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卓哉と信吾と和也は、重苦しい気持ちで顔を見合わせた。
洋文の感情が、たった一人残った狼の悲哀なのか、それとも占い師でありながら村に信じてもらえない悲哀なのか、分からなかったのだ。
卓哉は、そんな空気を振り払うように、メモを開いた。初日から書き貯めて来て、玲に書くだけでなく使わなければ意味は無いと言われたものだった。
「…じゃあ、流れだね?発言内容とかでなく?」
和也は頷く。
「それは後でいいだろう。とりあえず、初日から誰が吊られて誰が噛まれたのか見てみよう。」
卓哉は、初日のメモを見た。
占い師に洋文、修一、莉子が出て霊能者に有栖、真紀、玲が出た。共有者は卓哉。
二日目、洋文が杏沙黒、修一が信吾白、莉子が幸太郎白。潜伏の雅也は和也白。その日は満場一致で杏沙が吊られた。
三日目、襲撃は失敗。護衛先は修一。占い結果は洋文雅也白、修一太一白、莉子真里白。潜伏の雅也は剛白。霊能結果は有栖から杏沙黒、真紀から白。共有者の玲が素村スライド。真紀が吊られた。
四日目、玲が襲撃され、莉子、真里の二人も遺体で見つかった。占い結果は洋文和也白、修一は玲白、雅也が呪殺を出した事で出て来て真里白。これで真里が狐、莉子が背徳者で確定。玲が共有者だったと公表した。霊能結果は有栖から真紀白。有栖目線狂人が確定。霊能ローラーを完遂するために有栖を吊った。
五日目、襲撃先は剛。占い結果は洋文、太一黒、修一、幸太郎黒、雅也、信吾白。幸太郎を吊った。信吾が狩人CO。
六日目、雅也が襲撃され、占い結果は洋文、修一黒、修一、洋文黒。信吾が素村スライド。
そして今夜は太一を吊る予定だった。
「…何か違和感とかあるか?」和也がメモを覗き込みながら言う。「狼の噛み先…二日目夜が修一さん、三日目夜が玲さん、四日目夜が剛ってことだよな?次の日の朝に見つかったんだし。」
信吾が、うーんと唸った。
「そうだなあ。最後の剛は狩人を探して噛んだ気がする。でも二日目の修一さんは?狩人がそこを守ってたのも驚きだけど、狼もなんでそこにしたんだろう。どう考えても霊能を噛みたいところだろうし、占い師だってもし杏沙さんが黒なら洋文の真が透けてさっさと噛みたいところだろうし。そこで修一さんって…。霊能を噛まなかったのは、洋文さんがやっぱり黒結果を見せたい狼だっから?」
卓哉も、それには顔をしかめた。そう考えるのが確かに自然なのだ。だが、修一に噛みが通っていたら、残った莉子と洋文も疑われたはずだった。占い師に狼が出ていた事が分かった今、そんな危ない橋を渡ろうとするだろうか。
「…狩人は、何を思って修一さんを護衛してたんだと思う?今となっては剛が狩人だったと思うしかないんだけど、気になるな。」
卓哉が言うと、和也が、ムッツリとした顔で答えた。
「そうだな…オレは、多分捨て護衛みたいなもんだったんじゃないかって思うんだ。」卓哉と信吾が驚いていると、和也は苦笑した。「だって、あの日はあまりに護衛先が多かったじゃないか。霊能を噛むだろうことは誰もが予想していたし、ということは狼だってみんながそう思ってるのを知ってた。初日から護衛成功なんか避けたいだろうから、どこか別のところを噛みたいだろう。オレなら確実に噛めるところを探すと思う。狩人は、どうせ霊能か、あっても共有か黒出し占い師の洋文さんだと思っているだろう狼に、牽制の意味でとりあえず捨てるつもりで修一さんにしたんじゃ。」
信吾が、顔をしかめた。
「牽制って、それで霊能が噛まれていたらどうするんだよ。卓哉かもしれなかったし。」
和也は、肩を竦めた。
「だから知らないって。でも、オレはなんとなく分かったけどな。だって、噛んでくれたらラッキーじゃないか。役職から少なくとも狼が真だろうと考えている役職を噛んでくれる。狼目線の方が村人より多くの事が見えているはずなんだ。仮に洋文さんが噛まれたとしても、次の日洋文さんが真進行になるだろうし、そうしたら霊能だって自ずと真が透けて来る。だから狩人は、最初は役職を守らないでもいいんじゃないかってオレは思ってたぐらいなんだ。だって、そうしたら次の日真が確定した役職が居たら、自由に守れるんだもんな。だから、たまたま捨て護衛した修一さんに当たっただけなんじゃないかって。」
そんな考え方もあるのか。
卓哉は思った。確かに連続ガードがないし、あれだけの人数が出ていたら誰かを噛んでくれた方が分かりやすかったかもしれない。
しかし、信吾が言った。
「でも…だったら余計に修一さんはおかしくないか?」卓哉は、信吾を見た。信吾は続けた。「洋文さんが狼だったら、修一さんなんか噛んだらまずいじゃないか。普通は残して、自分の占い先に黒が出るのを知ってるんだから、真を取ろうとして来るはずだろ?だったら、確実に村人を減らして行く方向で最初は絶対噛みが通りそうな素村を狙うんじゃ。」
言われてみたらそうだ。
卓哉は、信吾に言った。
「じゃあ、やっぱり真里さんを噛んでたってことか?」
信吾は、渋々といった風に頷く。
「うん…だって、護衛成功したからってずっと思っていたけど、連噛みされなかっただろ?次の日は玲さんで。洋文さんが生きてるのもだけど、修一さんだってここまで噛まれずに生きてる。一度噛まれて護衛成功してるんだから、次の日は確実に噛めたのに。玲さんには、また護衛が入ってて成功したかも知れないんだぞ?なのに…ということは…どういう事だと思う?」
和也が、頭を抱えた。
「…分からんな。修一さんを陥れようとしてるとしたらそうだけど、洋文さんだって同じだ。占い師に背徳者と狼が出ていたのは確定だが、狼目線、まだ占い師は三人だった初日と違って、もし初日に真里さんを噛んでいたとしたら、修一さん守りを知った時、真里さんが狐だと知ったはず。そして莉子さんがその真里さんに白を出した時点で、莉子さんも騙りなんだと知ったんだ。だとしたら、潜伏占い師が居るのがその時点で透けていて、それが玲さんだと思ったってことか?…でも、玲さんはあれだけ疑われても役職を口にしなかったのに。そもそも潜伏してたらあんなに目立つ事はしないし、ヤバかったら狩人の護衛が入るように立ち回るだろうけど、そんな様子は全くなかった。逆に本当に素村で噛み懸念なんかしてないように見えたのに。」
卓哉は、玲を思い出して、途端に悲しくなった。玲は最初から噛まれる準備をしていたようだった。だからあんな派手な動きが出来たし、村人から見ても役職なんか無さそうに見えただろう。
「…分からなくなったな。」卓哉は、額に手を置いて言った。「そうなんだよ、修一さん噛みは不自然なんだ。よく考えたら、狼は狩人を探して最初は潜伏臭がする辺りを噛んだのかもしれない。それが真里さんだったんじゃ。修一さんが真でも偽でも、やっぱり護衛成功が出た訳じゃないかもしれない。それに…真里さんで狐が透けていたら、狼は潜伏占い師に呪殺を出された時のことを考えて、占い師なんか噛めなくなる。だって、洋文さんと修一さんの、どっちかを噛んでいたら、雅也が真で噛まれた方が真だとして残った占い師は全部偽者なんだ。生き残ってるからって疑うのも危ないし…考え直さなきゃ。」
和也が、うんざりしたようにまた、卓哉のメモを覗き込んだ。
「じゃ、次は発言精査か?また膨大に見えるんだが…。」
卓哉は、自分のメモに視線を落とした。確かに、片っ端から書き記していたから、物凄い量になっている。
「ここから、ラインを探すしかないってことか?」信吾も、面倒そうにびっしりと書かれてあるメモを見た。「でも、わざと切ってたりするだろうし、狼が狼らしい発言なんかすると思うか?」
そうなのだが、今はこの中から探すより、最終日の判断材料がない。
ここまで詰まって来ると、もう本当に賭けみたいなものなのだ。
卓哉は、ハアと息をついた。
「…洋文さんじゃないけど、狩人が生き残っていたらあと一グッジョブ出してくれたらなあ…。間違っても、縄が足りるのに。本当に、後一縄なんだよな。」
和也が、苦笑して頷いた。
「無いものねだりだな。今夜は誰が襲撃されて、誰が残るんだろうな。」
卓哉は、確実にこの中の内一人が噛まれる今夜に、息をついた。
もしかして狼目線狂人が残っている状況だとしたら、信吾か和也が判断が付かないだろうし、噛まれるのは恐らく、卓哉なのだ。




