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発言精査は、遅々として進まなかった。
何しろ、常に洋文と修一の意見は食い違っていて、この二人が絶対に同陣営では無いのは明白だったが、その他のラインはと言われたら、特に目立って繋がっているようなものが見当たらない。
洋文も修一も、誰かとガッツリ繋がっているような感じは無く、二人が二人とも、狼だと言われたら知っていてそうしている狼だろうし、村人かと言われたら、特に計算も無いからそうなっている村人なのだと思わせた。
皆意見はコロコロと変わったが、それがまた村のように見えた。村人は何も分からないので、他の意見や占い結果に流されて、どうしても主体性が無くなるものなのだ。狼なら見えているものがあるので、ある程度一貫した感じに見えるものだった。
「二人とも、自分の占い結果に忠実に考え方を変えてるし、おかしいと感じる所が無いな。」和也が、ため息をついた。「迷ってる時もあるけど、村人ならみんなそうだ。オレは最初から修一さんの考え方に近かったから、真だと思ってここまで来た。でも、護衛成功の件…さっきの、狩人を探して潜伏位置を噛んだと言われたら、確かに真里さんはあんまり発言もしていなかったしどこか潜伏臭がしたよな。狐だったんだから、おとなしくしてただけなんだと思うけど。どうしても頭一つ抜けてたのが修一さんだったのは、護衛成功の事実だったんだが、そうなって来ると洋文さんと修一さんじゃ、フラットになった気がする。むしろ黒結果を出して、それを真っぽい有栖さんが証明している分、洋文さんの方がポイント高いっていうか。ま、最初だから真を取るために仲間を斬り捨てたと言われたらそうなんだけど、修一さんは占い師として仕事してないんだよなあ。」
卓哉は、神妙な顔をした。占い師として仕事をしていない…確かに、洋文は黒を早くに出して少なくても霊能の一人はそれを正しいと証明したし、雅也は呪殺を出して見せた。しかし、指定占いだったとはいえ、修一は白しか出していない。最終的に黒を出さなければまずい時になって、やっと出したように見えるといえばそれまでだ。
とはいえ、玲が指定した先を占っていたのだから、これは運の問題ともいえた。そこで疑うのはあんまりだろう。
「…それなんだけどさ。」卓哉は、メモ帳を閉じながら、言った。「占い先は玲さんが指定してたんだよね。だから、その中に黒や狐が居なかったら、呪殺なんか出せないんだからそれで疑うのはかわいそうなだとは思うんだ。でも、初日なんだよね。洋文さん、指定されてたのは杏沙さんと太一さんだったんだけど、洋文さん目線だと、今となっては両方とも黒だったんだ。修一さん目線じゃ、太一さんは白で、杏沙さんは黒だろう、って感じだよね?洋文さんが狼だったら、別に黒の杏沙さんじゃなくて、白の太一さんを占って黒にするか、もしくは無難に白にするかしてれば、狼は生き残れたよね?結果が白黒になるのは想像出来たはずなんだから、真目が上がるわけでもないし。それに仲間一人を差し出すって、攻め過ぎなんだと思っちゃうんだよなあ…。」
信吾が、卓哉の閉じたメモ帳を横から手に取って、それを開いた。そして、じっと視線を落としている。
和也がまた大きなため息をついた。
「それはそうだよな。霊能を噛んでないし洋文さんが偽装した疑いは晴れないけど、確かにそうなんだよ。どう見ても杏沙さんと太一さんだったら、強敵は太一さんだから、白だったらそっちを陥れた方がいいもんな。最終局面になってから、こうして対抗しなきゃならなくなるのに。」
卓哉は、また長い息をついた。疑い出したら疑わしくなる。どっち共が真で、どっち共が偽の要素があるのだ。
「…なあ、ここ。」信吾が、見ていたメモから目を上げて、指を差した。「玲さんが言ったこと。占い先指定の件だよ。卓哉、初日の占い先の決め方が、玲さんは人狼らしい所と、村人らしい所を、わざと二人ずつまとめて振り分けてる、って。それで、どんな色を出して来るのか見るために。」
卓哉は、それをチラと見てから、頷いた。
「ああ、そうなんだよ。玲さんが初日に時点で真だと思った方に二人、偽だと思った方に二人振り分けてるから、狼なら仲間の内どっちかが黒を打たれるのが分かってるから、偽者なら自分も黒を打って吊り回避させるんじゃないかって言ってたんだよね。でも、どっちも黒らしい所に黒、白らしい所に白を打って来たから分からないって…」
言って、卓哉はハッとした。そうだ、玲は言っていた。初日、つまり杏沙と太一が黒だと思ったから洋文に、剛と信吾が白かったから修一に占わせたということなのだ。
「え…じゃあ、玲さんは初日、発言から杏沙さんと太一さんが黒だと思ってたってことか?つまり、洋文さん目線と玲さん目線が、数日経った今一致してるんだな?!」
和也が、興奮気味に言う。しかし、まだ先を読んでいた信吾が、自信なさげに言った。
「そうなんだけど…玲さんは、あくまでも初日の発言から、って言っていたみたい。卓哉がそう書いてる。状況は刻々と変わるから、柔軟に考えを変えて行けって。ずっと同じ盤面なんてあり得ないから。」
卓哉は、しかし益々修一を怪しく思い始めていた。洋文目線は、ここへ来て玲の初日の推理を裏付けようとしていた。しかし、修一目線は、玲の考えとはずれている。太一は白、初日は疑われてもいなかった、幸太郎が黒なのだ。
「幸太郎は人外に出て来いと叫んでいたよな。」和也が、険しい顔で畳みかけるように言った。「杏沙さんが吊られて本当に死ぬんだと知った時だ。あまりの恐怖に、人外の方が少ないんだから犠牲になれって言ってたんじゃなかったか。あれは演技か?あいつは、恐怖の中で演技が出来るのか?…昨日の様子を見ても、パニックになって自分が人外ならそんなことは言えなかったと思うけどな。」
卓哉は、考えを固定してはいけないと思いながらも、洋文を疑っていた昨日とは違い、今日は修一が怪しいと思えて仕方がなかった。何より、玲が疑っていたのは間違いなく修一だ。
とはいえ、玲は三日目までしか見ていない。雅也の呪殺も、真里の狐も知らないままで死んで逝ったのだ。
今玲が生きていたら、どう考えていたのだろう…。
卓哉は、どうせなら自分が噛まれたら良かったのに、と爪を噛んだ。
そうやって堂々巡りの思考の中で、気が付くともう正午に差し掛かっていた。
信吾が、暖炉の棚の上に金時計を見て、うーんと伸びをした。
「朝から何も食ってない。さすがにまずいから、ちょっと何か取って来るよ。二人は?」
卓哉は、そういえば何も飲まず食わずだった、と和也を見た。
「どうする?そろそろ、いくら何でも上に上がった三人だって降りて来るだろうしな。昼飯食べたいだろうし。」
和也は、頷いた。
「だな。じゃあ、昼飯にするか?」
信吾が、立ち上がって先にキッチンへと向かって行く。卓哉も立ち上がって肩を回したりとストレッチしていると、信吾がキッチンへと消えたのを見てから、和也が小声のつもりだろうが、結構大きく聞こえる声で言った。
「…なあ、卓哉。」
卓哉は、なんだってそんなあからさまに内緒ごとを話すような言い方なんだろう、と驚いたが、和也を見た。
「え?なに?」
和也は、怪訝な顔をする卓哉に構わず、言った。
「信吾がうまくやってくれさえしたら、今夜は多分、襲撃は起こらない。吊り縄が一つ増えると思う。」
大真面目な顔で言う和也に、卓哉は目を丸くした。
「え、だって信吾は狩人じゃないって言ってたじゃないか。」
和也は、首を振った。
「多分、ああ言っておけば絶対雅也は噛まないって思ってたんだと思う。前日に守ってしまってたんだろう。剛が噛まれて熱くなってたから、自分が噛まれてでも村勝ちにするって思ってたんだ。でも、今日になって冷静になって、自分が生きてるのを知って、欲が出たんだよ。やっぱり素村だって言っておけば、狼は狂人かもしれないと思ったら噛まない。そう思ってるんじゃないかな。今日グッジョブ出そうと思ってるんじゃないか。何しろオレか卓哉の二択だからな。」
卓哉は、あり得ないことではない、と思いながらも、チラと扉の方を見た。洋文が出て行った後、扉が少し開いたままなのだ。この大きさの声なら、廊下まで漏れていてもおかしくはない。
なので、声を小さくして、和也にもそれを知らせようと言った。
「…なあ、だとしてもその話はここまでにしよう。信吾がそのつもりなら、助かるよ。今夜はオレかなって思ってたしね。とにかく狼に知られたらまずいし、また部屋へ帰ってからその話はしよう。居間じゃまずいよ。」
和也は、ハッとした顔をして、慌てて声をもっと落とした。
「…すまない。なんかつい気付いたから言っておきたくて。あとひと縄だって言ってたから…あり得るぞって知らせたくてな。」
卓哉は、頷いて和也をせっついた。
「じゃあ、キッチンへ行こう。昼飯だ。」と、元気に言うと、歩き出した。「食べなきゃ駄目だって玲さんにも言われてたんだった。しっかり食べて頭を働かせなきゃな。」
そう言って歩き出した時、背後の扉が大きく開いて、修一と太一が入って来た。その後ろには、洋文がかなり離れてこちらへ歩いて来るのが見える。
卓哉はそれを振り返って、まさか聞かれてないよな、と思いながら、ぎこちなく笑顔を作った。
「ああ、昼飯かな?午後からは自由にしててくれていいから。今日のところは結論は出てないけど、なんとなく話は出来たから。」
太一は、頷く。
「考えたら朝から飲まず食わずだったから、もう昼だし降りて来たんだ。話に整理がついたなら良かったよ。とはいえ、オレが吊られるのは変わらないんだろ?」
卓哉は、それには申し訳なさそうに頷いた。
「昨日幸太郎さんを吊ってるし、雅也が噛まれたからそれは動かないよ。明日の占い師決め打ちに賭けるしかないから、確実に最終日に行けるように太一さんには吊られてもらうしかない。」
太一はもう諦めているのか、フッと息を付くと、ハイハイと手を振った。
「分かってるって。もういいよ。玲さんが証明してくれたから、生き返るのは分かってる。後は頼むわ。」
太一は、そう言うと先にキッチンへと足を進めた。その後ろを、修一もついて歩いて行った。
洋文がそれを見てから、足を速めて卓哉達の前へと歩み寄った。
「すまない、なんかあいつらとはどうしても普通にできなくて。」
殺し合いをしているようなものなのだ。
卓哉は、頷いた。
「気持ちは分かるよ。でも、今日は太一さんを吊るし。洋文さんと修一さんには、明日頑張ってもらったらいいと思う。オレ達も…考えがここ数日で二転三転してるから、もう混乱しててね。整理はしたけど、また違う結論になりそうで。何が正解なのか、全部正解な気がして来た、って、そんな感じ。」
洋文は、それに頷き返した。
「ああ、思考をロックしてない方がいい。その方が、間違えないで済むと思うから。オレ目線では狂人はもう居ないし、明日半PPなんてことは起きないから大丈夫だ。修一目線じゃまだ居るかもなんだろ?でも、有栖さんは真だ。狼なんかじゃない。だから、杏沙さんが黒で真紀さんが狂人だったんだ。村人が間違えなきゃ勝てる。」
洋文は、本当にそう思っているようだった。視線が真っ直ぐで、嘘が無いように見える。
しかし、卓哉は洋文が普段どういう性格なのか知らないので、簡単に嘘が付けるような人柄なのかは分からなかった。
しかし、さっきの話し合いでも洋文は真のような気がする…。
卓哉は、これは感情で決めてる事になるんだろうか、と苦悩した。玲が、ここまでの結果を見てもまだ洋文を真だと思うのかどうかは、卓哉には分からなかった。




