22
夕方の話し合いを前に、玲が卓哉を訪ねてやって来た。珍しく一人ではなく、雅也を連れている。
卓哉は、驚いて玲を見た。
「玲さん?雅也を連れて来たの?」
玲は、頷いた。
「君が参って来てるみたいに見えたからね。でも、これからもっとつらくなると思うんだ。だって、明日になったら誰が襲撃されてるか分からないじゃないか。でも、思い出して欲しいなって。僕、生き返っただろ?だから、勝ったら誰が死んでも、戻って来れるんだよ。これから、誰かが死ぬのをいっぱい見ると思う。でも、君が死なない限りは見てしまうのは仕方ないことだと思う。君には生きてみんなを蘇生させる役目があるんだからね。明日には…多分、雅也も占い師として出る事になると思うんだ。そしたら、きっと雅也も襲撃される。僕達を背負ってって重いかもしれないけど、でも君にしか出来ないと思うから。必ず生き返らせて。死んでるんじゃなくて、仮死状態なんだよ?だから、死んだって落ち込んだりしないでよ?」
卓哉は、それを聞いて表情をこわばらせた。玲も、雅也も死ぬ…確かに、そうかもしれない。自分はみんなの意見をまとめているだけで、大した意見を出していない。共有者というだけで、玲ほど村に貢献しているとは思えなかった。
「守ってもらえたら生き残れるんだから!オレより、玲さんや雅也を守ってもらうように狩人に言えば、きっと…」
玲は、苦笑して首を振った。
「駄目だよ、連噛みされて絶対僕が殺されるから。君は、淡々と場を動かす力があるんだって。だから、最後の最後で間違いさえしなければ、そのままで勝てる。自分を信じて行けばいけるよ。」
雅也は、頷いた。
「オレ、玲さんと話したんだけど、片白で残ったら困りそうな所を明日占うよ。あんまり発言がなくて色がつきにくそうなとこ。だから、オレが死んでも結果を使って蘇生させてくれたらいいから。大丈夫だって、オレ達同陣営だから。オレから見たらお前さえ勝ってくれたら確実に帰れるんだ。お前からは、まだ信じられないかもしれないけど。玲さんは、信じてくれたよ。だから、卓哉を元気付けに行こうって声を掛けてくれたんだ。」
卓哉は、驚いて玲を見る。玲は、笑った。
「君が信じようと思った人でしょ?僕もだから、雅也が真に賭けてみようと思ったんだ。大丈夫、雅也は明日、呪殺か黒を出す。君は一人じゃないからね。」
卓哉は、頷いた。雅也を信じる…そうだ、初日はあれだけ人外なんてあり得ないって思ってたじゃないか。真が一人居るのが分かってるんだから、それに頼ろう。
「…分かった。落ち込むのはやめにする。人外だって、村人が生き残れなくなるのが分かってて本気で勝ちに来てるんだ。オレも村人を助けるために頑張るよ。落ち込んでなんていられないな。」
玲が、満面の笑みで頷いた。
「そうそう。それで…占い先だけど」玲は、急に真剣な顔になった。「やっぱり指定しよう。二人ずつだ。僕が決める。いい?」
卓哉は、頷いてメモを取り出した。
「うん。頼む。」
玲は、誰に誰を指定するのか話し始めた。
卓哉は、それを黙々と書き記して行った。
午後6時、全員が緊張気味に居間へと集まった。
有栖は、手にしっかりと紙を握りしめて、自分が何を言うべきなのか決めて来たらしい事が伺える。
真紀は青い顔をして、ただ手を握りしめて目の前の床を見ていた。
卓哉は、メモ帳を開いて、言った。
「霊能者の弁明の前に、占い師の占い先を指定する。」
修一が、眉を上げた。
「今日は占い師に決めさせるんじゃなかったのか?」
卓哉は、首を振った。
「今日まではこちらから指定するよ。まだ完全グレーが残ってるからね。」と、メモ帳を見た。「莉子さん。雅也か剛。修一さん、玲さんか幸太郎さん。洋文さん、和也さんか太一さん。」
洋文は、息をついた。
「全員に完全グレーを振り分けて片白もってことか。これで呪殺は出るかな。」
修一が、眉を寄せて言った。
「…出ないんじゃないか。玲も幸太郎もオレから見たら今のところ白い。こんなに悠長にやってて大丈夫なのか。」
卓哉は、怯む事無く言った。
「それでも一歩一歩詰めて行くしか無いと思ってる。洋文さんが真かどうかは別として、杏沙さんは黒だったんじゃないかって思うんだ。昨日、人外が吊れてるとしたら、まだ縄に余裕があると考えてる。今完全グレーを無くしておくことは、最終日に騙りの占い師を破綻させるのに役に立つと思うから。遅かれ早かれ占い師の誰かは噛まれるだろうし、絶対確定白が出来て来る。狩人が潜伏してくれてるしオレの相方も居る。偽者の占い師を最後まで生き残らせないために必要なことだと思ってる。」
修一は、黙った。皆が、何やら卓哉の圧力が変わったと思っていた。断固として勝ちきる意思を感じるのだ。
卓哉は、そんな空気に気付かないのか、修一も洋文も黙ったので有栖と真紀を見た。
「じゃあ、霊能者の弁明を聞こうか。どっちから行く?」
この場合、先に弁明した方が不利になりそうだった。後からの方が、言い返す事が出来るからだ。
しかし、有栖が言った。
「私から話すわ。」その目には、自分が真霊能者だというプライドが透けて見えた。「その方が真紀さんも話しやすいだろうから。」
卓哉は、真紀を見た。真紀は、まだ青い顔をしていて、何も言わない。
卓哉は、有栖に頷いた。
「有栖さんから、どうぞ。」
有栖は、頷いて手元のメモらしき物を開いた。しかしそれには目をやらずに、話し始めた。
「…昨日、霊能者は三人だったわ。その時点で、村の総意は玲さん真霊能者という事だった。でも、私目線から見ても、玲さんは白かったの。それで、私は村に初めて、玲さんが村騙りではないかって意見を出したの。それで初めて、村の意見が玲さん真と私真に分かれたはず。それは覚えてる?」
卓哉は、メモを見ながら頷いた。
「うん、書いてあるよ。そこまでは、玲さんが真という意見が多くて、有栖さんも真っぽいけどって悩む感じだったんだよね。有栖さんが発言して、初めてその意見が出た。実際、今朝玲さんが村スラしてそれが間違っていないことが証明されたけど、それまでみんな半信半疑だったし。」
有栖は、頷く。
「私には、自分の真が分かっていたわ。だから、玲さんが村っぽいことを見たら、そう判断するより無かったってこと。私の発言の後に、玲さん本人がそういう思考が出来るのは真っぽいと言ってくれたけど、私も後からそう思った。自分目線で話してたからそうだったけど、確かに人外目線だったら、他の二人の内一人は真なのを知っているから、どちらも黒塗りしておかないと自分が危ないんだもの。真紀さんは、どっちも偽だからそんな考え方をするのはおかしいって言ったわ。私はそれを覚えてる。」
確かに、卓哉のメモにはそう書いてあった。しかし、普通に考えたらみんなそう言うので、それだけで偽だとは言えない。どちらかと言うと、有栖が村騙りを言い出したことが、それが正しいと証明された今、真っぽい意見だった、と思わせる材料になっていた。
玲が言った。
「うん、それは昨日も鋭いなあって思ったよ。でもね、本当は気付いても言ってしまったら駄目なんだよね。結果的に今日、護衛成功が出てるから良かったけど、僕は自分が出来るだけ真目を取って狼の噛みを惹き付けて、あわよくば狩人の護衛も引き付けようかなって、狼の噛み先を迷わせるようなことをしたかったんだ。なのに、それを皆に言ってしまって、狼までそれに気付いたから、僕が噛まれる可能性が下がったと思うんだよねえ。狩人だってそれを気取ったから、多分修ちゃんを守ったんだと思うし。まあ、結果として良かったから、別にいいんだけどさ。」
それには、有栖も一瞬、戸惑うような顔をした。言われてみたらそうだったからだ。
とはいえ、狼にしたら噛み先には大分迷っただろうから、良かったといえば良かったのだと思えた。
「それは…確かに、言わない方が良かったのかもしれないけど…。」
和也が、言った。
「ま、でもそれが結果として有栖さんの視点を知る事になったから、良かったんだよね。視点が真だと思ったら、オレ達だって判断しやすいから。」
卓哉は、それはそうだと思って、頷いた。
「そうだね。オレも知りたいのはその人の視点だからね。話をしてくれないと、どういう風に判断してるのか分からないから、偽か真か分からないんだよ。視点がおかしいと思うことで、怪しむ事が出来るし、視点が合ってると思うことで、真だと判断できるのに、何も言わなかったらこっちも情報が無い方を、どうしても怖いから吊るって事になってしまうもんね。」
真紀が、それを聞いて吹っ切ったように青い顔のまま、強い声音で言った。
「みんながみんな、有栖さんを庇うようなことを言うのがおかしいと思うのよ。私は、真としてもおかしいことは言ってないと思うわ。私目線、昨日の時点で二人とも偽物だったんだから、そう言ってもおかしくないでしょう?私から見たら、今朝も言ったと思うけど、二人で私を陥れようとしているようにしか見えないわ。玲さんはグレーなのよ?頭のいい玲さんのことだから、昨日から考えてわざと人外に不利な進行をして、自分の村目を上げていたと考えてもおかしくはないわ。狂人が狼を助けようとしているのかもしれないわよ?狂人なら、撤回して疑われても占って白が出るもの。私に味方がこんなに居ないのに、どうして私が人外だと思うのかしら。狐だったとして、背徳者はまだ生きているはずよね?自分だって死ぬのに、私を庇わないわけないじゃないの。私は、人外の陣営に陥れられようとしてる、真霊能者よ。誰か一人でも、私を庇った人、居る?」
皆が、顔を見合わせた。確かに真紀は、孤立無援なのだ。それは、卓哉から見ても気の毒なほどだった。
しかし、人狼に見捨てられている狂人、としたら、恐らくそうなのだろうと思えたし、狐だって真を取れない背徳者を、そのまま見捨てることもあり得ると思えた。
しかし、修一が言った。
「…そうだなあ。言われてみたら、誰も庇ってない。狐かと言われたら、違うだろうと思う。だが、狂人か背徳者だったら分からない。これだけ真を取れてないなら、白人外は見捨てられてもおかしくはないからな。他に、君は自分が真だってアピール出来る点はあるか?」
真紀は、思いもかけず自分の言い分も聞いてくれそうな様子だったので、修一を見て何度も頷いた。
「まず、私は杏沙さんに白を出したわ。杏沙さんは狼じゃなかった。背徳者が死んでないから狐でもないと分かったわ。だから、洋文さんが偽だと知った。それに、狼はどこを噛んだの?みんな、修一さんを噛んでないと言うけど、そんなのわからないわ。狩人ですら、洋文さんを守っていないじゃないの。狼が、昨日の黒出しで洋文さんが偽だと知って、他の二人を真だと分かって、残したら手強そうな修一さんから噛んだんじゃないの?狼の噛み筋をしっかり見てよ。私を偽だと思い込むから修一さんで護衛成功が出て無いなんて思うのよ。素直に考えて。私は、修一さんで護衛成功が出てるんだと思うわ。もし今日修一さんが死んでたら、みんな洋文さんの真を追ったの?黒を出した有栖さんを真だとまだ思えてた?そうでしょ?普通なら洋文さんを噛むはずなのよ。なのに、修一さんで護衛成功が出てるのよ。それが、私が間違っていないって証明だと思うわ!」
卓哉、う、と思わず唸った。
真紀が言うことは、もっともだ。
そもそも、黒を出したからと洋文が真だとは限らないのだ。それを真っぽい有栖が証明したから、皆が信じる事になっているが、死体無しで修一護衛。修一を噛んで来るはずはないと霊能ローラーを押していたが、真紀目線だと修一噛みは必然だった。
何しろ、洋文が黒を出して人狼に自分が偽だとアピールしたからこそ、人狼は修一を噛んだのだという見方が出来るからなのだ。
真紀から見て、それが自然で、視点におかしいことは無かった。
有栖は、脇から急いで言った。
「黒よ!杏沙さんは黒だったわ!洋文さんは真占い師よ!狼目線、玲さんや私、それに黒を打った占い師には護衛が入ってるかもしれないから、他の占い師を噛んだ可能性もあるわ!修一さんで護衛成功してても、私の目線でもおかしくはないわよ!でも、狐噛みされた可能性があるって村が言うから、霊能ローラーでも仕方がないと思ったんじゃないの!」
真紀は、有栖を見た。
「不自然だと思うわ。私の結果の方が自然じゃないの。素直に考えたら分かるのよ。みんな難しく考えすぎだと思う。私目線、修一さんで護衛成功、洋文さん偽、なの。」
全員が、水を打ったように静かに黙り込んだ。
今の今まで、有栖が真で真紀が偽だと思っていたが、話を聞いてみると、真紀の方が普通なら自然だと思われる考えだったからだ。
村は、有栖が真だろうという空気の昨日と、洋文が真だろうという空気の昨日からの流れで、今日の結果が二人で揃ったので、それでこの二人のラインで間違いはないと思ってしまっていた。
だが、修一で護衛成功が出ているのだとすると、真紀視点の方が遥かに分かりやすくて自然だった。
卓哉も、ここまで順調だった吊り先が、今の一瞬で真っ白になってしまい、混乱していた。




