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俺だってドラマみたいな恋がしてみたい!  作者: 満点花丸
第一話 とある日、少女との再会
7/24

六話

 俺らの通う大学は一応国内でも有数の国立大学だ。その敷地面積は全国1位だか2位だかで、大学の端から端まで2キロ近くはある。俺の実家はその一番北側にある。

 そのため、大学へ向かうといっても、大学にたどり着くこと自体ではそんなには歩かない。

ただし、紹介するにあたって、結構な距離を歩かされる羽目になるだろう。

 俺たちは普通の学生からするとあまり馴染みのない研究棟の建物が連なる区画から大学へ入り、最初に永佳に紹介すべき教養棟と呼ばれる一年次に入り浸ることになる建物を案内する。

といっても、教室などは特に紹介するまでもないので、事務だとか書類提出するようなところを案内して周った。

「一応、ぐるっと一周したここが一年次に講義を受けたりなんだり基本的な生活をする教養棟だ。ところで、永佳はどっちなんだ?」

「あたしは総合文系。文学部に行きたいからね」

「そうか。俺は総合理系だったから、文系に関してはよくわからないが大体勝手は一緒だろう」

 教養棟のすぐ裏には大学で一番大きな学食があり、サークルや部活に従事する青春野郎たちはそこでたむろしていることが多い。部室を持たないサークルが多い上に部室棟は少しばかり離れたところにあるせいで、部室で活動しないところは大体食堂の一角や二階の談話室のようなところを不当に占拠し、公共の場であるにもかかわらず我が物顔で利用している。

「ねー、お腹すいたし、学食でご飯食べない?」

「それもそうだな。ちょっと早いけど、昼飯にするか」

 と俺らは件の食堂へと向かう。

 俺はかけそばを、永佳はかき揚げそばにエビ天やらちくわ天やら色々なてんぷらをトッピングして食堂の席に着いた。

「お前、そんなにトッピングしたら、太るぞ?」

 と少しディスってみる。

 だが、永佳はふふんと鼻高らかに、

「しっかりカロリーを取っておかないと踊るとき体力持たないし、出るところも出ないし、鶏がらみたいな不健康な足になっちゃうじゃん」

 と自分の意見をご披露してくる。

 だが、明らかに脂質と炭水化物過多だろうに。しかも、もうアイドルじゃないのだからそんなに炭水化物からエネルギーを得て、消費可能かすら怪しい。

それならもう少し炭水化物を減らしてタンパク質を摂取した方がいいんじゃないだろうか。とは言わないでおく。

「なるほどなぁ。ちゃんと考えてるんだな、さすがはプロだ」

「さっきからその微妙に褒めてくるのやりにくいんだけど……」

 俺はそんな突っ込まれても、普段からこうしてるから特に何とも思わず、貧相なかけそばを啜る。

 俺がそばを啜っている間に、なぜか食堂がざわざわし始める。

 永佳の方を一瞥すると、永佳はそばを啜るときに落ちてきた髪の束を左手で耳にかけなおし、そばに向かってふぅふぅと息を吹きかけている。

 なんていうか、すごい、エロく見える……。

 いや、沈まれ俺の妄想。

 だが、きっとその光景に目を奪われているのは俺だけではないのだろう。

 食堂がざわざわしているのは永佳の方に注目が行ってしまっているからだ。

 耳をそのざわつきに傾けてみると、え、あれEIKAじゃない? とか、元アイドルの夏目永佳だ……という声が聞こえてくる。

あれ、あの人三年の春原さん? とかそういう声もちらほら聞こえてくる。

 俺は有名人ってほどでもないけど、どうやら注目されるくらいの容姿はあるらしく、たまになぜか俺のことを知っている女生徒もいたりする。

「永佳、ばれ始めてる。さっさと食べていこう」

「あたしは別にそこまで気にしないけど、大学見学できなくなるのはちょっと惜しいし……、ちょっとまって」

 俺はさっさと食べ終わることが出来たが、永佳は大量のてんぷらに四苦八苦しながら、間食する。

「うぅ……、食べ過ぎた」

「よし、休みたい気持ちはあると思うが、急ぐぞ」

 と、俺は永佳の分の食器などを俺のトレーに移し、永佳の腕を引っ張り、さっさと食堂を後にする。

 何人かの学生が付いてきているが、気にしなくてもいいだろう。

 俺らはとりあえず食堂を出て、大学を一直線に貫くメインストリートに躍り出る。

 このメインストリートに主要な建物と緑豊かな街路樹が並び立ち、ある種の観光名所のようなものにもなっているのも大学の特色だ。

 永佳は理系の学部ではないので、正門の近辺に固まっている文系棟に案内して今日はおしまいでいいだろう、おそらく。 

 だが、俺らの行く手をさえぎる輩が数名。

「あ、あの、永佳ちゃん! ファンです!」

 と名乗り出る男や、

「EIKAちゃん! 写真とってもいいですか?! なんでうちの大学にいるんですか!?」

 などとプライベートなのにもかかわらずいきなり図々しく質問攻めにしてくる女が何人か跋扈する。

「はーい、君たち、今はプライベートなので、写真撮影等はお断りしていまーす」

「灯貴、別にいいよ、写真くらい。でも、写真撮ったら、今は学校見学に来てるから、ゆっくり見学させてほしいな?」

 と永佳は慈悲深き心と上目遣いのコンボで周りの学生をきゅんきゅん星に昇天させてしまう。

 それからはファンにサービスとして、男たちには握手をしてあげて、ツーショットで写真を撮り、女たちには結構フレンドリーな感じで腕を組んだりして写真を撮る。

「我が生涯に一片の悔いなしぃいいいい」

 と右腕をつきあげ、叫びながら走り去っていく最後の男の背中を見届けやっとこさ野次馬ラオウ、じゃなくて野次馬野郎たちから解放される。

「とりあえず、教養棟はざっくりこんな感じだ。そこに見える図書館も結構自習するのに使ったりもする」

「おっけー。じゃあ、次は?」

「この周辺だと後は特に永佳に関係しそうなところはないかな。2年になってからは正門の方しか行かないだろうし。じゃあ、文学部の建物に行ってみるか」

「うん! あ、でもちょっとまって。ここで待っててもらっていい?」

 と永佳は特に理由も説明せず、教養棟の方へ走っていく。

「おーい、永佳! どこに行くんだよ!」

 俺は永佳の背に向けてそう投げかけるが、

「察しなよ、ばかー!」

 と永佳は振り向きもせず叫んだ。

 うーん、トイレか。アイドルもトイレに行くんだな、と白々しく思ってみる。

 それから俺は何もなくただ待ち惚けを食らい、それなりの時間が経っても永佳は戻ってこない。

 大きい方か、などと考えなくてもいいことまで考えてしまうあたり、俺もどうかしているのかもしれない。

 そう考えていると、永佳はニコニコしながら俺の元へと戻ってきた。

「ずいぶん遅かったな」

「それがさ、さっき食堂で私たちのこと見てたって子が話しかけてきてさ、四月から入学で同じ総合文系で文学部狙ってるって言ってて連絡先交換しちゃった」

「なるほど」 

俺らは合流するとすぐに文系の学部が集まるエリアへと足を進める。

 しかし、何歩か歩いた後に、俺はある懸念に思い当たってしまう。

「って、それって男じゃないよな?」

 俺らの通う大学は偏差値的にはそれなりに高いが、やはりどこにでもそういうやつはいるもので、下級生食いを目当てに教養棟の食堂に入り浸るやつもいるし、ナンパするやつもたまに見かけたりもする。

だからこそ、いきなり声をかけてきて連絡先交換なんてしてくるようなやつが男であればそんなの下心丸出しのやべー奴っていうのがわかりきっているはずなんだが。

「まさか! 女の子だよ。ふわふわした感じで人畜無害そうな可愛らしい子だったよ?」

「そうか、それならいいんだ……」

 ため息交じりに俺がそういうと、永佳はニヤニヤしながら、

「悪い虫がやってきても、灯貴先輩が助けてくれるんだよね?」

 隣を歩く永佳は俺の顔を下から少し覗き込み悪戯っ子のようにいってくる。

 くそ、あざといなぁ。

「そんときは、そりゃ幼馴染のよしみだしな」

「照れてる? 照れてんのー?」

 照れてない!

 まったく、本当にこんなの俺の知る永佳じゃない。

 人がその可愛さゆえに変な奴が近づいてくるんじゃないかと気が気でないのに、何を言ってるんだこいつは。

「まぁ、心配してくれてありがとね。でも、アイドルの時に変な奴のかわし方とか学んできたから、そこまで過敏に反応することないからね? でももし、力づくでこようとしてる人がいたら……、灯貴に助けてほしいかな」

「え? なんで俺? 腕力だけで言ったらマックスの方が全然あるし」

 も、もしや、これはフラグ、なのか?

 実は永佳も俺のことをずっと好きで……。なんてことはないか。

「まぁ、そりゃ……幼馴染だし、ね?」

「そんなもんか?」

「そんなもんだよ。別に誰に助けられても感謝はするけど、知らない人に助けられるくらいなら、灯貴に助けてほしいよ、そりゃあね」

 どこからこのあざとさを手に入れたのやら……。

 俺は永佳から目をそらし、メインストリートに残る雪を眺め始める。

「あはは、今度こそ照れてるー」

「照れてない、雪を見てるだけだ」

「あっそ。あ、イチョウ並木! 懐かしいね」

 俺らはそんなやり取りをしている間に、大学でも随一の観光スポットのイチョウ並木が見えるあたりまで来ていた。

 小さい頃は永佳の家族とうちの家族で紅葉を楽しんだ記憶が微かにある。

 秋になると、ライトアップもされてその景色は圧巻だ。今はまだつぼみも芽吹いていない寂しい感じではあるが。

 永佳は一度道を外れて、そのイチョウ並木の方に行く。

 そして、軽やかなステップでイチョウ並木の木々の間を右往左往する。

 確かに永佳は俺の知らない永佳になってしまったのかもしれない。それでも、永佳の中では俺との思い出も少しは大事にしてくれているのだと思えてくる。

 これが葉も花も咲かせていない木でなければ、もっと画面映えしたかもしれない。

 でも、永佳のその姿から俺は目を離せないでいた。

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