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俺だってドラマみたいな恋がしてみたい!  作者: 満点花丸
第二話 いつもの日常と非日常
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七話

 永佳に大学を案内してからは怒涛の日々が続いていた。

 三人所帯になったおかげで家事の仕事が減ったのは幸いだったが、マックスと俺は学祭実行委員会の新歓に向けてなかなかに充実しすぎた日々を送った。

 そのせいか永佳のことはほとんど構ってやれることもなく、ラッキースケベ的な展開やドキドキ同居生活のような展開もなく、気が付いたら永佳の入学式が終わっていた。

 入学式に参列するためにこっちまでやってきていた永佳の両親が今の状況になってしまったことに対して挨拶をしに来ることはあったが、おおむね事件はなく永佳が初めて大学に行く日が訪れた。

「灯貴、一限あるって言ってたでしょ? 一緒に行こうよ」

 永佳が作ってくれた朝食のタマゴサンドを頬張っていると、大学へ行く準備が整った永佳は俺にそういってくる。

「いいけど、俺は理学部だから自転車で行くぞ?」

「じゃあ、後ろ乗せてよ」

「道路交通法違反、この時期は警察も雪が溶けて自転車通学し始めた学生を狙った点数稼ぎしてるから絶対ダメ」

 とはいっても、永佳と登校することはやぶさかではない。途中までは歩いて行って、教養棟で別れた後に自転車に乗ればいいか。

 だったら、そこまで悠長にしてる暇はないな。

 俺は少し焦って食事を済ませ、身支度を整える。そして、永佳と共に家を出た。

「そういえば、真武くん起こさなくてよかったの?」

「マックスは研究室のコアタイムに合わせて動いてる。十一時からだから、当分起きてこない」

「ふーん、そうなんだ」

 俺は進級して三年に、マックスは四年生になった。マックスは去年の十二月あたりに研究室に配属され、研究三昧でかつ学祭実行委員会に参加しているためかなり忙しくしている。

 さらには学祭実行委員会の最後の仕事こそが次の六月に行われる春楡はるにれ祭と呼ばれる大学の学祭なので、マックスにとってはここが正念場だろう。

 そして、マックスにとっては大学院に進学するから就活をしていないのがせめてもの安寧だろう、きっと。

 そんなことは置いておいて、俺は今一度永佳を観察してみる。

 フェミニンな印象のあるキャメルのダッフルコートの中に白のニットを着込み、ニットの裾をひざ下丈でウール生地の暖色系のチェックスカートの中に入れている。そして、黒タイツにブーツを履きこなしたスタイル。

 赤色のベレー帽にゆるく大きな三つ編みにした女の子らしさを感じる服装だ。先日の服装は女子の上に武骨なジャケットの甘辛コーデだったが、今回の女子を足して足した甘々なスタイルもとてもよく似合っている。さすがはモデルだ。

「なに、そんなにジロジロみて」

「いや、相変わらずおしゃれだなぁって思って」

「あっそ。それにしてもやっぱりこっちは寒いよね。四月になってまだコート着なきゃいけないとか異常……」

 冬の方が重ね着とかできておしゃれに幅が出来ていいという声も聞いたことがあるが、さてどうなのだろう。

「学祭の時期も雨降ったらコートとまではいかないけどジャケット着ないと寒いからなぁ」

「ふーん、覚えておくわ」

 そんな他愛もない会話をしながら登校をし、教養棟にたどり着く。

 だが、入学式などもありかなり噂になっているのか、永佳を目撃した学生たちが少しざわざわしている。

 なんで、男と? みたいな声も聞こえてくる。

「他の学生も慣れて騒がれなくなるといいな」

「うーん、そうだね。でも、まぁ、みんなもすぐ飽きるでしょ。じゃ、灯貴、また後でね」

 永佳は俺にバイバイと手を振ってくる。

 うーん、なんとも可愛い。なんとなく少しの優越感すら感じてしまう。

 俺はその後ろ姿を見届け、自転車に乗り込み、一限の授業へと向かった。

 講義のある教室にたどり着くと、俺はいつも座る席へと向かった。

 そして、その席の隣にはいつもそいつがいる。

「おはよう、春原くん」

「いつも早いですわね、鈴木太郎くん」

 俺の親友鈴木太郎くん。

 黒髪ロングの可愛い女の子なのだ。

「そんなことはないのよ、嘘野塊くん」

「ところで、その嘘野塊ってなんか響きがいいね。なんというか、中臣鎌足的な音の良さがある。ところで君の本当の名前はなんて言ったっけ?」

「それはひどいわ。中学生の時からずっと同じクラスで、大学でも同じ学部だというのに。特に高校生の時なんて教科書を見せてあげたり、古文の授業の時もあてられて困ってたところを助けてあげたりしたのにそんなことをいうのかしら」

「実は私記憶喪失なんですのよ、をほほ」

「ふーん、そうなの。私の名前は舞条三」

「サンちゃんかぁ、とても変わった名前だね、鈴木太郎くん」

「…………」

「あ、間違えた、三条舞さん」

「はい、それが本名よ。思い出した?」

「……そろそろやめるか」

 俺は自分から始めた茶番を終わらせることにする。

 何も考えずとりあえず三条舞と戯れてみたが、どうにもこういうふざけたノリは高校生のうちに終わらせておくべきだった。

「天邪鬼さんのお世話は大変ですね」

 三条舞は小さなため息をついて、俺の顔を見つめてくる。

 あらやだ、恥ずかし。

「君に惚れたよ、僕の子孫を残してくれないか?」

「えっちな人は嫌いよ?」

「え、子供ってスーパーカーが運んできてくれるんじゃないの?!」

「コウノトリが運んでくるとすら今どきの小学生は思っていないのよ? 男性器を女性器の中に挿れてピストン運動を繰り返して、射精した精液に含まれる精子を卵子がうけとっ、」

「ストーップ!」

「…………?」

「俺が悪かった、俺が悪かったよ、舞ちゃん」

 えっちな人が嫌いという人がそんな詳しく話してもいいのかよ。いや、そういう自覚ゼロなんだろうが。あくまでも、男性器女性器精液だからな、保健の授業的なノリで話しただけなんだろう。

 間違えても下ネタなのではなくて性教育的なノリなのだ。

 舞ちゃんは正直、俺にもつかみどころのないよくわからないやつだ。本人にお前の性格はよくわからないな、っていうと俺にだけは言われたくないと言われた記憶がある。

 失礼しちゃう、俺はよくわかる男だというのに。

 まぁ、でもとにかく中学生時代からずっと一緒であるからこそ、自分の素を出せる数少ない友人の一人だろう。

 舞ちゃんは実際に目に入れたら痛いけど、結構に綺麗な女子だ。中学のときから大人びていて、深窓の令嬢なのではないかと思われるほど清楚オーラを放っている。

 俺は自転車を思い切り漕いだせいで少し火照った体を沈める様に携帯していた冷たいお茶を飲み始める。

「ところで、春原くん」

「なんだい、舞ちゃん」

 呼びかけに応じ、さらにもう一飲み。

「元アイドルのEIKAと見せつける様に大学デートをした上に今日は朝からイチャラブ登校を決めていたって本当かしら?」

「ぶふっ」

 と俺は口に含んでいたお茶を前に座る男子生徒に盛大にぶっかけてしまう。気付かれてないから無視する。

「どこでそれを……」

「今の情報社会で無防備に姿をさらしたら、こうなるに決まってるわ」

 と舞ちゃんはSNSのその登校写真の投稿を見せびらかしてくる。

 o,oh……。然もありなん。

 思えば、理系だからこそ男子生徒が多いためかなんとなく熱視線を感じる気がする。

 これは耐えられそうにない……。

 俺は思い切り立ち上がる。

「みんな聞いてくれ、そのなんとかかんとかって人のことは知らないんだ! たまたま道案内を頼まれて、たまたま今日再会しただけなんだ! 信じてくれ! そして何より、俺の隣にいるこいつこそが俺の彼女だ!!」

 俺がそう叫ぶと、隣の舞ちゃんは度肝を抜かれた顔をする。

 それに対して俺はすまん、巻き込まれてくれ。と目配せをする。

「隣のアホの彼女らしいです、今年一年改めてよろしくお願いします」

 ぺこりと礼儀正しくその場でお辞儀をする舞ちゃん。

 俺が彼女をとっかえひっかえしている事実は学科の人々にはほぼ認知されていない。

 むしろ、常に一緒にいるからこそ三条舞と付き合っていると思われている節があるからこその苦肉の策だ。

 俺がそう叫んでも信じられるかはともかく、舞ちゃんが言うのならそうなのだろう、と熱視線を浴びせてきた男どもは鎮まる。が、何人か別の奴が熱視線を浴びせてくる。

 なに、この地獄……。

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