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俺だってドラマみたいな恋がしてみたい!  作者: 満点花丸
第一話 とある日、少女との再会
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四話

 ある程度の仮眠をし、頭痛薬もある程度効いたのか嘘のように二日酔いの辛さは軽減されていた。

 シャワー等の準備を済ませたうえで、俺は自室でデートに着ていく服を模索しながら、“例の物”を学習机の引き出しから発掘する。何といっても十年前の代物だ。くしゃくしゃに握りつぶされた跡があるが、しっかりともう一度元の姿に戻そうとした努力の痕跡が見える、手紙。

 この手紙は誰からのものであるかはわからない、というかいたずらの類のものであったことを俺は承知している。

 それを開けてみると、くしゃくしゃになって読みづらいが、

『伝えたいことがあります。放課後に三角公園で待っています。 I am Eika.』

 と書かれている。

 一見、永佳からの手紙に見えるが指定されたところにいたのは永佳ではなく、男女双方からいじめを受けていたクラスメイトの女子だった。

 この時の手紙の筆跡は明らかに永佳の筆跡だったので、俺は永佳がいじめに加担し、その告白自体が少女への嫌がらせの茶番であることを俺は察したことを覚えている。

 なぜ、永佳がそんなことに加担したと思えたのかもはっきりと理由があって、永佳と俺が通っていたこども英会話教室に少女も通っていて話をしていたし、彼女がいじめられている現場を目撃して助けたことを知って怒っていたこともあった。

 だからこそ、あんなことに加担した永佳が許せなくて、失望すらした。

 しかし、その数日後に俺は親から永佳が引っ越しをしたことを知らされた。

永佳との突然の離別とその出来事による怒りと悲しみがごった煮になった状態で、わけがわからないまでにしばらく落ち込んだことがあった。

 その気持ちが恋心に由来するものだと気付いたのはもっと後なのだが、その後少し成長した俺は永佳への恋心を忘れるためにはドラマみたいな恋をするしかないと考えるにいたって、今はこんな変な感じになって行った、のだろうと思っている。

 だが、その永佳が帰ってきた。あの当時とは少し違って見えるけど、それでも永佳は帰ってきたのだ。

 だから、昨日今日の出来事はもう忘れる。

 俺の小さな恋心はまだ少しばかり生きている。

 それは俺の心臓が少しずつ鼓動を速めていることが教えてくれた。

 永佳と付き合う。これを当面の目標として、行動してやる。

「灯貴、そろそろ行くよー?」

 とノックと共に永佳が部屋に現れる。

 俺は慌てて手紙を再度机にしまい込み、お気に入りのジャケットを着こむ。

「ふーん、灯貴は顔だけはいいし、いい感じじゃん」

 永佳は俺の姿をまじまじと見つめ、そう褒めてくる。余計な一言がなければとんでもなく嬉しい褒め言葉であったに違いない。

 とりあえず、その褒め言葉を素直に受け取るポーズをとることにする。

「お、そう思うか? 顔だけはいいってところは無視できるくらい嬉しいなぁ。永佳こそメイク可愛しいおしゃれだし、すげー可愛いよ」

 そして、女の子が喜びそうな言葉を選び、べらぼうに褒め返す。

「……きも。いきなり褒めちぎるとか、何? あんた、あたしを狙おうとでもしてんの?」

 せっかくいつも女の子にするように褒めたのに、なんでそんなこと言われなきゃいけないの……。

 泣けてくる。俺の知る永佳はきっと、えへへ、ありがと、トモくん♡って言っていたに違いない。

「ま、まさかぁ。あはは、俺ら幼馴染だろー?」

「そうよね。しかも、昔あんなこと言っておいて今更あたしを口説こうなんて、するわけないよねぇ?」

 あんなこと……?

 いや、おそらくあれだ。

 ラブレターの件で、怒った俺は永佳が転校してしばらくした後に永佳がこっちに少しだけ戻ってくるから話したいとかなんとかかんとか電話して来たので、もう顔も見たくない、二度と電話してくるな的なことを言ったような言っていないような。

 ってことは、それを根に持ってるのか、こいつは!

 どうやら、俺のさっきの決意はなんだったのっていうレベルで俺は好感度がマイナスの状態でスタートしているらしい。

 まぁ、いいだろう。ここから俺の成り上がりが始まるのだから。

 いつも女の子にするように気を遣い、褒め、そして時にディスり、でも優しくして、ちょっと強引なところを見せればきっと永佳もイチコロだ。

 完璧だ。

「永佳、それより大学に行くときに少しでも変装しておかないと、ばれて学校見学にすらならないんじゃないか?」

「んー、あまりこてこてに変装してるとあからさまに怪しいし。今日はいつもとメイク変えてるし、伊達メガネとこのベレー帽かぶっておけば大丈夫でしょ」

「そうか……」

 本人がそういうならそれで間違いないだろう。

 俺みたいな素人よりもよっぽどそういうことは経験しているわけだし、わかっているだろうし。

 そんなやりとりの後、俺らはまずは大学近くの不動産屋さんへと俺らは向かった。

 だが、そこで告げられたのは、

「お客様のご希望でご紹介できる物件はありませんね」

 という事実だった。

 永佳が出した条件は特にそこまで厳しい条件ではない。大学徒歩圏内でオートロック付き、風呂トイレ別、築年数浅めの鉄筋コンクリートのマンション。可能であれば、エアコン付きかエアコンが取り付けられることだ。

 もちろん、これで格安の物件でとか言い始めたらどこにもないだろうが、家賃等はある程度高くてもいいということなので探せばどこかにはあるだろう。

だが、そもそも大学近くのマンションで永佳が住まいたいような優良物件はとっくに売れてしまっていたらしい。

「だって、今もう三月も終盤だもんなぁ」

「そうですね、大学近くになりますとご希望に添えない物件しか残っていないことの方が多いですね。数駅離れた場所やもっとグレードの高いマンションでしたら……」

「でも、繁華街の方は嫌だし、この辺がいいのよね……」

「何も大学近くじゃなくてもいいんじゃないか? どうせ駅から歩いてすぐなんだし」

 と言っても、永佳はうーんとうなりながら俺の顔を見つめてくるだけである。

 永佳はもう一度希望の条件に合致する物件だけど数駅離れた物件と、家賃が10万を超える家族住まいすらできそうな広さの物件をにらめっこしながら頭を左右に揺らしながらうなり続ける。

「せっかく戻ってきたのに遠い所に住んだら意味ないんだよなぁ……。さすがに、家賃10万超えは仕事増やさなきゃいけなくなっちゃうし」

「悩むくらいならもっと早く物件探しにくればよかったじゃないか」

 と俺はもっともらしい突っ込みを入れるが、今更そんな突っ込みをしたところで意味はないんだよなぁということはわかっている。

「ちょっと仕事建て込んじゃってさぁ……。うーん、わかりました、ちょっと考えてみます」

 永佳は突然立ち上がり、さっさと不動産屋さんから出てしまう。

「って、永佳! ごめんなさい、またあとで来るかもしれないので、よろしくお願いします」

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