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俺だってドラマみたいな恋がしてみたい!  作者: 満点花丸
第二話 いつもの日常と非日常
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八話

 それから少しいたたまれない気持ちになり、授業の内容が頭に全く入ってこなかったが、連続した二つの授業が終わり昼飯の時間になった。

「嘘野くん、今日は一緒にお昼を食べましょう?」

「いやだね、飯なら春原くんと食べてもらえる? 鈴木太郎くん」

「では、そのお願いも聞いてあげられないわね、私、三条舞って名前だもの」

 俺は苦笑いを浮かべながら、席を立ち上がり、舞ちゃんと共に学食へ向かう。

 そろそろ鈴木太郎くんも鮮度切れだな、また何かネタを仕入れてこよう。

 学食にたどり着くと、すぐに座席を確保し食事を手に入れに行く。

 この学食は周辺に固まる理学部や文系学部の生徒が利用しているため、席を取っておかないとこの時期はとてつもなく混雑している。

 来年にもなれば永佳とも一緒に食事をとる機会も増えるだろうか、と思いながら俺は本日のランチを注文し、取っておいた席に戻る。

 そして、舞ちゃんも同じものを注文し席に戻ってきた。

「それより、さっきはありがとな」

「いいのよ、他意はないわ。それより本物の彼女さんとはうまくいっているのかしら?」

「あれ、舞ちゃんに言ってなかったっけ? この間別れたよ」

 舞ちゃんは俺のその言葉を聞き、少し心配そうな顔で俺の顔を見つめてくるがすぐにその顔を崩し小さな笑みと共に味噌汁を啜る。

「なんだよ、その笑みは」

「いいえ、別に。それならこのまま私と付き合っていることにしておいたら何年も嫉妬の渦に巻き込まれなくて済むわね」

「助かる。けど、いずれは永佳と付き合いたいと思ってるのは本当だ」

 舞ちゃんは少しむっとしながら、

「いつまでも過去の幻影に縋りついているなんて、本当にあなたはどうしようもない子ね」

 と言ってくる。

 舞ちゃんとは中学生の時からずっと同じ学校同じクラスという意味の分からないほどの腐れ縁だ。

 だからこそ、元アイドル夏目永佳、モデルのEIKAの正体が俺の幼馴染であることも俺が教えているから知っている。

「舞ちゃんの優しさには頭が上がらないよ。そんなこと言ってくれるならもういっそ本当に付き合っちゃう?」

「いやよ。適当にそんなこと言われて付き合う人がいると思う? そうね。実際に私と付き合いたいなら、今すぐここで、舞ちゃん愛してる! ラブラブ愛してる!!って叫んでくれたら考えないこともないわ」

 はは、なんだそれ。こんなに騒がしい学食だというのに、舞ちゃんのその興奮したかのような通る声のせいで色々な人がぎょっとして俺らの方を見てくる。

 苦笑いをしながら、頭を下げ、俺は白身魚のフライを頬張る。

「無理なら、仕方ないから肩書彼女で甘んじておきましょう。もちろん、あなたがこの先いろんな人に虐められるのが可哀想だなぁって思っていっているだけなのだけれどね」

 肩書彼女ってなんだよ、セリフがツンデレみたいでいちいち面白いなぁ。

 さすがは舞ちゃんだ。

「まぁ、考えておくよ。気が向いたらやってみることにする」

「明日以降だと、今すぐ舞ちゃんを抱きたい、ううぅ、むらむらする、抑えられないだめぇええ、に変わるわ」

 顔色一つ変えずに声だけで興奮した男のセリフを表現している舞ちゃんは遠くから見たらやはり深窓の令嬢のようだけど、言っている中身は相当にゲスだった。

「俺が悪かった。俺とそんな関係になることがありえないというのをとても遠まわしに言ってくれてありがとう」

「いいのよ、私たちの仲じゃない」

 うん、なんだかとても説得力があるようで、俺にはその話のつながりがわからない。

 ところで残念ながら、学科の仲のいい友人はこの三条舞だけなのだ。

 俺と舞ちゃんの関係は本人が言ったように、俺が忘れ物をしたときに世話を焼いてくれたりするくらいの関係で、大学に入るまではお昼を一緒に食べるとかそういうことはあまりなかった。

 例えば高校の古典の授業で、教科書を忘れた俺があてられたときに舞ちゃんは、

『こ、き、く、くれ、こ』

 とわざとらしく咳をしながら助言をしてくれくらいの関係でしかなかった。

 ちなみに俺はそのとき、か行変格活用の連体形「く」を答えなければならなかったのだが、わざと連用形の「き」と答えたら、舞ちゃんはハトが豆鉄砲を食らったような顔をしていたっけ。

 あの時は深窓の令嬢と呼ばれるほどの綺麗さも見失ってしまうほどの表情で俺もとてもいい気分になれた。

 それって元々めっちゃ仲いいじゃんと思われるかもしれないが、それが世話焼き体質の舞ちゃんなのだ。

「久しぶりに幼馴染の永佳ちゃんに会えて舞い上がっているのもそろそろ落ち着いて、新歓合宿の話をしましょう」

「あぁ、そう言えばそうだな。場所ももう決めとかないとな」

 実のところ舞ちゃんも学祭実行委員会をやっていて、しっかりしすぎているせいか去年から会計などの多くの仕事を任されている。

 俺と舞ちゃんは新歓合宿の幹事を任されているのである程度の予算を決めて、新入生歓迎と実際の仕事を説明、すぐに夜まで仕事をするというような地獄の合宿の行先を決めなくてはならないのだ。

「でも、交渉とかめんどっちいし、例年通り青少年のなんとかでいいんじゃないか?」

「私はそれでもいいけれど、来る先輩たちは今年盛大に宴会をしたいって言ってたじゃない。未成年の一年生を宴会に巻き込むのは忍びないけれど、先輩たちの望みを叶えてあげるのも後輩の役目じゃないかしら?」

「そうだけど、あんまり激しくやりすぎて変なことになったら困るのはマックスだぞ?」

「先輩たちもさすがにその辺の常識はわきまえているから大丈夫よ。変なことをし始めたら、私が止めるわ」

「まぁ、そこまでいうなら……。じゃあ、ある程度の候補はこの後の講義の時にでも探しておくから、実際の場所はまた後で決めよう」

 例年通りにしないのであれば、ある程度の候補を立て周辺の宿泊施設の値段や交通費などを試算し、適切な個所を選ばなければならない。

 それに一日目は別の土地から来た子たちのために観光も用意する必要もあるし、観光できそうな場所の近くを選ぶ必要もあるだろう。

「それで予算だけれど……」

 俺と舞ちゃんはそのまま予算の話し合いをしながら、食事を済ませ、続きの講義に出席した。

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