待ってて。いい?」
卓哉は、自信なさげに頷いた。
玲は、その顔を見て苦笑したが、そのまま部屋から外へと出て行ったのだった。
廊下で待っていた雅也と玲と三人でダイニングキッチンへと降りて行くと、そこには広々とした空間が広がっていて、大きなキッチンにたくさんの磨かれた冷蔵庫、そしてダイニングテーブルに椅子と、離れた位置にソファまで置いてあった。
そこにも大きな窓があったが、ここには布製のカーテンは無く白いブラインドかかかっていた。
キッチンの冷蔵庫や棚には、たくさんの食材であふれていて、確かに何でもそろっている。自分で調理することも可能で、調理器具も完備されてあった。
そこで、冷凍食品を温めて雅也と二人で食べていると、玲は相変わらずたくさんの女子に囲まれて離れた位置で談笑していた。
そんな玲に視線を送らないようにと気を遣いながら、二人が食事を終えて片付けていると、剛と信吾が寄って来た。
「なあ、役職ってみんな言い合ってる?ま、ゲームなんだし誰に聞いても村人だって言うんだろうけどさ。」
それには、雅也が笑って答えた。
「いくら何でもゲームなんだし。お互いに詮索したら、友達関係もギクシャクするかもしれないじゃないか。ゲームの話は、議論の時間だけでいいんじゃないかな。常に考えてたらここでの時間はつらいものでしかなくなるよ。」
それには、いつの間にか寄ってきた洋文が割り込んで来た。
「雅也の言う通りだな。まだゲームが始まったらどうなるのか全く分からないし、村は一致団結して勝たなきゃならないんだから、まだ占いもしてない中で不確かなことは言わない方がいい。」
すると、後ろから修一が言った。
「でも、今日の議論はどうする?占い結果はないけど…せめて目星を付けるために役職COだけでも募っておいた方がいいんじゃないか。」
洋文が、顔をしかめた。
「どうだかな。人狼にも情報を渡すことになるし、話し合われたら面倒だろう。やめておいた方がいいんじゃないか?」
すると、向こうのソファで女子に囲まれていたはずの、玲があちらから言った。
「ねえ、だったら余計に今日の方がいいよ。」こっちの6人が振り返ると、玲は続けた。「誰が役職に出るか話し合われたら面倒じゃない?今ならまだバレるのが怖くてお互い深く話し合ってないだろうから、人外をたくさん露出させられるかもしれないしいいと思うよー。人外に今夜の時間をうまく使わせないのはいい考えだと思うな。」
すると、修一が、戸惑い気味に洋文と玲の顔を見比べた。
「ええっと…じゃあ、時間を決めて集まるか?」
だが、洋文が頷く前に、玲は立ち上がった。
「今からだよ。」卓哉もびっくりしていると、玲は微笑んで続けた。「今、みんな聞いちゃったでしょ?このまま解散したら、慌てて話し合うと思うよ。今日出すんなら、今から居間に行って即、COしなきゃ意味がない。時間を与えないのが目的だからね。さ、行こう?誰かが変な動きしないように、このままお互い見張りながら行こうよ。」
卓哉は驚いたが、玲の言う通りだった。誰が人外を引いているのか分からないが、全員が緊張した顔になったのでそれを探ることも出来ない。
それでも緊張感の欠片も無い様子で、玲はぞろぞろと取り巻きを連れて歩き出した。
卓哉も、雅也と顔を見合わせて頷き合うと、黙ってギクシャクと歩いている太一や和也、剛や信吾の後ろを、同じように黙々と歩いてついて行ったのだった。
まるで面接試験会場にでも入るように、皆が緊張気味にソファへと黙って歩み寄った。
そうして、言われたわけでもないのに、自分が気が付いた時に座らされていた椅子へと収まり、全員が向かい合う形になる。
始終落ち着いた様子の玲が、薄っすらと笑みすら浮かべて皆を見回して、言った。
「さあ、じゃあ始めようかー。でも、占い結果も何も無いしねぇ。とりあえず、役職COを受け付けるよー。」
すると、洋文が言った。
「とりあえず、共有者からじゃないか?そいつに仕切ってもらおう。玲がどの陣営か分からないしな。」
玲は、満足げに頷く。
「そうしようかー。どっちか片一歩でいいから、出て?」
卓哉は、それを聞いてゴクリと唾を飲み込んだが、手を上げた。
「…オレ。オレが共有者。相方は潜伏してもらうことにした。」
皆の視線が痛い。この中に、人狼陣営と狐陣営が6人も居るのだ。
玲が、微笑んで頷いた。
「卓哉なんだねー。じゃ、君が仕切って?」
卓哉は、顔をしかめた。仕切ってって、別に役職を出すだけだろうし…。
だが、頷いて口を開いた。
「その、オレはあんまりこういうの慣れてなくて。一応今から役職を出すことにするけど、潜伏してももちろんいい。でも、明日以降に出て来る時には、必ず納得できる理由をつけて欲しい。でないと、吊り逃れだと思って優先的に吊るから。それでいいかな?」
それを聞いた洋文が、頷いた。
「それでいいと思う。それで、どっちから出す?」
卓哉は、考えた。人外に不利な出方って何だろう?一斉に出るのが、きっと不利だったような気がする。
なので、卓哉は言った。
「一斉に出すよ。オレがいっせーのって言うから、役職者は、占い師は手をパー、霊能者は手をグーにして真っ直ぐに上に上げて。村のみんなは途中で変えるような仕草が無いかしっかり見ていて欲しい。多分、一斉出しの方が人外には不利だと思うんだ。」
それには、玲が何度も頷いた。
「僕もそう思う。じゃ、やろうか。みんな、準備はいい?」
皆が固唾を飲んで回りを見回す。
卓哉は、異様に緊張したような空気が流れる中、思い切って言った。
「じゃあ、役職を出すよ。いっせーのーで!」
パッと腕が上がった。
1…2…3…。
卓哉は、心の中で数えた。6本の腕が、しっかりと上がっていた。
しかし、その中には、雅也の腕は無かった。
…潜伏を選んだんだ。
卓哉は思ったが、冷静に言った。
「ええっと、そのまま。」と、一人一人確認した。「まずパーの手を上げてる人、6番莉子さん、14番修一さん、15番洋文さん。」
三人は、顔を見合わせてから、頷いた。
「そう、占い師だ。」
洋文が言う。卓哉は頷き返して、言った。
「腕を下ろしてください。で、次にグーの手を上げてる霊能者の人、10番有栖さん、12番真紀さん、13番玲さん。」
玲が、満足そうに微笑んだ。
「うん、そうだよー霊能者。という事は、占い師は二人居るから一人人外が紛れてて、霊能者には二人人外が紛れてるってことかなあ。もちろん、潜伏だって考えられるけどねえ。でもリスクが高いし僕は出てると思うー。」
洋文は、険しい顔をしながら、莉子と修一を見比べた。
「どっちがどっちかまだ分からんが、明日の占い結果で見るかなって感じだな。」
オレ目線だと二人が人外だなって感じなんだけど。
卓哉は思ったが、黙っていた。絶対に雅也が真占い師の内の一人だと信じていたからだ。こうして人外が二人、占い師の中に紛れてくれただけでも幸運だ。霊能者に一人、占い師に二人が居るという事は、6人も居る人外の内、半分が出て来ているということだからだ。
とはいえ、この村には狐も背徳者も居る。何より狐が厄介だ。それを何とかしない事には、人狼だって勝利することは出来ないだろう。
幸太郎が、慇懃に咳払いをすると、割り込んだ。
「ええっと、という事は、明日はまず霊能からローラーしたらいいってことだろ?」全員が、幸太郎を見る。幸太郎は胸を張った。「人外が紛れてるわけだから。霊能者は三人も居るじゃないか。ほんとは一人なんだろ?ここを吊って行ったら二人人外が落ちる。占い師は三人だし、一人だけだから後回しで。」
卓哉は、顔をしかめた。確かに普通なら霊能ローラーだが、玲が混ざっているのだ。卓哉目線では、霊能者より占い師の方が人外は多い。だが、それを明かしてしまうわけにも行かなかった。
「それは、明日以降占い結果が出て状況が少しでも見えて来てからでいいと思う。」卓哉は、脇から言った。「まだ、詳しい内訳も分からないし。とりあえず、占い先を決めたいよね。呪殺が起こった時に真占い師を特定できるから。一人でも特定出来たらその占い師を軸に考えられるから楽になると思うんだ。だから、今夜からどこを占うのか、二か所決めて公言しておいて欲しいと思う。妖狐は一人だから、真占い師が二人居るとはいえそれで特定できるのは一人になるけど。」
洋文が、考えるような値踏みするような目で皆を見回した。そして、言った。
「…いい考えなんだが、呪殺を出すと言うのなら、初日はとりあえず占い師の相互占いをしたらどうだろう。」
全員が顔を見合わせる。玲が、それにこたえるように言った。
「つまり、君は占い師に妖狐が出てると思っているってわけー?」
洋文は、頷く。
「そう。それで呪殺が出なかったら、背徳者が出てるかもしれないから、お互いが占った人を次の日にまた占うって形にして、絶対に呪殺を出す方向で考えようと思う。そうしたら、背徳者が狐を囲うことも出来ないし、人狼だってそれで見つかる可能性がある。狂人の囲いを防ぐことも出来るだろうから。その間に霊能をローラーして行けば、必然的に人外は減って行くと思うんだが。」
卓哉は、感心して聞いていた。洋文の意見は、どこまでも人外が嫌いそうな方法だ。とはいえ、今現在卓哉目線では占い師に人外が二人出ているので、その時点で狐と狼両方の陣営から騙りが出ているのは容易に推測出来た。
「…いい方法だと思う。」卓哉は、言った。「でも、きちんと考えて占い先と吊り先を選ばないと。狂人や背徳者を吊っている暇は無いし。7吊り6人外だから、真を吊っても大丈夫なのはたった一回なんだ。そこを見誤ったら大変だ。縄が足りなくなる。」
雅也が、頷いた。
「そうだよな。縄のためにも、狐は何としても呪殺で落としたいよな。でも、背徳者が一緒に居なくなるから縄の数は減るんだけど…狩人が一回でも護衛成功させてくれたら助かるよな。」
洋文が、息をついた。
「そうだな。じゃあ、効率的な占い先ってのを考えよう。今日からどこをどう占うのか、決めて行こうか。」
卓哉は、頷いた。
「じゃ、ちょっとメモを取るよ。みんなで意見を出して欲しい。」
卓哉は、いつも持ち歩いている小さめのシステム手帳を出した。
そうして、本格的な話し合いは始まった。




