24
今夜もまた、一人死んだ。
とはいえ、昨日の玲を見ているのだ。彼女は、仮死状態でしかない。村陣営なら勝てば一緒に帰れる。人外なら…彼女も、必死にだったのだ。自分を生かすために、村人を殺してでもここを出たいと思っていたのだろう。
卓哉は、お互い様だと思おうとした。だが、そう思うには相手が黒なのか何なのか、全く情報が無かったのだ。
「卓哉、大丈夫か?」雅也が、夜食用にと食べ物と飲み物を持って、訪ねて来た。「ほら、水とパン。また腹が減った時にいつでも食えるから。」
卓哉は、雅也に感謝して、それを受け取った。
「わざわざ部屋まで持って来てくれたのか。ありがとう。」
雅也は、頷いて出て行こうとした。卓哉は、それを引き留めた。
「あ、雅也。」雅也は、戸を開く前にこちらを振り向く。卓哉は続けた。「占い先だけど。」
雅也は、分かってるという風に手を振った。
「ああ。玲さんから、真里さんを占えって言われてるから。他は二人指定なのに、オレだけ一人かよって思ったけどな。ま、あの人の言う通りにやってればきっと大丈夫なんだ。だから、今夜はそこを占うさ。」
卓哉は、頷く。玲との打ち合わせ通りだ。
「頼んだよ。玲さんが言うには、明日が第一の正念場だって。第二第三があるのかと思ったらうんざりだけど、一緒に切り抜けよう。」
雅也は、微笑んで頷いた。
「任せとけ。って言っても、オレも番号を入力して結果を見て、後は朝を待つだけなんだけどな。」
卓哉は、笑った。
「それだけで結果が来るんだから特権階級だよ占い師は。オレも、ただ村人だって分かる役職なんていらなかったのになあ。もういっそ村人だったらよかった。」
雅也は、部屋の戸に手を掛けながら、声を立てて笑い返した。
「ハハハ、村人だったら何も分からない、襲撃されるかもしれない、もうやだーってなってたんだって。占い師だって大変だぞ?自分をどうしたら真に見てもらえるのか、試行錯誤の毎日だからな。オレも明日は出ないとなあ。…じゃあな。もう消灯時間だ。」
雅也は、言うだけ言うと、戸を開いて出て行った。
卓哉は、雅也から受け取ったパンを机の上に置いて、天井を見ながら寝転がっているうちに、そのままその日は、11時を待つことも無く眠り込んでしまったのだった。
しかし人狼達は、そんな中でも部屋を出て話し合い、誰かを襲撃しているのだ。
朝、卓哉は生きていた。
目覚めて生きていたことを喜ぶべきなのだろうが、自分が襲撃されなかったのか守られなかったのか分からないので、手放しで喜ぶことももはや出来ずに、卓哉はじっと閂が抜けるのを待った。
6時…後2分。
すると、時間ぴったりにバチンという音がして、鍵は開いた。
卓哉は、勢い良く戸を開いて外へ飛び出した。
「みんな生きてる?!」
廊下に響き渡る声でそう叫ぶと、一斉に飛び出して来ていた皆が困惑気味に顔を見合わせた。
「…玲さんが居ない…それに、莉子さんは?」
雅也が言う。有栖の声が言った。
「真里もよ!」
卓哉は、急いで玲の部屋へ足を進めた。
「オレは玲さんを呼ぶ。有栖さんは女子の確認をして!」
有栖が頷くのを見ないで、卓哉は玲の部屋の戸を開いて飛び込んだ。
「玲さん!」
玲は、ベッドで眠っていた。
特に乱れた様子もなく、ただ普通に横を向いて足を軽く折り曲げ、腕は自分を抱くように軽く前へ垂れていて、見たところぐっすり眠っているようだぅた。
「…玲さん」卓哉は、ほっとして近寄った。「朝だよ。」
顔を覗き込んで、卓哉は違和感を感じた。唇が青い…?
「玲さん?!」卓哉は叫んでその肩を揺さぶった。「玲さん!」
冷たい。
卓哉は、それに気付いていた。後ろから入って来ていた修一が、卓哉の叫びを聞いて足早に近付いて来た。
「待ってくれ、オレが見る。」
卓哉は、ガクガクと震えた。玲が…玲が噛まれた。多分そうなのだ。昨日の様子から、狼はグレーを噛まないと思っていた。修一が襲撃されるのだとばかり思っていたが、狼は目障りだったのか、玲を襲ったのだ。
そんな卓哉の横をすり抜けて、洋文も玲に歩み寄った。そして修一と二人で顔を見合わせると、息をついた。
「…死んでる。襲撃されたのか。」
修一は、首を振った。
「分からない。オレは昨日玲を占って白を見てる。もしかして、狐だったんじゃないのか。」
洋文は、険しい顔をしながら、答えた。
「お前を噛まなかったのは、お前が玲を占うのを知っていたからなのか。前日に玲を噛んでいたから玲が狐だと知っていたとしたら分かるな。」
そこへ、有栖と和也が駆け込んで来た。
「莉子も真里も、死んでるの!寝ているみたいだったのに…二人共!」
洋文は、頷く。
「じゃあやっぱり玲で呪殺が出たんだな。莉子さんが襲撃されたのか真里さんかは分からないが、どっちかが背徳者だろう。二人とも占い師の占い先指定に入っていなかったんだ。」
修一は、黙っている。
卓哉は、神妙な顔をする皆に向かって、震える声で言った。
「違う!」そして、力強く言った。「雅也だ!雅也が、真里さんを呪殺して背徳者は莉子さんだ!玲さんは襲撃された!」
修一がグッと眉を寄せた。皆が訳が分からない顔をするのに、雅也が頷いた。
「そうだ、オレが占い師だ。潜伏していたが、初日の役職公開の前に共有者二人に話していたんだ。だから潜伏を選んだ。偽者の占い師へのトラップだ。昨日、オレは真里さんを占えと言われていたんだ。」
しかし、和也が納得がいかない顔をした。
「でも、昨日修一さんが玲さんを占ってる。どっちの呪殺なのか、まだ分からないじゃないか。」
卓哉は、冷たく動かない玲を見ながら、我慢しきれずに涙を流した。玲は、知っていたのだろうか。多分、知っていた。自分が襲撃されるのを。だからこそ、昨日あれだけ言い合っても、共有だとは言わなかったのだ。
「…玲さんは、オレの相方なんだ。」卓哉は、嗚咽を漏らしながら言った。「共有者なんだよ。初日、雅也が真なのかまだ分からないと言って、共有だとバレた自分を守るために霊能を騙って出た。様子を見ていたんだ。昨日、雅也に真里さんを占えと言ったのも玲さんなんだ。こうなることを、知っていたんだ。雅也は真占い師だ。」
全員が、息を飲んだ。
玲が、共有者だったのだ。
という事は、修一の呪殺はあり得ない。玲は襲撃されたからこそ、今日は死んでいたのだ。これは、修一が真であろうと、雅也が真であろうと変わらない事実だった。
次に、昨日の占い指定先だ。修一には玲と幸太郎、洋文には和也と太一、そして死んだ莉子には剛と雅也だった。
修一は、玲に白を出している。破綻はしていない。
「洋文さんは?どっちを占って、結果は?」
洋文は、深刻な顔で頷く。
「和也を占って、白。有栖さんの結果は?」
有栖は戸惑いがちに言った。
「真紀さんは白。私目線、今日の様子を見ても彼女は狂人だったということよ。」
三死体が出ているのだから、狐、背徳者、村人が居なくなったのだという事になる。なので、有栖目線からすると、自分が真なので偽で白が出た真紀は狂人しかないのだ。
なぜなら、真紀も莉子も誰の占い指定にも上がっていなかったので占われているはずはなく、上がっていたのは真里で、真里を占ったという雅也、そして昨日真里を占って白を出している莉子と、誂えたように材料が揃っていて、一気にいろいろなことが分かったような状態だった。
「…ということは、真里さんが狐だったんだ。だから一昨日莉子さんに指定された時落ち着いてたんじゃないのか。雅也が真なのが確定した。ということは、修一さんか兄さんのどっちかが狼なんだ!昨日、玲さんが占い師に狼が居るって言っていたのはこの事だったんだ!玲さんには、いろいろ見えてたんじゃないのか。卓哉、他に聞いてないのか?!」
幸太郎が、興奮気味に叫ぶ。
言っていたこと…。
卓哉は、混乱していた。何を言っていた…?たくさん話していたけど、すぐには出て来ない。
「…ごめん、オレ、今ショックで頭が回らない。」卓哉は、動かない玲の方へ視線を移した。「何もかも話してくれてた訳じゃないんだ。居なくなった時のために、自分で考えて行かないとって。手帳に書いてる事を読み返して来る。みんな、8時に…居間へ来てくれないか。」
全員が、顔を見合わせた。玲が居なくなったというのに、皆のショックはそれほどでもないらしい。二日目からのいろいろで、慣れて来てしまっているのを感じた。
「じゃあ、後で。」修一が、皆を促した。「さあ、飯でも食って話し合いだ。死んだんじゃないんだ、勝てば帰って来る。玲が復活したのを見たじゃないか。行こう。」
そうして、皆がぞろぞろと出て行くのを、卓哉は棒立ちで見送った。玲はまだ、まるで眠っているかのような様子でそこに居る。
だが、胸も腹も、呼吸で動くことはなく、死んでいるのは変わらなかった。
「さ、行くぞ、卓哉。」最後に残った、雅也が言った。「玲さんとの約束だ。昨日言ってたじゃないか。これでオレだって死ぬぞ。お前がしっかりしないと、誰がオレ達を生き返らせるんだよ。」
卓哉は、流れて来る涙を無理に拭い、雅也を見た。そして、頷いた。
「そうだな。玲さんはこうなることを予測してたんだ。雅也が呪殺を出すだろうことも。それにきっと…残りの狼の位置も。でも、いったいどこだ?」
雅也は、苦笑して首を振った。
「オレには分からないよ。占ってみないことには。オレの白は剛、和也。そして真里さん白で呪殺が出て莉子さんも白人外。オレのグレーの中に、残りの狼は居る。」
卓哉は、頷いた。これで偽者の占い師がどちらか分かるはずだ。玲より情報が多くなったのだ。絶対に自分にも残りの狼を見付ける事が出来るはずだ!




