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16号室は、他より少し大きい程度の部屋で、そこには無理やりぴったりとくっ付けてシングルベッドが12台も入っていた。

使っていないベッドもあったが、その12台のベッドに囲まれるように、真ん中に広く空いたスペースに、ボードゲームの箱が散乱していて、クッションがたくさん転がっていた。

どうやらそこに直に座って過ごしていたらしかった。

飲み終わったペットボトルが隅に袋に入れて置かれてあって、ゴミ袋が他にも有った。

ここで数日寿司詰めだったのは間違いないようだった。

散々女子達の文句を聞くはめになったが、卓哉は気持ちが軽かった。吊ってしまった人達も襲撃された人達も、ここで普通に過ごしていたのを知ってホッとしていたからだ。

とにかくボードゲームを持って下へ降りようということになったが、杏沙の文句はまだ続いていた。

「最初は一人っきりだったのよ!」階段を降りながら、プンプン怒っている。「その夜は襲撃に失敗するし。一人でゲームも出来ないから、寝てばっかりで夜眠れないし!明け方に真紀が来た時は嬉しくって飛び上がったわ。」

真紀が、ウンウンと頷く。

「そうよね、杏沙が飛び付いて来たからビックリしたわね。で、次の日に有栖が来て、次の日に莉子と真里と玲さんが来て…。」

杏沙は、何度も頷き返した。

「そう!ゲームの様子を見せてもらえるようになったのよね。それでちょっと退屈じゃなくなったのよ。」

洋文が、え、と杏沙を見た。

「え、ってことは玲はその時女子達の中で一人で過ごしてたってことか?え、夜も?!」

玲は、顔をしかめた。

「あのさあ、僕に何が出来たのさ。放り込まれたんだから仕方ないでしょー?別に何もなかったよー?」

真紀が、フフンと笑った。

「次の日は幸太郎さんと剛さんが来たわね。なんかね、襲撃された人とはずれるのよ。夜に吊られたら朝には来るんだけど、襲撃されたら次の日の朝に、その夜吊られた人と一緒に来るの。つまりはみんなに見られないように連れて来るから、襲撃されたら昼間はそのままほっとかれてたみたいね。」

太一は、頷く。

「次の日はオレと雅也だったしな。つまり今朝だけど。だからオレ達、今朝いろいろ知ったところでさ。明け方に防護服着てる奴らに起こされて連れてかれて、放り込まれたかと思ったら杏沙さんにまくし立てられて。で、まあ、モニターで朝から見てて負けを知ったってわけだ。オレが悪い、修一さんに信吾を噛めとか言って死んだから。ああもう終わりか、と思ってたら、また防護服の奴らが来て、賞金置いて説明聞いて…下へ降りたってわけだ。」

居間へと入って行きながら、卓哉は言った。

「じゃあみんな、別に痛いとか苦しいとかなかったのか?」

答えようとした雅也を遮って、杏沙が頷いた。

「全く!チクッとした?と思ったら部屋で寝てて、防護服の人達にせっつかれてあの部屋に放り込まれた感じ。しばらく理解が追い付かなかったんだから!」

雅也が、煩そうな顔をしながらも、同意して頷いた。

「オレも。目が覚めた時、あれ?って感じで。一瞬気を失ってた感じの時間感覚だったから死ななかったのか、と思ったら、体が重いのに防護服着てる男たちにせっつかれて16号室に追い立てられるように歩かされて。太一さんと二人で、ベッドに転がりながら杏沙さんの弾丸のような説明を聞いて、自分の状況を理解したんだ。みんなが深刻な顔をして、修一さんの話を聞いてる時も、オレ達はこっちからモニター越しに聞いてたよ。どうなるのかってハラハラしたけど、狼陣営だった杏沙さんも太一さんも、真紀さんも元気にしてるし、帰してくれないなんてないと思うけどなあ、とは思っていたけどね。」

卓哉は、思っていたほど犠牲者達が悲惨な状態では無かったことに、拍子抜けしていた。吊られて行った人や、襲撃された人たちのために、と意気込んでいたが、当の本人たちは気楽に過ごしていたのだ。

真里が、床に敷かれた絨毯の上にボードゲームの箱を置いて、蓋を開けた。

「ねえ、じゃあとりあえずの人生ゲームでもしない?お正月とかの定番でしょ?みんなが集まったらとりあえずこれ!」

玲が、片眉を上げた。

「人生ゲームって何?僕初めて聞いたよー。日本じゃお正月にそれをやるの?」

雅也が、苦笑して言った。

「どうかなあ。父さんや母さんはよくやったと言ってたけど、今はどうだろう。」と、真里の近くにどっかりと胡坐をかいた。「どれどれ、でも、コマの車が足りないんじゃないか?15個も無いだろう。」

真紀が、手を上げた。

「はいはい!ペアを作ればいいと思いまーす!玲さん、私が教えてあげるよー!」

杏沙が、腰に手を当てて抗議した。

「ちょっと!そこはじゃんけんよ、じゃんけん!」

玲が、困ったように言った。

「ペアで人生回るのー?うーん、この人数で出来るゲームにした方が良いと思うよお。もういっそ、人狼にしない?ほら、カードあるじゃん。めっちゃ豪華そうな仕様のヤツ。」

有栖が、黒い箱を拾って、玲に見せた。

「これ?なんかキラキラしてるやつ。」

卓哉は、それを見た。玲が、有栖からそれを受け取って中のカードを引っ張り出した。

「ほら、凄いでしょ?こんなの見た事ないよー。プラスチックの板みたいなのに、車みたいな塗装してあるのー。役職の絵柄もキラキラの粉みたいなのを使ってあって、これで人狼したいなーって。」

玲が、それを卓哉に差し出したので、卓哉はその表面に触れた。確かにすべすべと、こんな手触りのカードは初めてだった。

「オリジナルかな?それとも、金持ちの間じゃこれを使って人狼ゲームやってるんだろうか。」

修一が、うんざりと肩を落とした。

「人狼なあ。犠牲者達は違うかもしれないが、オレ達はついさっきまでやってたわけだし。ちょっと休ませてくれ。そうだ、飯!昼飯食ってから落ち着いたらやろう。今はオレはみんながゲームやってるのを見てるよ。好きにやってくれ。」

卓哉も、今からまた人狼ゲームをしようと言われても微妙な気持ちだった。やっと終わったんだし、ここはゆっくりして、修一の言うように何かに急かされずに食事をしたかった。

なので、卓哉もそれに頷いた。

「オレも。やっと終わったところだし…もうちょっと休みたいかな。何か温かいものをゆっくり食べたい気分なんだ。遊びたいのはやまやまだけど、ほんと疲れてるから。」

玲が、それには何度も頷く。

「そうだよねえ。僕達はあっちで気楽にしてたけど、卓哉たちはついさっきまで気を張り詰めていたんだもんねえ。じゃあ付き合うよ、キッチン行こう?」と、女子達を見た。「君達はここで遊んでて。僕と卓哉は共有者で裏で話し合ってたし、いろいろ話したいこともあるしさ。」

女子達は、えーっ!と残念そうに悲鳴のような声を上げた。

「玲さん、行っちゃうの?そんなあ。」

杏沙の声がしたが、玲は卓哉と雅也の背を押して、さっさとキッチンへと向かう。

その後ろから、ぞろぞろと修一や洋文、太一や信吾、剛も急いでついて行く中、出遅れた和也と幸太郎が、最後尾で捕まっているのが見えた。

「おい、ちょっと、卓哉!」

和也の声が聞こえたが、卓哉は玲に押されるままに、キッチンへと入ってそれから女子達の声は聞こえなかった。


玲が温かいパスタを作ってくれて、そこに入って来た男子たちに振る舞ってくれた。

昼食はそれを食べて、卓哉はほっと落ち着いた。玲は、初日から狼と狐の位置をほぼ当てていたみたいだ、と自分で言って笑っていたが、あの状況でどうしてそれが分かったのかと卓哉が何度も聞いても、玲は、勘だよ、と言って詳しくは説明してくれなかった。

説明しても分からないからなのか、細かく説明するのが面倒なのかは分からないが、勘などでは無いことは、卓哉には分かっていた。

頭の良い人というのは、自分の思考がそうでない人に理解できないことを知っていて、わざわざ説明をしないのだとどこかで聞いたことがある。

一般の人より飛び抜けて賢いということは、変に猜疑心を持たれたり、魔法のように思われたりと、あまり良い事ばかりでもないようなのだ。

卓哉は、玲にそんな風に思われているのかな、と思うと、少し寂しい気がしたが、皆が気にしていないようだったので、その場は皆に合わせて、談笑していた。

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