表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺だってドラマみたいな恋がしてみたい!  作者: 満点花丸
第四話 変わっていくことと変わらないこと、そこにドラマはない
24/24

二十二話

 俺は冷静にさせる方向ではなく眠らせる方向にしようと考え、中ジョッキを二杯頼み、仕方ないので俺もこんな時間から少しだけ飲むことにする。

 じゃないと、この状況に耐えられそうにもない。

「舞ちゃんがやばい、やばくないかは置いておいて、もはや腐れ縁だからなぁ」

 俺はこれまでの舞ちゃんとの出来事を思い返しながら、本当に腐れ縁だなぁとしみじみと思う。

 だが、その腐れ縁という言葉に、永佳は少しだけ体をぴくっとさせて反応を示す。

「……その腐れ縁、どこまでが縁だと思う?」

「は? そんなの全部そうだろ。たまたま俺と舞ちゃんの趣味趣向、得意な事、学力が一致してるから高校も大学も一緒になったわけだし。委員会だって、俺と一緒にいるところをマックスが頼んで入ってくれたんだ」

「ばうばう!!」

 永佳は俺のその一言と舞ちゃんのその言葉に対する肯定かのような鳴き声にため息をつく。

 そして、別の方向から、

「ちゅ、中ジョッキですぅ……」

 と苦笑いを浮かべながらやばい物を見ているかのような顔をする店員さんがお酒を持ってきてくれたため、俺は永佳の仕事帰りを昼からねぎらう乾杯をする。

「ほら、舞ちゃん。お茶だよ、飲みな」

 俺は無理やり舞ちゃんにお茶と偽り少しだけビールを飲ませると、舞ちゃんはその少しのビールで完全にダウンしてしまう。

 本来なら危険なんだろうが……、この方が早かったな、やっぱり。

 何回か経験していることだから、俺は舞ちゃんがこれで泡を食って気絶する状態ではないということくらいはわかっていた。でも、絶対によいこはマネしちゃだめだぞ。

「灯貴がそんな感じなら仕方ないね……。それはあたしには関係ないし。ところでその舞ちゃんに聞いたんだけど、灯貴は女とっかえひっかえしてるくせにドラマみたいな恋に憧れてるクソ童貞なんだって?」

 永佳は舞ちゃんが眠ったことをいいことにお酒のノリなのか俺の妄想全開の思想についてニヤニヤしながら問うてくる。

「……悪いかよ」

 俺の記憶にはないが童貞ではなくなってしまったがな!

 もちろんそれを胸を張って言えるわけでもないので、俺は黙っておく。

「そうねぇ。幼馴染がそんなキモイ思想を持つようになったっていうのは見逃せないのよねぇ」

 永佳は手元にあるレモンサワーを一口のみ、静かにジョッキを置く。

「ま、でも悪くはないよ。確かに憧れるよね。パンを咥えて急いで登校してたらドストライクのイケメンとぶつかって恋に落ちちゃうとか。冴えない自分をなぜか気に入ってくれて守ってくれる俺様系のイケメンに出会うとか、頑張って自分を磨いて芸能人になったら、憧れのアイドルグループのイケメンに気に入られて口説かれちゃうとか。あとは……、美人になって地元に帰ってきたら、幼馴染の残念な男に追いかけられちゃう、とか?」

「最初の以外少しばかりか実体験が混じってそうな言い方だな、それ」

 特に最後から二番目のやつとか。

 気にしないようにしてきたが、永佳だってアイドルグループに所属して色んな人に憧れられて、恋愛禁止的なものがあっても陰でこそこそイケメンと付き合ってたのかもしれないし、今だってそうなのかもしれない。

 というか、その可能性を全く考えていなかったな……。

「例え話だよ。それでそんなドラマみたいな恋に憧れる春原灯貴氏はどんなドラマみたいな恋に憧れているのかなぁ?」

「どんなドラマみたいな恋って……」

「ほら、ドラマみたいな恋っていってもいろんな恋がドラマになってるんだから、それがどんな恋かなんて一言では言えないでしょ」

 確かに改めて聞かれるとどうなんだろうな。

 俺のこの思想のきっかけは永佳のことを忘れるためだったにせよ、今みたいに彼女が出来てもすぐにフラれてしまうような気持ち悪い思想に変わっていったのはなぜだろう。

 ドラマみたいな恋、と一言で言うがそれはどんなものなのかすら自分自身でも曖昧な気がする。

 女は顔だとか金だとか性格がとか、男はヤリたいだのなんだのかんだの現実ではそんな恋愛が当たり前なのかもしれない。

 それを現実の恋愛と定義すると、俺はそういう恋愛で何かを満たされるなんて思えないし、その満たされない事実を言うからこそ、気持ち悪がられているのかもしれない。

 結婚しないならやらないとか、顔以外のところもしっかり見てほしいとか、今回は奢らないって言ってみたりとかしてフラれてきたわけだし。

 永佳が言うように色々な形の恋愛がドラマや映画になっているわけで、俺が今定義した現実の恋愛だってドラマのネタにはなっているだろう。

 逆に、どこか現実的にありそうでなさそうなイベントが起きないとそれはドラマみたいな恋とは言えないのだろうか。

 やはり、いまいちわからない。深く考えたこともなかったが、その思想に至るきっかけは永佳への恋心と、おそらく永佳がいなくなってもやもやしていたことが恋愛感情であることを教えてくれた漫画やドラマだっただろう。

 俺のこの思想の根源、永佳への恋心は一体どこから来ていたのか。 

 それは常に一緒にいたことだったろう。

 別に理由もなく永佳が隣にいるのが当たり前で、永佳と一緒に何かするのが当たり前でお互いがお互いのことを認め合って、心で通じ合っていたあの感覚。

 上辺でも打算でもなく、心底純粋にお互いを意識しあっている感じ。

 そして永佳がいなくなった後、その心の正体を知りたくて読んだ漫画やドラマは必然的にそんなような幼馴染同士の恋愛で、簡単にそれが恋心であることを教えてくれた。

 そして、理由もなく一緒にいるのが当たり前であるあの感覚が好きだということを俺に教えてくれた。

 だからきっと、昔の純粋な永佳への感情、永佳からの感情こそが今思っているドラマのような恋なんだと思う。

 こういうとそれってドラマのような恋というのか疑問だが、少なくともそう感じられるような出会いを果たしているだけで俺にはドラマよりもありえないものだと思える。

 俺は永佳の質問に対して、自分なりの答えを明確にしつつ、永佳との過去のことを隠して説明することにした。

「きっと、上辺とか打算で恋愛をするのが嫌で、何か理由があるから一緒にいるんじゃなくて、何も理由がなくても一緒にいられる、そんな純粋な恋がしたいんだ、きっと」

「ふーん……、それでか」

「ん? 今、永佳は何がわかったんだ?」

「さぁね」

 永佳は一度目を伏せ、さらにレモンサワーを一気に飲み干す。

「あたしは一回しか恋をしたことがないし、それ以外の他にどんな恋愛があるかなんてそれこそ創作の中でしかわからないけどいいんじゃない? といっても、そんなの探してもしたいと思っても見つかりっこない気がするけどね。それじゃ、あたし先に帰るから、三条さんよろしく。お会計は手間賃として払っておくから、これ以上頼むなら自分で払ってね。じゃ、ばいばい」

 永佳は突然、俺が相槌や何かを言う間もないほどにそうすらすらと言い放ち、これまでの会計を手に取り、席を立ってしまう。

 風のように逃げ去っていった永佳を見守り、俺は永佳の言葉の一部分のみをきりとってすこしだけドギマギしてしまう。 

 一回しか恋をしたことがないって……、えっと。

 それって、そういうことだよな……。俺の勘違いではないよな。

 そう考えていると、少しばかり顔が熱くなってしまう。いや、そこで照れても仕方ないだろう。

 俺は永佳の言い分を少し考える。それは正しくて、探してもそんな恋をしたいと思っても、見つからないだろう。

 改めて考察してみて、俺が思ったドラマみたいな恋を明確にしてはみたけど、俺がここまで付き合ってきた永佳以外の人たちには当然一緒にいる理由があるんだ。

 それに、理由もなく一緒にいるのが心地よいから一緒にいたいというのも実際には一緒にいる理由になってしまっているわけだし、矛盾した状態だ。卵が先か鶏が先か状態だ。

 そんな恋愛ありえっこない。

 まぁ、いいだろう。とにかく、ここでグダグダ考えていても、答えが到底見つかる話には思えない。

 とにかく、俺が追い求めているものはそういう恋なんだ、それでいいだろう。

 そう思えば、後は舞ちゃんをどうにかして家に帰して、俺も今日は家に帰ろう。

 俺は自分のビールと舞ちゃんに少しだけ飲ませたビールを一気に飲み干し、お店にタクシーを手配した。

 どうにかこうにか舞ちゃんをタクシーに乗せて、舞ちゃんの学生証をスマートフォンのカバーから発掘し、その住所を運転手のおじさんに伝えて、向かう。

 これまでこんなことが起きても居酒屋ではなく誰かの家やどこかの宿泊施設だったので、これが舞ちゃんの家を初めて見ることになる。

 タクシーの運転手のおっさんがその住所に着いたことを伝えてくると、そこにあったのは深窓の令嬢が住むような豪奢できれいな豪邸ではなく俺の家からそこまで離れていない小さなボロアパートだった。

 俺の想像していた舞ちゃんの家なんてどこにもない。

 本当に俺も舞ちゃんのことは上辺だけで見ていて、舞ちゃんのプライベートのことは何も知らないんだな、と痛感してしまう。

 俺はタクシーから何とか舞ちゃんをおろし舞ちゃんのカバンから家の鍵を拝借し、その内の一室の部屋の鍵を開ける。

 舞ちゃんが眠っている間に部屋を物色するような真似はいくらなんでも出来ないため、舞ちゃんを玄関でそっと寝かせ、俺は自分の羽織っていたジャケットを舞ちゃんにかけてあげる。

 玄関には男物の靴なんて一切なくて、女性もののパンプスや舞ちゃんが履いているのを見たことがあるサンダルなどがいくつか置いてあるだけだ。

 舞ちゃんが一度も自分の()()()()()()を話さなかったのは、きっと俺にはこのことを秘密にしたかったんだろう。

 勝手に見てしまい、しかも、舞ちゃんの家庭環境に関して勝手に察してしまい、申し訳ない気持ちになりながら俺は部屋を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ